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私と頑固爺さんのしょうもない戦い

作者: 事務子

受付等、窓口での仕事をしていると、様々な患者さんに出会います。

ニコニコしている人、おしゃべりな人、緊張している人・・・。

患者さんの性格に合わせて話し方を変え、案内をしたり挨拶したり工夫しつつ、恙なく診察へ進めるよう手早く仕事をしています。


その中で、個人的にめちゃくちゃ面白い患者さんがいます。

お名前は出せないので「頑固爺さん」とここではお呼びします。

この爺さん、名前の通りめちゃくちゃ頑固なんです。

いつもムッとした表情をしていて腕を組んでおり、発する言葉は全て文句か説教。

これだけですと、厄介な患者さんなのですが、高齢者なのでヨボヨボで杖をついている。

子供がぶつかっただけで死んでしまいそうな見た目なので何を言われても怖くないんです。

本人としては威厳たっぷりの偉い自分だと思い込んでいるようですが、私としては何を言われても

「おじいちゃん今日も元気だな~」とほのぼのしてしまいます。


他のスタッフは怖がる為、いつも私が対応しています。

最初の頃は、説教し始めても真面目に聞いて対応していましたが、だんだんといたずら心が湧いてきてしまい爺さんをイジるようになりました。

事務員として対応は良くないのは分かっています。

しかし、爺さんが可愛すぎて私も応戦せずにはいられなくなってしまいました。


爺さんは特に夏が過激になります。

クーラーの風が苦手なようで、受付でいつも「寒い!」とキレます。

一通りキレ散らかした後、わざわざクーラーの風が一番当たる位置に座ります。

そして一息つくと「寒い!」とまたキレます。

私を見て「温度を上げろ」と言います。

しかし、真夏の待合室はクーラーをつけても人が多くて息苦しくなる時があるくらいです。

爺さん以外寒いと言う人はいません。むしろ暑いと言われるくらいです。

そんな説明をしても爺さんには通用しませんので、

「これは失礼しました。温度を上げさせていただきますね」と言ってリモコンを操作するふりをします。

スイッチを押してるふりをして「えいっ、えいっ」と声をだします。

苦労して温度を上げた感を出しながら爺さんの方を向き「温度を上げました、いかがでしょうか。」と声を掛けます。

すると「うむ。これくらいで良い。次からも気を付けるように」と言われます。

このやりとりを夏が終わるまでやり続けます。

他のスタッフや患者さんには大うけの、私と爺さんの鉄板ネタです。


冬は暖房の風だと気づかないで「いつまでクーラーつけてるんだ!」とキレます。

なので「これは暖房ですよ、ほら、暖かい風が出てますよね」と風が当たる席に案内しますが

「風が当たる所に連れて行くな!寒いだろ!」と怒られます。

おじいちゃんなので機械が出す風=冷たい風だと思い込んでいるようです。


爺さんは私の顔を覚えてくれません。

何年も毎月会っていてもいつも忘れます。

私が髪を切ったり結んでいると「また違うやつになってる!ここはすぐに人が辞めるんだな」と言われます。

髪を結んでいる時は「同じ人ですよ~。今日は髪を結んでるんです。ほら、ほどいたらいつもの私ですよ」とほどいて見せるのですが

「ふんっ。違う奴に決まってる。騙されないぞ」と言われます。

ふんって言う人初めて見たわと笑いたくなる衝動を抑えつつ

「先月もお会いしてお話したじゃないですか、見て下さいよ!」と言っても「絶対違う奴だ!!」と私の方を見ずに言われます。

わざと爺さんの視界に入るように回り込むとまた向きを変えられます。

あまりやるとキレるので、2回やったら一先ず下がります。


こんなしょうもないやり取りを何年もしていました。

しつこくてウザいスタッフだった自覚はあるのですが、今まで爺さんから苦情を言われた事はありません。爺さん以外にはこんな対応しないので、上司に注意された事もありません。


これが爺さんなりのコミュニケーションだったのでしょう。

爺さんと私だけにしか通じない楽しい言葉のドッジボールでした。



最近、爺さんは老衰で天国へ行ってしまいました。

もうあのやりとりが出来ないと思うとちょっと寂しい。


爺さん、どうか天国ではもう少し優しい口調で会話してね。

じゃないと友達できないと思いますよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ホッコリする話をありがとう。 その遣り取り見てみたかったです。
[良い点] ほのぼのしました。 困った患者さんですけど、憎めないですね。
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