03.不法入国3
非公式召集は、その名の通り国が全く関与していないとされている招集だ。裏通りに関わっていない人間は知る由もない。軍の中でも上層部の人間か、戦場で会う可能性のあるものにしか伝えられていない。
裏通りにある広間の掲示板に気が付いたら掲載されている。透明化の魔法を使って、役員が紙を張りに来ているのか。それとも、役員が裏通りの住人のふりをして貼っているのか。そこは明かされていなかった。
たまたま、裏通りの掲示板に紙が貼られ、たまたま、裏通りの住人が目的地に行った。そして、たまたま、掲示板の脇に報酬の金が置かれていた。
全て偶然だ。あくまで非公式。裏通り自体を国は認めていないし、そこの連中は全員犯罪者とみなされても仕方がない。そのような存在を国が頼るなんてことはあってはならない。たまたま、だ。
裏通りの住人には、魔法学園に通っていない自己流の魔法使いがありふれている。基本的には学園式の魔法には勝てないのだが、それでも天才というのはいる。国はその者たちに協力を仰ぐためにわざわざ遠回しに召集しているのだ。弱い魔法使いでも捨て駒程度にはなる。
魔法が使えない私にとっては学園式魔法と自己流魔法の差などわからない。興味のない話だった。
カーティは裏通りの住人の中では、有名な方だったようだ。彼女が歩く度、若者がよく話しかけに来る。前の件は本当にありがとうだか、次あったらよろしくだとか。話を盗み聞きすると、どうやら非公式招集についてのことだった。
彼女は毎回非公式招集に参加しているようで、そこで活躍をしているようだ。その時に助けられた裏通りの住人から、慕われている。
周りの連中に比べれば、カーティは強そうだ。それでも、『楽国』の軍にいた隊長クラスの人間と比べると対したことはない。カーティが『嫌国』全体でどのくらいの強さなのかはわからないが、思ったよりレベルは低いのかもしれない。彼女ができるなら、私も活躍できそうだ。
ひな鳥のように後ろに付いて回っている私に話しかける人間はいない。もちろん、金色の左目は隠している。
カーティから魔法の眼鏡を支給されたのだ。裏通りの住人には他の国から来た別の人種も多いようで、流通しているらしい。魔法の効果は、単純だ。目の色を紫色に変えるというものだ。
私の左目は、紫に輝いて見えた。これで私も『嫌国』民と見た目は変わらない。眼帯に眼鏡というあまり見ない容姿だが、裏通りでは悪目立ちはしなかった。他人を詮索しないのが、裏通りのルールだ。
「ここが裏通りの中心だ」
「真夜中なのに人が多いわね」
「夜の住人が多いのさ、裏通りにはな」
裏通りの広場、というか住宅の跡地だった。昔は金持ちが住んでいたのだろうか、かなり大きな敷地に建物の残骸が散らばっていた。草木は生い茂り、敷地の端に闇市場のように露店が展開されていた。
道は軽く整備されているようで、奥に続く道から枝分かれするように露店へ続いていた。
二人は奥まで進む。
人ごみをかき分けて進むと、先ほどまでとは雰囲気が一変した。そこには、直径4m程の正方形でできたモニュメントがあった。金でできているのだろうか、月明かりに反射してあたりを照らしている。その周辺だけが、高価なもので包まれていた。
明らかに異質。このモニュメントを中心に裏通りができているのも何となく理解できる魅力があった。魔法で保存しているのか、傷一つない。触ると、少し冷たい。
なぜだか、懐かしさを感じた。『楽国』の住人と同じ目の色だからだろうか。
「よう、カーティ。今回も参加するのか?」
「今回の非公式招集も大金だぜ!」
周囲の荒くれ者たちがモニュメントを見つめるカーティに話しかける。いつものことなのか軽く手をひらひらとさせて流す。
モニュメントには、1枚の張り紙が貼られていた。私は背伸びして張り紙に書いてある文字を読もうとするが、下の部分しか見えない。
「なんて書いてあるの?」
「『恐国』の西部を落としに行くらしい」
戦争は『嫌国』が優勢のようだった。『恐国』の領土まで進軍して、幾つも落としているらしい。二魔嫌士もその戦争に参加し、敵軍を落として行っているようだ。
今回は『恐国』の西部にある都市を目指すらしい。そこまでのルートは開拓済みで、都市部の二つの門を攻めるようだ。
一つの門は二魔嫌士が『嫌国』の軍を引き連れて攻める。もう一つの門を、裏通りの連中に任せると書いてあるようだ。
『嫌国』は随分と裏通りを信用しているようだった。二つの門の一つを任せるということは、軍と同格だと考えていると言っても過言ではないのだろうか。
