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65.狂喜乱舞1

「私、感情大陸を滅ぼすわ!」


 スペアの言葉に、頭が真っ白になる。彼女の言っている意味が理解できない。

 理解できないのは、その前の言葉からだ。


 みんな殺した?プレスレスも殺した?

 楽国も沈めた?


ーーまさか…


 楽国を一夜にして海底に沈めた未知の装置。感情大陸を崩壊させる終末兵器。

 それが、スペア?


「ま、待て」


 天変地異を引き起こしたのがスペア?

 あの規模の災害を一人の少女が引き起こしたというのか?

 

 たちの悪い冗談だ。誰に言っても信じられる話ではない。

 だが、リベレだけは、その話を嘘だと一蹴できなかった。


ーーあ、ありえる。


 仮に、スペアの言っていることが真実ならば。

 国営孤児院の家族を皆殺しにし、親代わりのプレスレスも殺したとしたら。

 呪い持ちとしての力が起動し、彼女の真の力が目覚めるかもしれない。それはありえない話ではない。


 カーティたち裏通りの人間を殺しただけで、『震駭』テラーに立ち向かえるほど、力を得たのだ。

 彼女の最も大切なものが全て消えれば、それ相応の力を得られるはず。



 どれほどの悲しみを得たのだろう。

 どれほどの絶望を味わったのだろう。 


 彼女は、今何を考えているのだろう。

 なぜ、笑っているんだろう。

 

 

 リベレが理解した後に得た感情は、怒りだった。

 自分に対しての怒り。


 楽国への不振があったのに、スペアを国営孤児院に置いていってしまった。

 アミューズに会いに行く時、連れて行くべきだった。

 いや、それよりももっと前だ。


 もっと早く、スペアに寄り添っておくべきだった!


 思考がゆらゆら揺れて固まらない。

 後悔しても過去は変えられないのに、後悔が止まらない。


 そんなリベレに、スペアは言葉を浴びせる。


「だから、私いくね」

「待て」

「リベレとはまたいっぱい話したいことがあって、行きたい場所も、一緒に共有したい感情がいっぱいあるの」

「なら、今からでも良いだろ!」

「ううん、今ダメなの。まだ、『想い』を果たせてない」



 ダメだ。今彼女を行かせるわけにはいかない。

 彼女の瞳は、覚悟の決まっている瞳だ。

 やると言ったら、必ずやる瞳をしている。


 感情大陸は滅ぼすというのならば、彼女はやるのだ。


 再び雨を降らし、津波を起こし、大陸を沈めるのだ。


「ダメだ。そんなことさせない」


「うん、リベレならそう言うと思った。だから、仲間を連れてきたのよ」



 スペアが指を刺したのは、露店と机が多数並ぶ食堂だった。

 先ほどまで誰もいなかった空間に、一人の男が座っていた。どこから取ってきたのか、餡子のかかった団子を食べながら、食堂の風景に一体化していた。

 銀髪を短く整え、細身ながらも筋肉の詰まった中年の男性。腰に添えたロングソードは、全てを切り裂くためにあった。『狂気』エクスは、脚を組みながらこちらを見ている。



「今はリベレに会いたかったから会いにきただけ。私、先に行ってるから。さよならは言わないよ。また、自分の仕事が終わったら会いにくるから。そしたら、」

「おい!」

「そしたら、またデートしよ?」


 彼女は一方的に話を終わらせる。赤いドレスを翻し、スペアは離れていく。彼女は振り返らなかった。意思の固い、覚悟の決まった足取りで進む。大陸を崩壊させるために、彼女は進む。

 ふざけるな。そんなこと、許せるわけがない。


「まだ話は終わってない!」


 追いかけるリベレの前に最強の剣士エクスが立ちはだかる。食堂から劇場の前まで、一瞬の移動だった。

 ロングソードを抜き、リベレに向ける。


「さて、若い男女の邪魔をしたくはないんだが…。これも仕事でね。ベタだが、言わせてもらおう。ここを通りたければ、俺を倒してから行け」



ーーくっ、どうする




 エクスを背に、スペアを追うことなど不可能だ。

 

 状況は最悪だ。

 元より、エクスを倒せるのは怒王だけだ。だから、作戦の第一段階が怒王の解放だった。

 巨大軍艦に侵入してからほとんど時間は経過していない。

 

 他の誰かが、怒王を見つけて解放できたとは思えない。


 つまり、ここでエクスと戦闘を行うということは、一人で戦うということだ。




 否。



 

ーー何を言っているんだ…




 全くもって俺らしくない。

 スペアにあってから、調子は狂いっぱなしだ。


 怒王が来るまで待つ?

 エクスには絶対勝てない?


ーー馬鹿にするのもいい加減にしろってんだ


 俺は『叛逆』のリベレだ。叛逆者なんだ。

 スペアに会いに行くだけだ。その邪魔をするやつの相手なんかしてる暇はない。

 世界最強の剣士?だからなんだ。

 

 絶対に勝てない相手など、叛逆者冥利に尽きるじゃないか。



「死ぬ覚悟はいいか?リべレ君」

「ああ、覚悟はできた」



 懐から、短刀『リーフ』を取り出し、構える。

 未だ叛逆の一滴は使えない。だが、関係ない。



 エクスを一人で倒す。

 その覚悟は、できた。


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