雪下の老人
今朝。
目が覚めてすぐ、部屋のカーテンを開けて外の景色を見渡した。昨晩のニュースの天気予報で、数年に一度という大雪注意報が出ていたからだ。
予報は見事に当たっていた。
昨夕から降り始めた雪は、屋根も道路も、どこもかしこも真っ白に染めて、見た目でも五十センチぐらいは積もっていそうである。
このままでは家の出入りにもこまる。
私は防寒着と手袋、長靴を身に着けると玄関を出て、さっそく道路までの間の除雪作業に取りかかった。
今も雪が舞っている。
私はかじかむ指で除雪スコップを握り、通路にあたる場所の雪をすくい取っては、それを次々と庭のスペースに向かって放り投げていった。そして少し汗ばみ始め、門柱までの半分ほどの雪を取り除いたときだった。
真っ白な雪の下、そこに何やら黒っぽい布のようなものが見え、それはこんなところにはありえないものだと直感できた。
慎重に雪を取り除いていく。
するとそれは何と倒れた人間で、八十歳前後の老人男性だった。
その人は空を向いた状態で倒れており、顔面は蒼白で、一目見ただけですでに凍え死んでいるように思われた。念のために老人の胸に触れてみたが、やはり生きているという感じはまったくしなかった。
見知らぬ老人である。
認知症で徘徊でもしていたのだろうか。
積もった雪に全身が完全に埋もれていたことを考えれば、雪の降り始めの頃には、老人はすでにここで倒れていたのだろう。
私は大急ぎで家の中に走り戻ると、すぐさまこの老人のことを最寄りの警察署に通報した。
警察の者からは作業を中止して、現場を現状のまま保存しておくようにと指示された。
――やっかいなことに巻き込まれちまったな。
ひとりぐちりながら、私は再び玄関を出て老人の元へと向かった。
ところがどうしたことか……。
老人の死体が倒れていた場所から消え、さらにそこから一人分の足跡が門柱に向かって、外の道路まで続いていた。
私はまだそこを歩いていない。
だとすると、雪に残った足跡はあの老人のものということになる。
――生きていたんだ。
私が勝手に亡くなっていると思い込んでいただけで、老人は生きていたのだ。
まだ近くにいるかもしれない。
私はすぐに老人の足跡を追った。
だがその足跡は、道路に出て数歩進んだところで突如として消えていた。
そしてあの老人そのものも……。