「いや、そんなことはない。あくまであたしたち裏通りは捨て駒だ」
「そうなの?」
『嫌国』の東側に『恐国』がある。そして、『恐国』の南側には『悲国』がある。
今回は南西部を攻める予定だが、『嫌国』の正規軍は自国の真東の位置にある門(つまり西門)を攻める。裏通りの連中が攻める門は、その門よりさらに南側にある。
つまり、『悲国』と隣接しているというわけだ。『悲国』は謎の多い国だった。新大陸の覇権争いには参戦しているが、規模、戦力が把握できていない国だ。
その近くで戦争をするということは、『悲国』が動かない保証はない。裏通りの連中が行く門は、二つの国に挟まれる位置関係にある。
『嫌国』は、もし『悲国』が動いても損害を抑えられるようにしているのだ。最悪、裏通りの連中がいなくなっても問題ないと考えている。
自分達の命が蔑ろにされているというのに、カーティは楽しそうだった。それだけの価値が、報酬にあるのだろう。
「それに、今回はいつもと違う。スペア、お前がいるからな」
「私がいると何が違うの?」
「仲間ってのは多いに越したことはない。私から離れるなよ?」
『嫌国』民の評価を改めなければならない。『嫌』という感情を司る人種だ。嫌味ばかり言い、嫉妬心を含んだ目線をむけてくる人種だとばかり思っていた。彼女は私の想像する『嫌国』民とは大きくかけ離れている。
色々な人から慕われ、それを噯にも出さない。金には貪欲だが、欲を隠すこともしない。
私はそんな彼女のことを気に入り始めていた。自分に持っていない物を持っている。人を助け、人に慕われる。私とは正反対な存在だった。
いや、孤児院にいた時までは、カーティと同じような存在だったはずだ。あの日以降、私は変わってしまった。変わったのは環境だけで、私自身は何も変わっていないが。
軽く頭を振り、ぼーとしていた頭を覚醒させる。夜中ということもあって、眠いのだ。警備隊と追いかけっこした後だし。余計なことを考えてしまうのも仕方がない。
「で、カーティ。二魔嫌士にはどうやったら会えるの?」
「とりあえず、門を突破して、都市部に侵入するだろ?そこで敵兵を倒し、自軍と合流するのさ。そしたら、二魔嫌士の1人、アブローン様がいる!」
「アブローン…」
『恐国』は国を中心に壁が築かれているらしい。西門から攻める自軍と合流するためには、南西門から時計回り、左回りに進めば良い。
二魔嫌士に会うという目的があるものの、どんな人間なのかは知らない。『憎悪』のアブローン、『嫌悪』のルーゼン。カーティから逸話はたくさん聞いたが、実際のところどうなのだろう。
憎悪だとか、嫌悪だとか、その異名から好印象は得られないが大丈夫なのだろうか、という不安がよぎる。
というか、アブローンに会うためには、進軍に成功させなければならないか。裏通りの力を知らないので、どのくらいの成功確率なのかわからない。
カーティは一騎当千というほどではない。二つの門のうち、一つを任せられるということは、二魔嫌士相当の力を持った人間が別にいるのだろうか。
モニュメントに集まっている連中の中だと、カーティが一番強そうだった。この面子だけだったら、『恐国』に勝てるとは思えないが…。そもそも『恐国』がどのくらい強いのかすら知らないから、この思考すら無意味だが。
やはり、夜更かしはするべきではない。早く寝よう。
私の欠伸を見たカーティは帰路に向かった。どうやら、彼女の家に泊めてくれるらしい。
魔法の眼鏡をくれたりと、『嫌国』で快適に過ごせるように全力を尽くしてくれるようだ。
「ところで、スペアはどのくらい強いの?」
警備隊から一時間は逃げれる足の速さをカーティも目にしていた。弱くはないのはわかる。だけど、どの程度の強さなのか、それによって、非公式召集から貰える報酬の量も変わるだろう。
そんなカーティの疑問に、私は自信ありげに答える。浅はかな自信だが、去勢を張って前に進むしかない。
「あんたの100倍は強いよ」
今はまだだけど、と内心で付け加える。
カーティは嬉しそうに頷いた。自分の直感が上手くいっていたからだろう。私を助けることが、金になると考えていたが、現実的になったのだ。
私とカーティが手を組んだら、モニュメントにいた連中の半分くらいの力はあるだろう。戦争でも成果を上げられるに違いなかった。
進軍は早朝だった。数時間しか寝れなかったが、それでも十分だった。瞼を閉じた瞬間に睡魔に飲み込まれた。久しぶりに、悪夢を見ずに寝ることができた。




