妹は天使で、私は化け物?いえ、悪魔だったらしい【前編】
短編で掲載していましたが恋愛要素までたどり着かなかったので
【後編】を新たに投稿予定です。
【前編】にあたる今作品の内容も一部文章を訂正しました。
私は普通の伯爵令嬢だった。
そこそこの爵位、そこそこの財産、そこそこ…よりちょっと上くらいの容姿。
優しい母と父、それから使用人達、なんの不満もなかった。
だけどそれは3歳までだった。天使のような妹が産まれるその時まで。
私の3歳の誕生日、その日は祝ってもらえることもなく屋敷がバタついていた。
母が産気づいたからである。
誕生日を祝ってもらえないのは悲しかったが別の日に祝ってくれると言っていたから別に良かった。
それに純粋に妹か弟ができるのが嬉しかった。
父と一緒に部屋で今か今かと赤ちゃんの誕生を待っていた。
おぎゃーと聞こえ2人で母の所へ急いだ。
まだ小さい私は抱き上げてもらえないとベッドの上にいる母と赤ちゃんを見ることができなかったから、早く見たいと父にせがんだ。
だけど父と母は赤ちゃんを見て興奮していて全く私の存在に気づいてくれない。
天使だ!とか女神の生まれ変わりだという言葉を話すばかりで私の方なんて全く見てくれない。
壁に控えていた執事が少し拗ねた私を見て失礼しますと言って持ち上げて赤ちゃんを見えるようにしてくれた。
私は初めて赤ちゃんを見て、可愛いけどお猿さんみたいなのねと言った。
その瞬間だった。いきなり首が詰まりふわっと体が浮いた後痛みが体を襲った。
うっ…と唸っていると父がすごい勢いで声を上げた。
「こんなに可愛い天使に向かって猿だと!?なんて酷いやつだ!今後一切この子に近づくな!おい、誰か!すぐにこの部屋から出せ!」
父が私の襟首を持って床に叩きつけたらしい。
初めての父の怒りに私は怖くなってしまい何も言えなかった。
そして執事に部屋から連れ出され自分の部屋で寝ている様にと言われた。
次の日、私が起きたのは太陽が上がりきったお昼頃だった。
何故か誰も起こしに来てはくれなかった。
おかしいと感じながらも人を探して部屋を出た。
するといつも朝の支度をしてくれるメイドがいたので声をかけると目があったのに無視されていなくなってしまった。
呆然としながらも書斎から出てくる父を見つけて駆け寄った。
私を見た父は寝巻きのままで歩くとはマナーがなっていないと怒った。
すぐに謝ったが聞いてもらえず部屋に戻された。
その日の夜からは、私の食事だけが部屋に運ばれてくる様になった。
それ以外では誰も来ず、私が部屋の外に出ればすぐに戻される様になった。
こうして私は自分の部屋から1歩も出る事ができなくなった。
自分の一言が招いた事なのだと、泣きながら謝り続けた。
聞いてくれる人は誰もいないのに。
そうして1年くらい経った頃、おそらく自分の誕生日だった。
久しぶりにメイドが部屋にきて私を着替えさせ始めた。
水で拭くことしかできていない私は臭ったのだろう、汚い物に触れるかのようだった。
そして部屋から連れ出され、食堂に連れて行かれるとそこには父と母、そして母に抱かれた妹がいた。
父は私を見ると、なんと醜いのだ!お前ほど醜いものは見た事がない!
まるで化け物のようではないか!と言った。
母は何も言わなかったが汚いものを見る目をしていた。
妹は母の腕の中でただ笑っていた。
誰とも会わず1人でいた私は声を出す事ができなくなっていた。
喋る必要もなく、何もせずに生きていた私にはいらなかったのだ。
それを知らない父は謝りの言葉をすぐに言えないとは容姿だけでなく性格も醜いのだなと言って笑った。
そして嫌そうな顔をしながら、父は言った。
お前には生まれてすぐ決まった婚約者がいる。
その方が5歳の誕生日を祝いに来るのにお前の様な醜い娘を出すと恥を描くのは私達だ。
お前を許すことなどしないが明日からはメイドと教師をつける。いいか、お前は最低な人間だ。
天使の様な妹をけなし、家族を傷つけた醜く厭らしい化け物だ。
それを忘れるなと言って私を食堂から追い出した。
それからは、朝早くにメイドに起こされ、トイレや厩舎などの匂いがひどいところを掃除させられ、冬でも水で体を清められる。
それが終わるとひたすら勉強、できなければすぐに叩かれるか食事を抜かれた。
毎日の様にメイドや教師から化け物と呼ばれ、誰にも呼ばれなくなって私は自分の名前を忘れてしまった。
そして自分は化け物なのだと思う様になった。
ついに5歳の誕生日。婚約者という人が会いに来てくれた。
その時ばかりは綺麗なドレスを着せられた。
久しぶりに家族とも食事を取れた。
私は一切会話には混ぜてもらえなかったが、そこにいられるだけで嬉しさを感じた。
