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85.始まりの王2

 黄金の髪に紫紺の瞳、身長は180を超えるスタイルの整った男。嫌王が指をぱちりと鳴らすと、周囲に漂っていた紫色のオーラが周囲に広がる。

 薄い膜のようにリベレとデスペアに覆ったオーラは、光と共に霧散する。

 

 嫌王の治癒魔法。回復専門の魔法使いというだけあって、彼の治癒力は凄まじい。

 テラーによって切り刻まれた傷は見る影もなく、青白い顔のままデスペアは目を開けた

 切り落とされた右腕と、流れ落ちた血液は戻らなかったらしい。


 リベレの傷は治らなかった。魔法では銃弾は取り除けない。魔力のこもっていないものに干渉することはできないからだ。

 それでも、幾分か楽になった。



「楽王が、原初の王…」



 覚醒した意識の中、リベレは思わず言葉を漏らす。


 原初の王。

 感情大陸に降り立ち、五つの王と五つの国を作った始まりの人間。王族たちの生みの母。

 ミザリーの過去や感情大陸神話でたびたび耳にする人物だった。



 エクスの言っていた、「感情大陸には人間は一人しかいない」という言葉。その意味を理解した。

 


 感情大陸の外、巨大大陸から訪れた唯一の異国人。

 それが、原初の王だ。



 感情大陸崩壊などどうでもいい。

 巨大大陸で戦争をするための練習に過ぎない。

 旅行先の大陸が滅びたところで、関係ないということなのか。



「そう、僕たちの失敗は、魔法に頼りすぎていたということだ。お前は嫌国の調査網を潜り抜け、『論争』アーギュの感情の崩壊(エモ・コラプス) ですら検知されなかった。それは当然だ。原初の王は感情大陸の人間ではない。故に、『与楽』などという道化を黒幕と勘違いして、お前を見過ごしてしまっていた」


 嫌王は、鋭い目つきで楽王ーー原初の王を睨みつける。



「全て理解した。十六年前、お前は楽国を訪れて楽王と入れ替わった。そこからアミューズを筆頭に計画を始めたわけだ。悲国を滅ぼし、スペアちゃんを育て、楽国を支配した。大陸を混乱の渦に巻き込み、絶望に叩き落とした。どれもこれも、お前のくだらない考えのためにな!!」

「そんな怖い目つきしないでよぉ。私たち、家族じゃない」

「楽王の顔で口を開くなと言っただろう!」

「その楽王は私のクローンなんだからさ。同じ愛を私にも向けてくれよ」



 口を尖らせながら、原初の王は文句を言う。嫌王の怒りの言葉も、否定すらせずに受け流す。

 「ばれちゃったなら、いいか」と呟き、薄い色のついた丸眼鏡をぽいと外す。地に落ちたそれを踏みつけ、壊す。


 そこには、黄金の輝きをした瞳はなかった。楽国民の象徴の黄金から、漆黒の黒色の瞳へと。

 感情の均衡エモ・イクイリブリアムではない。彼女は生まれながらにして漆黒の瞳を持っていた。感情によって瞳の色が変化する感情大陸の特性とは無縁だ。



「全く、今まで隠してたのが全部おじゃんだ。あの女が嫌王と子供を作っているなんて、考えてもいなかったよ。デスペアちゃんが兵器として不完全で、無駄に自我が残っちゃったのもリベレくんが原因だよ。だから、リベレくんのことは気に入っているんだ。面白いし。でもね…」


 懐から、再び拳銃を取り出す。黒い筒は、寸分の狂いなく嫌王の頭部に向けられていた。


「嫌王、君はつまらない。五人の王の中で一番の失敗作だ。君の考える計画は退屈で、後手だ。探偵気取りで現れたのも、全てが終わった後。何もかも、全て遅い。探偵じゃなくて、君こそが道化だといい加減気がついた方がいい」


ーー実際、そうだ。


 嫌王は全てが後手だった。原初の王に同意したのは、リベレだった。


 なぜだ。なぜ今更来たのだ。


 アベレーンの転移魔法と、嫌王の治癒魔法があれば戦況は幾らでもひっくり返せた。

 デスペアを治療し、楽王に遅れを取ることもなかった。


 それなのに、全てが終わった後に彼は現れた。

 感情大陸は崩壊した。デスペアは、一生償うことのできない業を背負った。



 今更来たって何も解決しない。

 自ら、殺されに来たもの同然だ。



 命を刈り取る銃口を向けられているのにも関わらず、嫌王はどこか涼しげだった。

 寧ろ、余裕を見せつけるように笑う。リベレは、それが虚勢には見えなかった。明確な自信を持った微笑みだった。



「本当に、顔だけしか似ていないな。僕も楽王も、こんなやつから生まれた何て考えたくもない」

「それが遺言?」

「いや?だが、最後に言っておこう。僕は探偵でも道化でもない。一つの国を守る、王様だ。一つの家族を守る、父親だ。そして、物語の脇役でもある」


「あは。ここまで行くと面白いね。頭がおかしくなっちゃったのかな?」


「主役は、僕ではない。後は、わかるよね?」



 嫌王の目線は、既に原初の王から外れていた。ふらふらと揺れながら、だけど力強い目つきの少女へと向けられていた。


「うん。ありがとう、嫌王様。全部わかったよ」



 『絶望』デスペア。欠損した右腕を押さえながら、少女は立ち上がった。



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