1. 契約結婚だなんて聞いてません。
後書きにご挨拶などなど。
「はい?」
よく聞き取れなかったのだと、白い手袋を耳に寄せて前屈みになる格好で首を傾げれば、向かいに座る漆黒の髪の絶世の美貌の主は、むっと眉間に皺を寄せた後、諦めたように肩を竦めてテーブルに置かれた一枚の紙を指先でトントン、と叩いた。
「今回の婚姻に関する私からの諸条件だ。合意となれば、君の家が背負っている全ての債務の処理を私が行おう」
深い赤葡萄酒色の瞳をジャスティーンから逸らして、冷たく言い放つ。
「はぁ、あ、そうです、か?」
状況がうまく理解できていないまま、なんとか言葉を絞り出せば、こちらを見向きもしないまま彼は何のことでもないように一つの言葉を言い放った。
「端的に言うと、君のレシピが欲しい」
夜の闇の女神でさえも魅了してしまうのではないかと思えるような、低く心地の良い声色が耳に届くと同時に、ジャスティーンは真っ白な紙に整った文字の羅列が鎮座しているのを確認した。
「婚姻にあたっての君と私との取り決めだ」
一つ、持参金は必要ない。
一つ、婚約にあたっての周知はせず、婚姻の式への参列はごく身内に限る。
一つ、親類縁者の付き合いはしなくてよい。社交には不参加でよい。
一つ、婚約及び婚姻に際して、公爵家の伝統に則り公爵家に居を構えること。
一つ、隣接する別邸に立ち入らなければ、邸内を自由にしてよい。
一つ、所領の経営に関すること以外での私用での出費は本人の自由意思に任せる。
一つ、夫婦としての義務は果たさない。
一つ、婚約は一年契約とし、その後破棄される。
一つ、所持する魔道具のレシピを一年間提供すること。
まずは何から説明を求めるべきか。
ジャスティーンは笑顔を顔に張り付けたまま、用意された羽ペンをうっかり折らずに済みますように、と契約の女神に祈った。
はじめまして!
こんにちわ、こんばんわ。雲井です。
短編の方が書き終わったので、新連載をスタートさせようと思います。思います。思いま、す。
短編として書き上げたかったのですが、どうやら分量多めになりそうなので、50話くらいをゴールに書き上げてまいりたいと思っております。
溺愛ものが読みたい、とメッセージをいただいたので、鍋にあれこれ入れて煮詰めてみました。
お楽しみいただけましたら幸いに存じます。
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数ある作品の中から拙作をお読みいただきまして、誠にありがとうございました!
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