表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は、昨日隣国へ出荷されました。  作者: ねこたまりん
業務日誌(二冊目)
13/24

(3)試作と代案

 屋敷中で新プロジェクトが立ち上がりつつあることを知らないローザは、ガゼボでお茶とケーキを楽しみながら、側に控えているマーサに、自分の案を話し始めた。


「ねえマーサ、液体魔法のストックもだいぶあるし、しっかりした拠点も出来たから、何か新しいことを初めてみたいんだけど、どう思う?」


「とても良いと思いますよ。ローザ様が楽しめそうなことでしたら、皆もきっと喜びます。ちなみに、どんなことをご計画されてるんですか?」


「あのね、アクセサリーとか、お人形さんとか、作ってみたいんだ」


「それは、裁縫や小物細工の得意な者たちが大喜びしますね」


 裁縫室方面から歓声が聞こえてきた。


 厨房からは『くううううっ』『そっちに行ったか』という悔しげな念話が、武器庫からは、『聖剣をモチーフにしたブローチとかなら、イケるんじゃねーか?』などと相談する念話が漏れ出ているが、ローザには聞こえていない。


「あ、でもみんなの手を煩わすつもりはないんだ」


「ローザ様お一人で、なさるおつもりですか?」


「全部一人っていうのは少し寂しいけど、ほとんどの作業は私だけでできるし、量産も可能だよ」


「もしかして、新しい魔術を開発なさいました?」


「うん。前の家にいたころから、創生や成型の魔術の練習はしてたんだけど、そろそろ物になりそうなんだ。見てて」


 ローザは、空いている椅子の座面にら両手をかざすような仕草をしながら、小声で詠唱した。


「我は請い願う、レクス王子様の素敵なお人形…」


 ずんもももももも…


 妙な音と共に、椅子の上に真っ黒な煙が立ち上り、中から人形が現れた。


「ごめん! 失敗しちゃった! 大きすぎたわ」


「これは……等身大のアレクシス皇子ですね。しかも全裸」


「違うの! 昔読んだ絵本に出てきたレクス王子のつもりなの」


「ローザ様、あの絵本の中の王子は、アレ…いえ、アレクシス皇子殿下のお姿とそっくりでしたよ」


「…そういえば、そうだったよね。何で忘れてたんだろう」


「些細なことだからでしょう」


「そうかな……あれ、なんか動悸がしてきた」


「ローザ様! お顔が赤くなって…お熱があるようです。お部屋に戻りましょう」


「風邪でも引いたかな」


「引越しのお疲れもあるのでしょう。ご無理はいけません。お夕食まで、少し横になってお休みください」


「ごめん、そうする…あ、王子人形、どうしよう」


「誰かに破棄、いえ、今日の掃除班に片付けさせておきますよ」


「お洋服着せてあげなきゃ、寒そう」


「裁縫班が何か着せてくれるでしょうから、ご心配いりませんよ」


「分かった。お洋服着せてもらったら、部屋に運んで来てもらえるかな」


「え、コレを、ローザ様のお部屋に置かれるのですか」


「ええと、ほら、アレクシス皇子殿下の存在に慣れるために、ちょうどいいんじゃないかって…」


「無理に慣れようとなさらなくても」


「真剣に求婚してくださってる方だから、私もきちんと向き合いたいの」


「はあ、分かりました。裁縫班に、よく()()()しておきましょう」


「うん、よろしくね、マーサ」



 ローザが自室の寝台に横になった頃、裁縫室では、侍女たちが半目で人形を眺めていた。

 


「うっわー、真っ裸の等身大皇子、ほんとにきちゃったよ…」


「微に入り細に入り、似てるよね…」 


「パッと見、ほぼ本人じゃん」


「素っ裸じゃなきゃね」


「見た感じ、皮膚にそっくりなんだけど、これって材質、なんなんだろ」


「触ってみたら?」


「やだ、キモい」


「で、どうする、これ」


「サラシでも巻いとこう」


「お嬢の部屋に飾るんだよ。サラシじゃダメでしょ」


「じゃ、寝袋。頭から突っ込めば、余計なモノも見えなくなる」


「服じゃないじゃん」


「つっても、こいつにまともな服を縫うのも、気乗りしないよね」


「アレとそっくりじゃなかったら、いい人体模型なんだけどね」


「人体模型……あ、そうだ。いっそのこと、等身大の人体模型を作って売るのって、どうかな」


「アレの?」


「いや、アレじゃなくてもさ、人気の舞台女優とか、いにしえの勇者さまとか、欲しがる人っていそうじゃない?」


「こんなデカいの、家にあったら邪魔だって」


「冒険者ギルドとか、観光地の宿屋とかなら、人寄せになりそうじゃん」


「あ、なるほど」


「そういう人形なら、衣装作るのも楽しそうだよね」


「……あのさ、ちょっと気づいちゃったんだけど」


「なに」


「本人たちに何もかもそっくりな、等身大の全裸人形なんてものが製造できると知っちゃったら、極秘裏にものすごーく欲しがりそうな組織とか商売とか、特殊なご趣味の界隈とかが、あるよね」


「あー」


「ダメだね、この案、没だわ」


「うん。お嬢をいかがわしい商売に関わらせたら、裁縫班全員、執事長にシメられる」


「儲かりそうなんだけどなあ」


「やっぱり最初の案で行こうよ。サイズが小さければ、いかがわしくないって」


「だね」





 そのころ帝都の某所では、遠見の魔術を使用中のアレクシス皇子が、ため息をつきながら、秘書に指示を出していた。


「いますぐに、僕の衣装を一式、裁縫班に届けて来て」


「一式とは」


「普段着は多いほうがいいかな。季節に合わせて着替えられるようにしとかないと。デート用の外出着は、昼用と夜用を一着づつ。式典用と夜会用は、それぞれ最高級のものを。あとは寝巻きと、鍛錬用の服と、靴や装身具もそれぞれに合わせて。あ、もちろんローザの分もね」


「……やりすぎでは?」


「何を言うのさ。これまで何百年も、彼女に何もしてあげられなかったことを考えたら、全然足りないよ」


「それは分かりますが」


「じゃ、頼んだよ。僕はそろそろ出国しないとだから」


「デミグリッド王国に、直接向かわれますか?」


「いや、あの国がちょっかい出そうとしてる国のほうへ行く。その方が穏便に済みそうだ」


「どうかお気をつけて。お早いお戻りを期待しております」


「ああ、待たせるつもりはないよ。ローザにお土産も買ってこなくちゃ」



 アレクシス皇子の転移を見届けてから、秘書のテオは小声でつぶやいた。


「着替えを担当させられる侍女たちに、恨まれるだろうなあ、俺…」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