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ITES!!  作者: やっぴい。
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凡人

「はぁ……ここもダメか……」

私はいつものコンビニの前で、送られてきたお祈りメールを見返した。

私は重い足取りでコンビニの中へと入っていった。

「ロービアちゃん、いらっしゃい。」

レジ打ちのおばさんが私の名を呼んだ。

実名ではなく、孤児院の先生に付けてもらった名前だ。

「ロービア・T・アネモネ」

今となっては自分の名前として違和感は無い。実際小さい頃に両親に捨てられている私は実名を知らず、数年前に死んでしまった里親に託された遺産を削って生活している。

就活生の私は、毎日味のしないものを食べ続け、週に一度いつものコンビニでおにぎりを買うことが唯一の楽しみだった。

しかし今日は違った。自分が入りたかった企業は全て落ちた。自分のあがり症と運の悪さを恨みつつ、何気なく壁に貼ってある求人広告を見ていると、1枚の張り紙が目に入った。

「秘密結社ITES」

全体的に不気味な色合いで、端麗な顔つきをしている女性が載っている。

毎週通っているのに気付かなかった。最近貼られたものだろうか。などと考えているうちに、その貼り紙の上である言葉を見つけた。

「新入社員募集中」おどろおどろしいフォントで書かれているが、住所や電話番号まで載っている。

私は考える前に既に行動に移していた。

1.就活の終曲


私はすぐに張り紙に載っていた電話番号に掛けた。私の想像とは裏腹に、子供のような声が電話に出た。

驚くことに、面接をせず今すぐにでも採用してくれるらしい。

最初こそ疑ったものの、その子供の話を聞くにつれて、疑っていたことすらも忘れるくらい私は舞い上がっていた。

初任給は30万円で昇給あり。強制的に住み込みとなるが、寝食に関しては完全に経費から出るらしい。

この時点で怪しいと思うべきだが、誰だって新卒でニートになるか怪しい会社に入社するかと言われたらどんな会社でも入れるだけマシだと思ってしまうだろう。

しかも、住み込みというのも非常にありがたかった。家賃がその分浮くし、食費まで担保してくれるのだ。

しかし、会社の概要については何一つ教えられなかった。待遇と給料の話の後、大したことのない質問をいくつかされて、今すぐにでも行けるという旨を伝えたらすぐに切られてしまったのだ。

私は改めて少し疑った。しかし他に行くあてのない私は、引き下がる訳には行かなかった。

私は考えるのをやめて、書いてある住所の方向へと向かって行った。

自分の住んでいた賃貸からそう遠くなかったため、歩いて15分ほどで着いた。

驚いた。とてつもなく大きいビルだった。と思ったのもつかの間。隣の小さなおんぼろの3階建てのビルの1番上の窓に「秘密結社ITES」と書いてあるのを見つけた。少し落胆し、こんだけ堂々と書いておいて何が秘密なんだよ。と思いつつ私はそのビルの階段へと向かって行った。


2.瞳輝く夢想曲


ビルの3階まで登ると、扉の横でなぜか侍のような格好をした女性が眠っていた。顔には大きな縫い跡が縦に引かれていて、それを境として肌の色が変わっている。まるでツギハギでつけられたような顔は、とても可愛らしい顔つきだった。

扉を開けると、薄暗い部屋の奥に人影が2つ見えた。背が高くて冷たい目をした女性と、その隣に小学校低学年くらいにも見える女の子が大きな椅子に座っていた。

なぜか私は違和感を覚えた。しかしその原因はすぐにわかった。張り紙の女性がどう考えても背の小さい女の子を元に作られているのだ。きっと電話にも彼女が出たのだろう。

私が声をかけようとすると、私が考えていたことを見透かしてくるかのように彼女は言った。

「我は秘密結社ITESの総帥。ラ・E・ドゥーチェだ。そしてこいつが我の補佐兼科学者のヘデラ・S・ヘリクスだ。」

ダメだ。やっぱり調べてから来るべきだった。すぐに後ろを振り返り帰ろうとした私を、いつの間にか部屋へ入ってきているさっき寝ていた侍が止めた。

「君が新入社員の子やんな?これからよろしくな。」

終わった。諦めた私はどうすることも出来ず、そのまま話を聞くことになってしまった。

なんで関西弁……?

話を聞いて改めて帰りたくなった。

まだ遅くない、ここから走って逃げよう。と何度も思った。

あろうことか自らを総帥と名乗る女の子は

「我等の目的は宇宙を征服して宇宙の支配者になることだ。」

と真剣な顔で言ってきたのだ。

私もそういう時期がありました。ということは言わなかった。

彼女の目が輝いていたからだ。実現できるか分からなくとも、いつかそんなこと忘れたとしても、今の彼女は本気でその夢を目指しているのだと私は思った。

逃げ出すタイミングはきっとあったと思う。いつの間にか関西侍もいなくなっていた。

私が逃げずに最後まで話を聞いたのは、この部屋に入ってから、いつの間にかここで働きたいという気持ちが芽生えていたからだ。

私は晴れて社会人(?)となり、「情報屋」の役職を与えられた。

【作者より】

連載作品の1話目ですが、世界観を落とし込むためにプロローグで丸々1話使い切っちゃいました!ゴメン

次話以降から本格的に始まるので、秘密結社ITESの活躍をお楽しみに!

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