29 第2章プロローグ 悪夢はされど、我らに付き纏う
「きゃああああああああ!!」
「た、助けてくれぇ!!」
悲鳴が聞こえる。
皆が嘆き、苦しみ、逃げまとう様子が見える。
そこら中にある建物は燃え盛り、数々の死体が血を流して倒れている。
そこにあるのは絶望と、言い表せないほどの恐怖のみ。
そんな中、僕は起きる。
「え.....?」
まるで、大きな爆弾がこの街に直撃したような、混沌とした光景に僕は思わず見入る。
先ほどまでベッドに寝そべっていた僕は、気づけばこの終焉の世界に迷い込んでいた。
僕は寝ぼけていた意識を急いで持ち上げ、この火の海の中で立つ。
「一体、ここは...何が....」
大きく混乱する中、あたりを見回し、今起こっている情景の事実を確認しようとする。
肝心であることは、まずは落ち着くこと。
何故ここにいるのか、ここは一体どこなのか。
とりあえず冷静になり、状況を整理しよう。
僕は情勢を確認するため、この場所を奔走した。
今度は、その絶望を目に入れるだけではなく、情報をしっかりと集めるようにして。
逃げまとう住人、嘆き悲しむ住人。
救助活動に励む兵士、遠くで剣を弾き、何かと戦う兵士。
そこら中に散らばる瓦礫と、多くの建物から火が噴き出す戦時中のような光景。
走りながら、見えた大部分はこの4つだけであった。
長く回り続け、道中に人助けもしていると、僕はあることに気がついた。
それは、僕がこの場所をどこかで見たことがあるということだ。
この炎で焼き尽くされている場所をだ。
火にさらされているが、最近、直近でどこかで見た場所。
大きい土地を有している、広大な場所。
こんな大きな街を直近で見たのであるならば、そんな場所は一つしかない。
エルファス王国だ。
瞬間、僕はぐるりと背を向けて全力で駆け出した。
一度だけ見た、街から見上げた立派な山の天辺へと。
火の海の中、元王城が建つこの王都の中心部へ。
焦りと不安で押しつぶされそうな中、その一点を中心に僕は走り続けた。
上へ、上へ、と登り、やがて僕は王城が建っていたはずの場所へとやってきた。
「はあ、はあ.....クソッ.....!」
あたり一面に広がる王城を形作っていた瓦礫をどかし、遠くから聞こえてくる剣と剣がぶつかり合う音の方へと向かう。
焦る気持ちを抑え、多くの障害物をどかし、原因の渦中と思われる場所まで急いで行く。
程なくして、目的地へ辿り着いた僕は、言葉を失った。
「な.....」
腹部に大剣を刺され、大量に血を流しながら倒れるユリウス。
体を真っ二つにされ、体が血一色に染め上げられているエヴリンさん。
その二人を、涙を流しながら、恐怖の眼で見るエリー。
以前とも、数日前に話した人たちばかり。
僕の...僕の大切な人たちだ。
「どう、して...」
エリーの楽しそうな表情と、ユリウスの優しい微笑みが脳裏に浮かんでくる。
あの、楽しかった彼らとの時間。
それを思い返し、今の現状に振り返る。
この悲惨な現状に。
僕は彼女たちへと駆け寄り、状態の確認をする。
王様の姿はみるも無惨で、とても形容し難い状態だった。
目をゆっくりと背け、僕は声を必死にかけるエリーと、その隣で横たわるユリウスの方へと向かった。
僕が駆け寄った時のユリウスは、とても弱っており、今にも息を引き取りそうな状態だった。
エリーは泣きながら、ユリウスの腹部を布生地で押し付け、流れ出る血を止めようと必死だった。
その姿はとても脆く、僕が手の触れる距離に近づくまで、彼女が僕の存在に気づかないほどだった。
彼女が僕のことに気づき、こちらを振り向いた時、彼女多くの涙を流し、顔を真っ赤にしながら、僕に助けを求めながら抱きついてきた。
僕はそんな深刻な状況を理解して、不安そうなエリーを落ち着かせ、ユリウスの応急処置をしようとしたその時、ユリウスが自身の腕を伸ばし、僕の手を掴み、治療を止めた。
僕は驚いて彼に言葉を発そうとしたが、言葉を紡ぐ前に、ユリウスはそのまま力強く、僕を彼の顔の近くまで引っ張った。
