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34.『執念』同類

「不死者ですか…。あの男、何者なんです?」

「ううむ…。嫌国の王族じゃ。血筋からして相応の強さはあると思っていたが、まさかここまでとは。」

「王族…へえ」



 『怨み』ビターと『論争』アーギュは遠目で二人の戦いを見ていた。少しでも近づくと、爆破の余波で吹き飛ばされてしまう。アーギュはビターの足を掴みながらも戦闘に夢中だった。子供らしいところも、彼女の魅力だとビターは思った。



 ヴェンジャーの一方的な攻撃にリベレはなす術もなくやられている。しかし、彼を殺すには至らない。正確には死んでいるが、死んでも返ってくる。叛逆者は生命というカテゴリから外れているのだ。


「ヴェンジャーは生への執念。リベレは死への叛逆。向かう方向は真逆じゃが、似たもの同士と言うわけじゃなぁ」


 アーギュは真紅の瞳を曇らせながら呟く。一瞬で終わると思っていたが、ここまで善戦するなんて。

 『執念』ヴェンジャー。魔力を爆発させる事によって、敵を吹き飛ばす戦闘狂。感情の崩壊(エモ・コラプス) の能力は『執念』。生への執念によって、失われた内臓や四肢はすぐに元の形に戻る。そして、戦闘への執念。彼の攻撃は外れない。物理法則を無視した軌道で攻撃は相手に当たる。

 対して、『叛逆』リベレ。変幻自在の漆黒の液体、『叛逆の一滴』を自在に操り、遠距離からの攻撃を得意とする。感情の崩壊(エモ・コラプス) の能力は『叛逆』。死への叛逆によって、失われた内臓や四肢はすぐに元の形に戻る。『叛逆の一滴』に触れたものは、逆行、分解される。皮膚は無くなり、肉は消えていく。


 爆発する拳による連続攻撃によって、リベレが完全に治癒することはない。常に体のどこかが欠けている状態だった。それでも、彼は拳を振るう。

 ヴェンジャーに振るわれるその拳を、彼は避けようとしない。肉体で受け、攻撃を感じる。お返しとばかりに拳を振るう。肉体への損傷は感情の昂りによって回復する。


 二人は同じ不死者だ。感情が焼き切れるまで戦いが止まることはない。

 もはやそこにあるのは戦闘ではない。拳による会話だ。


 ヴェンジャーは昨夜あった男に、奇妙な友情を感じていた。戦いの中でしか得られない縁が二人を結んでいた。何を迷っている。やられたままでいるな。早く本気を出せと拳を通してリベレに伝えていた。


「くくく、早く俺を楽しませろ」

「…」


 金髪の青年に答える余裕はない。


 

 二人の戦いを見て、怒国民は歓喜する。男の本気の殴り合い程、面白いものはない。拠点内は熱気に満ち溢れていた。


「やけにあの金髪の少年に詳しいですね。『論争』の力ですか?」

「怒王が恐国の戦いを見ておけと言ってたのでな。『震駭』テラーの戦いには注目していた」

「怒王様と同じ強さを持った男でしたっけ?僕には信じがたいですけど…」


 ビターは自身の顎を触りながら思考する。四怒将が一番怒王の強さを理解している。怒国の中でも最強の四人が、全員従う存在だ。彼らは、怒王の強さに心の底から恐怖している。

 その怒王が『震駭』テラーと戦って勝てるかわからないと言った。聞き間違いかと問う程の衝撃だった。


「まあ、『震駭』が強いのは予想通りではあった。あの恐王の最終兵器じゃからな。驚くべきは、『震駭』とやり合っていた二人じゃ」

「金髪の少年がその一人だと?」

「そうじゃ。そして、もう一人は楽国の少女じゃった」

「なるほど。楽国との繋がりも見えてくるわけですね。ヴェンジャーに始末してもらうのが一番手っ取り早いと言うわけですか」

「その予定だった…んじゃが」


 アーギュは驚きを隠せない。あのヴェンジャーが倒せないとは…。

  まさか四怒将の一人が負けるとは思えないが、予想外だ。


 アーギュが決闘に集中している隣で、ビターは立ち上がる。黒いコートが風に揺れ、背中を向ける。


「アーギュ様。客人が来たので僕は失礼します。あなたもそろそろ怒国に戻ったほうがいい」

「ん?まあそうじゃな。いってらっしゃい」

「ふふ、行ってきます」


 アーギュの様子が会ったときからおかしい事に気がついていたビターだったが、自分の仕事を優先する事にした。まさか、リベレに脅されてこの決闘を仕組んだとまでは考えていなかったが。





 二人が戦う広場から東側にビターは歩く。腰にかけてある刀を抜き、拠点の出口に向かう。

 刀は赤く燃え、火を纏っていた。


 『怨み』のビター。彼は異名の性質上、他人の感情に敏感だった。その力の効力は広く、索敵能力としては怒国の中でも随一だ。この拠点に、怒り以外の感情が混ざっている事には気がついていた。様子を伺っていたが、男たちの戦いに割って入られては困る。


「我が名は『怨み』ビター。四怒将の一人。楽国の侵入者よ。僕が相手をしよう」


 彼は拠点の入り口で高らかに天に向かって声を上げる。


 アーギュがビターを呼んだ理由がわかった。彼女はこうなることを予想していたのだ。朝早くから何事かと思ったが、来てよかった。ヴェンジャーの足止めをしている間、ビターが敵を排除しなければならない。



 空からは箒に乗った二人の女が降りてきた。一人は、茶髪に紫色の目を持った女。その後ろにいるのは、黒髪に右目に眼帯をした少女。「アーギュ様と同じくらいの身長だな」と思った。


 だが、その少女の左目は黄金に輝いていた。


 ビターは笑う。楽国民だ。怒国民の尊厳を破壊し、感情大陸を支配しようしている最悪の国。人類の敵だ。

 戦争だ。僕たちは戦争をしている。楽国民を全員滅ぼすのだ。


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