02 Sランククエスト
七大ダンジョン。
それは、この地球に出現した数々のダンジョンの中で最も恐ろしく、最も畏怖されている今もまだ踏破されていないダンジョンの総称である。
七大ダンジョンはその全てが例外なくSランクダンジョン以上であり、日本に9人しかいないSランク冒険者ですら恐れる、世界で最も危険な場所である。
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「ドドドドッ、どーん!!」
「ぐぇ......!!」
「おはよう、お兄ちゃん! ご飯できてるよ!」
奏が部屋へと猛烈な勢いで突入し、その勢いのまま、まだ寝ているベッドの上へとダイブをかまして強引に僕を起こしてきた。
「な、なあ、奏?」
「どうしたの?」
「毎度毎度、僕が起きないと、上に飛び乗ってくるのはやめてくれないか?」
「だって、そうしないと全然起きないんだもん!」
「それは、そうだけど......」
「いいから早く下きてね! ご飯冷めちゃうから!」
ドン、と僕の部屋の扉を勢いよく閉め、早朝から元気な妹は、ドタドタとリビングへと戻っていった。
「朝から元気すぎるだろ......」
そんなことを思いながらも、起き上がり準備を整える。
人様に見せれるような格好になってから、妹から受けた腹部への大ダメージを堪えて下へと向かう。
焼けたパンと肉のジューシーな匂いを嗅ぎつけながら、僕は妹のいるリビングへとたどり着く。
「お兄ちゃん、起きた?」
「ああ、バッチリだよ」
そんな会話を挟みながらテーブルにつくと、僕は咄嗟にあることを思い出して、奏に一つの質問を投げかけた。
「そういえば奏、今日誕生日だったよな?」
「うん、そうだよ! でもそれがどうしたの?」
やはり今日は大事な妹ーー奏の誕生日であった。
重要なことを思い出し、彼女の笑顔を観たいと、再度質問を投げかける。
「奏、誕生日プレゼント何が欲しい?」
「え......?」
そんな唐突な質問に、奏は握っていたフォークを落とし、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情でこちらを見ながら固まってしまった。
「ちょっ、フォーク落としーー」
「お兄ちゃん、誕生日プレゼントくれるの?」
固まった彼女は、咄嗟に僕の言葉を遮り、俯いたまま僕へと質問を返した。
当然のように彼女へと返答を返し、奏にフォークを取るように促そうとしたその時。
「あ、ああ、今回はいい報酬のクエストを見つけたからね......って......おい、おい、おい!」
なんと、泣き出してしまった。
(どうしてだ!? もしかして、僕は今とんでもないことを気づかないうちに口走ってしまったのか?)
妹が泣き出す理由がわからず、錯綜する中、自らの失言を疑う。
場の空気が混乱するのを取り止めようと、僕は必死に奏へと言葉をかける。
「ごめん、どうしたんだ!? お兄ちゃんなんか嫌なことでも言っちゃったか!?」
「ぢがぅよ゛ぉ゛お゛......!! ただただ、嬉じぐでぇぇえ......!!」
「お、おう......」
原因を探ろうと、言葉をかけた僕の元へは、思いがけない返事が返ってきた。
どうやら、彼女はプレゼントをもらえることに相当の嬉しさを感じていたらしい。
でもまさか、プレゼントをもらえるのがそんなに嬉しかったとは。
まあ、あり得ない話ではないが。
僕らの家庭には、両親がいない。
理由はすでに他界したからだ。
とある朝、早起きした僕の目に飛び込んだのは、親含めた冒険者パーティー数名がダンジョン内で壊滅したという記事だった。
七大ダンジョン攻略に勇敢にも立ち上がったが、失敗し、犠牲になった冒険者たち。
凶報は僕らに深い傷と絶望だけを残し、奏が三日三晩泣いていたのを今でも覚えている。
「......」
確かに僕達の家庭は、両親が死んでからというもの貧乏な生活を強いられ、贅沢なものを買う余裕など一切なかった。
僕も奏も誕生日プレゼントなんてのをもらったのはずっと前で、それこそ5年以上も前のことだったのを覚えている。
まあ、そこら辺はうろ覚えだ。