婚約者は2人で話すことはなく、みんなで食事を取った後すぐに帰っていった。忙しいらしい。
そして婚約者が帰ると私はそのまま部屋に戻されいつもの生活に戻った。
そうして月日が経つ間、私と婚約者が2人になることは一度もなかった。
そして10歳になった時、初めて2人きりになった。
どうすればいいのかと緊張していたが婚約者から話しかけられた。
貴方は僕を好きではないのだろう?と。
何故そんなことをと思ったので慌てて首を横に振った。
だが婚約者は悲しそうな顔をしながら、でも貴方は一度も私と話そうとしてくれないだろう?と言った。
喉を押さえて口をパクパクさせて声が出ないことをアピールした。
貴方は…と婚約者が何か言いかけた瞬間、バン!と扉が開き、妹が乱入してきた。
そして婚約者に話しかけながら連れていってしまった。
そしてその日、婚約者が私の元に戻ってくることはなかった。
数日後、父から呼ばれ食堂に行くといつもの席に父と母、婚約者がいた。
いつもと違うのは妹の席が婚約者の隣になっていたこと。
何故?とそちらを見ていると、婚約者と目が合うが目を逸らされた。妹はニコニコと笑っている。
そして父から婚約が結び直されたことを伝えられた。
妹が婚約者を好きになり、そして婚約者も妹を好きになったのだと。
それだけを伝えられ、私は部屋に戻された。
その日の夜、涙は出せなかったが悲しかった。
私はこれから、何のために生きていけばいいのか分からなかったから。
答えが欲しくて初めて夜中に部屋を出た。
廊下を歩いていると前から妹が歩いてきた。
なぜこんな時間にここにいるんだろう?と思って妹を見ると妹は笑った。
そして床に座ると大きく泣き出した。
すると使用人達が真っ先に駆けつけ、そして父と母も呼ばれた。
妹が泣きながら言った。
お姉様がよくもジョンを奪ったなと言って突き飛ばしてきたんですと。
何を…と思った時には大きく殴り飛ばされた。頬には拳の跡がつき歯がぐらついている。壁や床に打ち付けられた頭や手足が痛んだ。
父は更に、この化け物め!お前が醜いから婚約を破棄されたものを妹に暴力を振るうとは。
我が家には天使が生まれたがその前に化け物…いや悪魔も産まれてしまうとは!なんて事だと言いながら殴り続けた。
腫れていく瞼の隙間から見えた母の顔は嫌悪に歪み、何故か泣いていた。
使用人達はこの行いが当然であるという顔をしている。
そして妹だけは顔を伏せてひそかに笑っていた。
痛みで気を失い、目が覚めると埃まみれの部屋にいた。
ここは何処だろうと辺りを見ようとしても体が痛くて一切動けなかった。
何故こうなったんだろうと天井を見ていると部屋の外から声が聞こえた。
あーいい気味。
あんなに醜いやつが姉で、あんなにかっこいいジョン様と婚約なんておかしかったのよね。
ジョン様は私のものだし、お父様もお母様もこれでやっとあいつを捨てる気になったでしょ。
これで全員幸せね!と鼻歌を歌いながら声が遠ざかる。
妹の声だった。天使の様な妹の本当の気持ち。
私が邪魔で居なくなればみんなが幸せになるという。
そうか、それが私が産まれてきた意味だったのかな…?
ワタシガイナクナレバミンナシアワセ?
デモワタシハ?
ワタシノシアワセハナニ…?
目から一筋の何かが流れた。その時声が聞こえた。
復讐したくないか?と。
復讐…?なにに対してだろう。
妹さえ生まれ無ければあそこはお前の場所だった。復讐したくないか?と。
そうなのかな?
妹が産まれるまでお前は幸せだっただろう?と。
確かに今よりは良かった。
ならば復讐したくはないか?と。
したいのかな?わかんない。
私が力を貸してやろう。幸せになりたいだろう?と。
そうね。幸せが何かを知りたい。私が居なくなると全員が幸せらしい。全員には私も入っているのかな?
では契約を。お前の魂をおくれ?そしたら何でも願いを叶えられる力やろう。お前の名前は?と。
答えなければならないと何故か分かった。すると久しぶりに声が出た。
「私の名前…?私は名前を覚えていない。だけど魂?はあげるわ。私は幸せが欲しい。」
動けない身体、久しぶりに出した声だったけどはっきりとした言葉が出てきた。
すると、私の体の下が光出した。赤黒いそれはいつも私の体から流れる血と同じような色だった。
「契約はなされた。我が名はーーー。人間は我を悪魔と呼ぶ。我がお前の復讐に付き合ってやろう。」
これが悪魔と呼ばれた私と、悪魔と呼ばれるあいつとの出会い。
私が私の幸せを探す物語。
読んでいただいた方、感想を下さった方ありがとうございます。
少女の生い立ちに関わる部分のお話でした。
【後編】でがっつりと恋愛をからめていきたいと思います!