表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は、昨日隣国へ出荷されました。  作者: ねこたまりん
業務日誌(一冊目)
6/24

(6)配備

「誠に申し訳ないのですが、アレクシス皇子殿下は、今朝方、急な用件で帝都に戻られまして…」


 魔導ギルドの応接室で、皇子の秘書だという若い男に平身低頭されながら、ローザは内心、ホッとしていた。


「ブラックデル様との城の売買のご契約につきましては、アレクシス皇子殿下のご指示の元、問題なく執り行いますので、どうかご安心ください」


「わっ分かりました。あのっ、いつから入居可能でしょうか」


「本日、今すぐにでも、お入りいただけます。必要とあれば、アレクシス皇子殿下の推薦で、使用人の斡旋もいたしますが」


「そそそそれは必要ありません。うちの者たちがおりますので」


 魔導ギルド長とマーサが見守る中で、契約は滞りなく完了し、ローザは無事に城のオーナーとなった。



「アレクシス皇子殿下から、今後とも、どうかよろしくとのことでした」


「は、はははい! こちらこそ、よよよよろしくお願いいたします」


「魔導ギルドへの貢献につきましても、アレクシス皇子殿下は、ブラックデル様に、大変に期待されておりました」


「そそそそうなんですね。いいいい至らぬ者ではありますが、微力を尽くしますっ」


 アレクシスという名前を聞くたびに、ローザは挙動不審になっていた。


(背筋がぞぞぞぞぞってするの、なんなんだろう。目の前にいるわけでもないのに…)



「ブラックデル嬢には、ぜひとも、アレクシス皇子殿下と親しく話してもらいたかったのだが。まあ、機会はいくらでもあるだろう」


「ふぁっ、ふぁい」


(ギルド長まで! お願いだから、固有名詞抜きにして! 「皇子殿下」だけで分かるから!)



「そうでございますね。アレクシス皇子殿下も、こちらに戻ったらぜひお茶でもとおっしゃっていたことですし、日取りだけでも決めておきましょうか」


「それは良いな」


(や、やめてーーーー無理無理無理っ!)



 狼狽えるローザを見かねたマーサが、助け舟を出してくれた。


「私どもは、これから使用人たちの引越しなどもございますので、暮らしのほうが落ち着きましたら改めてということで、お許しいただけますでしょうか」


「左様でございますか。ではそのように」


「ブラックデル嬢、何か困りごとがあれば、何でもギルドに相談してほしい」


「アレクシス皇子殿下も同じことをおっしゃっております。どうかご遠慮なくお知らせください」


「はははい!」




 契約のための会合が終わって応接室から退室すると、ギルドの玄関前にリビーがいた。

 

「お疲れ様です、ローザ様」


「ありがとう。ここで待っててくれたのね」


「ずいぶん早く終わったみたいですけど、何も問題ありませんでした?」


「皇子様はいらっしゃらなかったけど、契約は無事済んだわ。今日からでも入居できるって」


「では、ローザ様は、マーサさんとご一緒に、このまま馬車で新居にいらしてください。私は宿を引き払ってから参りますので」


「お願いね」


 荷台に乗り込むと、御者台のネイトが振り返って、小声で尋ねた。


「お嬢、何があった」

「何もなかったわ」

「嘘だな。顔がおかしい。マーサ」

「ええ。ローザ様、城についてから、よくよくお話を伺いますよ」

「何も…ないってば」

「何が何もないのかを、お話いただければいいんですよ。ネイト、馬車を出して」

「分かった」



 数分後、城の前で荷馬車を降りたローザは、残してきたはずの四十名の使用人たち……大切な家族全員に、血走った目で、熱く盛大に出迎えられたのだった。



「お帰りなさいませ、ローザ様!」


「みんな……ちょっと早すぎない?」


「リビーから魔導通信が来た瞬間に飛びましたからね!」


「それって、つい五分くらい前じゃないの!?」


「呼ばれたらいつでも来れるように、全員昨日から寝ずに準備してましたから!」


「寝てちょうだい! 全員、いますぐ!」


「引越しパーティの準備だけしたら、仮眠をとりますよ!」


「よーし、皆、取り掛かれ!」


「料理開始ー!」


「うおおおおおお!」



 大騒ぎの使用人たちを眺めながら、ローザは少しだけ、肩の力が抜けた気がした。



(訳もわからずに怖がってても、仕方ないよね。みんなを守れるように、考えなくちゃ)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