そして、彼は数文字、たった数文字だけ発して、そのまま息たえた。
「ひ、め....様を、連れ....て、逃げ、ろ.....」
彼は最後の言葉を言い終えると、力をこめていた手を解放し、引力の赴くまま、腕をドサリと地面に向かい落とした。
彼の動向からは光が消え、瞬時に体から熱が引いていくのを感じた。
力強かった腕からは、その暖かささえ消え去り、僕は姿勢を直して死体の彼へと向いた。
彼をここまで残虐に、かつ簡単そうにひねり潰す敵。
彼にして負け、逃走を余儀なく選択させるほどの強者。
それは一体、どんなに恐ろしい敵なのだろう。
僕は童謡の中、何か大きく嫌な予感がして、すぐさま立ち上がり、エリーを連れて逃げようと彼女の手を取った。
だが、彼女にはショックが大きかったのだろう、まるで廃人のように死んだ二人の姿を眺めながら、ただただ涙を無表情で流しているだけだった。
彼女はいくら僕が引っ張っても、ピクリとも動こうとせず、顔を下に向けて目から光を消して絶望するだけだった。
彼女はまるで全てを失ったかのように、大切だった全てを奪われたように、疼くまる。
それは、駄々のこねる、可愛い子供の地団駄ではなく、その一手で全てを奪われた、限界ギリギリの自殺願望者のようだった。
僕は、彼女のあまりにもの表情を見て、少しばかりの恐怖を覚えた。
彼女の腕を掴んでいた手を離し、悲しみと、憎悪の念が溢れ出る彼女の姿を見て、僕は何かしら後悔していた。
その間、わずか1分未満。
背筋をぞわりと刺激する感覚が僕を襲った。
反射的に後ろを向き、黒き長剣を深淵の穴から抜き出す。
そして、【金剛力】を発動させ、力一杯虚空に剣を振るった。
そこで、僕は確かな手応えを得た。
虚空へと振ったはずの剣は、視界には映らない何かを切り、その正体をあらわにした。
虚空から鮮血が噴き出し、見慣れた緑色の豚顔の化け物が地面へと臥る。
サイレント・オークだ。
「な...」
僕は振り抜いた剣をゆっくりとしまい、戸惑いの中、呆然とやつを見る。
テラリア大草原で見た、忌々しいモンスター。
来る日も、来る日も、戦い続けた相手。
幾度と出会い、幾度と殺した、忌むべき存在。
そんな奴らと僕らはやり合い、闘争の末、僕らは勝利を勝ち取ったはずだ。
奴らを倒し、そして平和がこの国には訪れたはずだ。
では、何故、そんな奴がここにいるんだ?
僕の中にそんな問いが浮かんで、止まった。
ユリウスから教えてもらったことだが、どうやらモンスターは普段、自らの生息域を出て、人里を襲うことはほぼないそうだ。
今回のような特例を除けば、あったとしても、それは群れから外れた愚かな個体だけ。
しかし、サイレント・オークがこんな王城の付近、それも一番警備が丈夫であるはずのこの場所にいると言うことは、この町全体がサイレント・オークーーもしくは、別の何者かの襲撃を受けていると言うことになる。
そんな事を示唆する現象は一つしかない。
それはここエルファス王国に、『大侵攻』が起こったことを意味する。
「サイレント・オークの、大侵攻......?」
『大侵攻』。
それは、ある一定の条件を満たして発生する、モンスターの大量発生の一種。
普段多くはいないモンスターたちが爆発的に増加し、その結果、通常の居住区を離れ、人里などを大規模的に襲う現象のことである。
つまり、ここには、何百、何千、もしかしたら、何万といった数のサイレント・オークが大量にいることとなる。
悪寒が走る。
僕は、再度ここがどれほど危険な場所であるかを深く理解した。
しかも、今倒れているこいつは緑色。
集団の中では一番弱い部類。
最近はこいつらに苦戦することはなかったが、何百匹といればまた話は変わってくる。
いくら僕が戦い慣れていても、それでは僕も歯が立たない。
上位種がいるともなれば、さらに戦況は傾く。
「くっ....」
僕の頭には絶望の二文字が浮かび上がった。
今の僕に何ができるというのか?
