表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/89

82.二者択一2

 私も、自分の体力が限界に近づいていることくらいわかっていた。

 このまま、このまま魔法を使い続ければ、体中の血液が無くなってしまうかもしれない。体は指先一つ動かせないし、声を出すのも精一杯だった。



 それでも、やらなければならない。


 感情大陸を滅ぼす。自分の生まれてきた意味を証明する。

 



 その後何をするか、色々考えていた。

 やりたいこともたくさんあって、話したいこともたくさんあった。

 ここで死ぬということは、何もできないというわけだけど。

 たくさん人を殺してきた私が、そこまで求めるのは、強欲だろう。



 だからこそ、まだリべレには来てほしくなかった。

 感情大陸崩壊後でないと、彼の顔は見たくなかった。


 彼は、ひどく狼狽した様子で、魔法の中断を迫る。

 このままだと、死んでしまう。自分の治療に魔力を使え、と。


 


 だけど、そんなことはわかっている。わかっているからこそ、止められないのだ。

 今、魔法を止めると、次にいつ力を使えるかわからない。それに、気持ちは固まっている。

 後一歩で、世界を終わらせられる魔法を撃てるのだ。



「もういい。わかった」



 突然、リべレは冷たげに言い放った。彼の瞳から焦りは消え、紫色の鋭い目線は、デスペアを見下ろす。


「お前がここまでめんどくさい女だとは思わなかった」

「あ…え?」

「スペア、勘違いするなよ。感情大陸が崩壊するとかしないとか、俺にとってはどうでもいいんだ」



 思わず、息を飲み込んで、血液が詰まりむせる。

 この男は今、何て言った?



「許せないのは、スペアが感情大陸を崩壊させる、その一点だけだ」

「わけのわからないことを言って、混乱させるつもり?」

「違う。叛逆者として、スペアが兵器になるのが許せない。嫌だ」

 


 まっすぐな瞳で、リべレは言葉を続ける。



「そんなスペアの姿を、俺は見たくない」



 その言葉は、周囲に鳴り響くどの音よりも小さかった。

 吹き込む暴風よりも、打ち付ける豪雨よりも小さな声。

 だけど、私の耳には、彼の言葉しか聞こえていなかった。



 そう。

 そうなのよ。


 彼は叛逆者。決められた道から、覚悟から、死者の呪いから、叛逆する男。

 そういう男なのだ。



ーーだから、まだ会いたくなかったのに。



「なんか、愛の告白みたいね」

「そうだ。これは愛の告白だ」

「へ」



 リべレは表情を崩さない。そのままの表情で、デスペアの天に突き上げている手を取る。




「スペア、お前のことが好きだ。だから、二度と決められた道を進むな。人を殺すな。大陸は崩壊させるな。後は、俺に任せておけ」



 ああ、この瞳だ。

 叛逆者の瞳。


 この瞳が欲しくて、私も叛逆者になりたくて。

 だから、彼の事が気になって仕方がなかったのだ。


 こんなに、幸せでいいのか。

 決められた人生から叛逆していいのだろうか。生まれてきた意味を否定して生きていいのだろうか。




「私は、私も…」





 大陸を崩壊させるために天に向けていた右腕に力を入れる。ゆっくりと魔力を抜き始め、崩壊の雨を止めようとする。



「私も、リべレのこと…が…」



ーー好き。リべレの事が好き



 そう口にしたかった。だけど、言葉は続かない。


ーーなんで


 いや、『なんで』という問いは適切ではない。なぜなら当然だからだ。

 彼女が、巨大軍艦の五階にいるのは、当たり前だ。


 ただ、私が信じたくなかっただけ。リべレと二人きりの空間に、割って入ってほしくなかっただけ。

 そこにいて欲しくなかっただけのことなのだ。


 リべレしか見ていなかったから。彼女の接近に全く気が付かなかった。




 彼の背後にぬるりと姿を現した人影。

 ウェーブ状に伸ばした黄金の髪、薄い色の付いた丸眼鏡、その奥に見える、鋭い黄金の瞳。



 彼女の名前は楽王。



 王室のある五階に再び姿を現した。しかし、彼女にしては珍しく、全く笑っていなかった。黄金の瞳を細目、冷徹な表情でリべレを見下ろす。


 彼女の右手には、『黒い何か』が持たれていた。筒のような黒い物体の穴は、地獄の闇に繋がっているかのように暗く、不吉だった。

 


「リべレ!!!」



 私の視線が自分に向けられていないことに気が付き、リべレは叫び声と同時に振り返る。

 振り返る瞬間に叛逆の一滴を生み出し、槍上に変化させる。


 楽王は、その様子を無言で見ていた。そのまま『黒い何か』に引っ掛けていた指を、自身の体のほうに引き寄せる。


 直後に鳴り響く、不気味な爆発音。

 楽王の持つ『黒い何か』とリべレの出した叛逆の一滴は、放たれた。

 同時にお互いに向かって。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