そんな昔のことを思い出しつつも、目の前で嬉しそうに泣く彼女の頭を撫でながら、ご飯を食べ、出かける準備を整えた。
「じゃあ、行ってくるよ奏。誕生日プレゼント、期待して待っててよ」
「うん......! 待ってる、お兄ちゃん!」
力強く玄関の戸を開き、決意と覚悟を胸に僕は一歩を踏み出した。
「流石にここまで泣かせたんだ。今日はとびきり良い誕生日会にしないとな。けど、そのためには今日のクエストを完遂しないと......」
実は、昨日のCランク荷物持ちクエストが終わった後、僕は運良く高難易度だが高報酬クエストを見つけていたのだ。出立ての依頼だったのか、誰も手に取ってはおらず、そこを僕が掻っ攫ったという訳だ。
「まあ、それでも荷物持ちだけど......」
だがそんなことはいつものこと。
今日は妹にとびきりの誕生日プレゼントを渡さなければいけない。
決意を胸に、僕は珍しく駆け足で冒険者教会へと向かい、周りのことなどお構いなしにすぐさま窓口へと駆け寄った。
「こんにちは、Fランク冒険者の雨宮渉です。今日はこのAランクダンジョンのクエストを......」
「......? ああ、そちらのクエストでしたら、他の冒険者が荷物持ちとしてすでにいかれましたよ?」
「......はい?」
「いえ、ですからーー」
僕は彼女が一瞬何を言っているのかがわからなかった。
頭が真っ白になり、何かの間違いだと思い、ただただ弁明を要求した。
「え、えっと......一体どういうことですか? 僕は昨日このクエストを受けると予約したはずなんですけど......」
困惑の一色に埋め尽くされた僕は、少し高圧的な態度で受付嬢に攻め寄っていたと思う。
「それは本当ですか? すぐに確認いたしますので、少々お待ちを」
だが場慣れしているのか、あるいは僕程度怖くないのか、嬢は至って冷静に僕の言葉の真偽だけを確かめに行った。
確認している間、祈るような気持ちで何かの間違いであって欲しいと願った。
少しして、確認から戻ってきた嬢が頭を深く下げてきて、僕は絶望した。
「大変申し訳ございませんでした。こちらの不手際により、あなた様の受けていたクエストの分を他の冒険者へと流してしまいました。本当に申し訳ございません......」
僕は絶句した。
即座に体が固まり、何も考えられなくなった。
普段ならばこんなに怒ることはないが、なんて言ったって今日は大事な妹の誕生日だ。
あのクエストの報酬がなければ彼女の誕生日プレゼントはおろか、祝うことだってできはしない。
「クソ......!」
僕はこの時、改めて自分の無力さを思い知った。
冒険者でありながら、一年努力しても何も身に付かず『万年レベル1の0スキル』と呼ばれるようになっていた自分を。
自分がもっと強ければ、自信があれば、いろんなことができたら、こんなクエストひとつ受けれないと困るようなことで苦労することは、なかっただろうに......。
「わかりました......では、今日の所は帰ります......」
そんな言葉を残し、心の中で嘆き、妹の悲しむ顔だけが脳裏をよぎる中、受付嬢が僕を呼び止めた。
「失礼ですが、代わりのものとして緊急のクエストがございます」
「え?」
申し訳なさそうに、されど険しい表情を浮かべて、彼女は言葉を紡いだ。
「七大ダンジョンが一つ『アイビス』、その最前線攻略組の荷物持ちとしてのクエストが現在受注可能です。ただし、このクエストの難易度は『S』ーーいえ、それ以上の世界最高難度です」
「Sランクの荷物持ちクエスト......?」
呼び止めた彼女が僕へと代わりに提示したのは、世界最難関の超級クエストであった。
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雨宮 渉
18歳 性別:男
レベル:1
称号:なし
SP:5
HP:100/100 MP:5/5 STR:5(ATK+0%)VIT:5(DEF+0%)AGI:5 INT:5 LUCK:1
スキル
なし
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