英雄であろうと、僕という個は、あの大群の前では無力だ。
いくら強くなったからと言って、僕の力は精々中の下ーーいや、下の下であろう。
そんな僕にできることなど、今は何もない。
「何が...何が、救世主だ...!」
絶望と悲観に苛まれながらも、ユリウスの残した最後の言葉を完遂しようと、僕は立ち上がった。
倒れ込みそうな自分を叩き起こし、ならばと、せめて彼女だけでもと、後ろにいるであろう彼女に手を伸ばした。
彼女の腕を掴み、思い切り引っ張り、連れて行こうとしたその時、僕は違和感を覚えた。
彼女の重みがとても軽く感じたのだ。
いや、軽く感じたなんてものではない。
もっと全体的に、何かが足りないようなーー。
僕はその時、ハッと気づいたように、後ろを振り向いた。
そして目の前に映った光景に、僕は大きく息を呑んだ。
眼前に広がったのは、腕だけのエリーの姿。
そして、あたりを見回してみると、少し遠くの瓦礫の上で、ペシャンコに潰れるエリーの胴体が見てとれた。
「は.....?」
意味がわからなかった。
一体何が起きたのか、なぜこうなったのか、何も。
混乱し、一瞬の思考の停滞が起きた。
固まっていた僕の体は、動くことを拒否して、不可避の何かの直撃をモロに受けた。
瞬間、エリーの腕を掴んでいた僕の左手もろとも、宙に吹き飛ぶ。
無惨に切断された面の腕から、鮮血が噴き出し、ひどい痛みに襲われる。
「ぐぁ.....!!」
右手で腕を強く抑え、蹲って痛みに耐える。
血がドバドバと、腕から流れ出て、あまりの痛みに感覚を失い始める。
着ていたボロ切れのような服の一部を口で噛みちぎり、それを使って傷口を塞ぎ、命を繋ぐ。
吐き気と言い表せない気持ち悪さを抑え、僕は一層警戒心を高め、次なる攻撃に備える。
すると、背筋に嫌な感覚を覚え、痛みに耐えながらも本能的に剣を抜き、ありったけの力で、再度、虚空を切り裂く。
しかし、今回振った剣は途中で止まり、僕の体は宙高く吹き飛んだ。
『スキル【起死回生】を発動しました』
死んだ体をスキルで叩き起こし、上空100m前後から自由落下する。
あまりにも悲惨な現状から、一瞬自身の身に何が起きたのか理解できなかった。
だがそれは、虚空より現れた一体の魔物の登場により、一変する。
なるほど。
僕は殺されたのか。
屈強にも恐ろしい姿をしたその金色のオークに、僕は何を思ったのか、最後の力を振り絞り、落ちる体でスキルを行使した。
「【ぜ..つ、かん....てい.....】」
『対象の情報を開示します』
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個体名:サイレント・オーク・ロード(金)
種族名:オーク・ロード
特徴:テラリア草原に巣食う厄災。
静寂をかけるサイレント・オークの統率者であり、静寂と武を極めた、部族一の強者。
その強さたるや、大草原をかける全ての生物は、奴に近づくことの愚かさを知っている。
討伐対象レベル:100000
所有武器:静寂王の巨岩
推奨装備レベル:75000
ATK+500% STR+1500
詳細:部族一の強者に与えられた、由緒正しき伝説の武器。
これぞまさに、王の象徴。
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そして僕は、地面に力強く落下した。
そして、同時に理解した。
奴がこの元凶なのだと。
厄災:サイレント・オーク・ロード。
意識が薄れ、体の感覚を失う。
僕はここで死に、この世を去った。
そして、完全に意識を失い、次に意識を覚ましたのは、大きく鳴り響く、目覚まし時計の音からであった。
「お兄ちゃん! そろそろ起きて!」
妹の声が聞こえる。
ここは?
「はっ....!! はぁ、はぁ...!!」
僕は飛び跳ねて、自分の体を見る。
付いてる腕、爛れていない肉、完全に治っていた体。
先ほど起きた、数々の後遺症は全て、治っていた。
「夢.....だったのか....?」
起きたら布団の上。
先ほどまでいた、あの地獄のような場所ではない、平穏な場所。
夢として、語るのには十分な出来事。
しかし、夢として片付けるには、あまりにも重い出来事。
「お兄ちゃん、ご飯できてるよ!」
不思議に、何かが引っかかるような、不安になるような思いを堪え、僕は布団から起き上がり、妹の声に応える。
自室の去り際に僕はふと、何気なく後ろを向き、自分の布団の上を見た。
するとそこには、大量の汗が原因でシミができており、見れば、僕の背中にもべっとりと汗が大量についていた。
「.......シャワーでも、浴びるか......」
僕は、リビングに向かう途中、シャワー室へと向かい、汗を流した。
以前までに読んでいた方はわかるかもしれませんが、これはその話を改良したものです。
ただ、その時とは少々違う方向に持っていきたいと思うので、違う展開が見られると思います。
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あともし、改善点などがあれば、感想等などを受け付けていますので何かあれば感想をお願いします。




