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01.不法入国1

 綺麗な夜空、見慣れない景色、初めて訪れた外国。

 観光、温泉、そして美味しい料理。そしてその過程で出会う仲間。


「っていう予定だったのに!!」


 私は走っていた。走った。現実から走り去りたいくらいだった。

 観光もできない、入浴どころか汗すら流れている、お腹は空いているけどご飯も食べれない!

 走る。走る。

 行き先は決まっていない。それでも走るしかない。



「おい!あっちに逃げたぞ!」

「追え!追え!」




 走る。走る。走る。

 夜中だというのに、街は騒がしく、人で溢れていた。祭りをやっているのかと錯覚するくらいあちらこちらに光がともされ、あたりを照らす。私も普段だったら、奇妙な街の雰囲気に惹かれ、住民と一緒に祭りを楽しむだろう。これが祭りだったらな。


 まあ、祭りを楽しんでいるといえば、端から見れば楽しんで見える事もあるだろう。私と街の警備隊の追いかけっこ。いや、鬼ごっこのほうが正しいか。夜の闇に紛れることもかなわず、ただひたすらに逃げることしかできなかった。



「ああ、もう!なんなのよ!」



 私の叫びには、警備隊たちはなんの反応も示さない。その事実に舌打ちをしつつ、走る。ただ眼の色が違うだけで、ここまで追い立てるのか。警備隊の神経質さには呆れさえする。


 幸い、身体能力は『今』はかなり高いほうだ。いくら走っても疲れる気配がない。かといって、警備隊達を倒す力があるかといえば、そこまではない。一人や二人なら私でも殴り飛ばせるかもしれないが、何人いるか想像が付かない。



「めんどくさい!」


 

 感情をぶちまけ、ストレスを軽減させる。走りながらできることはそれだけだった。

 人種差別ほどくだらないものはないと、私は思う。警備隊も暇なのだろうか。暇に違いない。


 この街に入った瞬間から逃亡劇は始まった。街と街をつなぐ検問所を通った時だ。特に何も気にせず、国に入る目的と、国籍を告げた。もしかしたら、告げる前だったか?もう覚えていないが、検問所にいた人間はすぐに警備隊を呼んだのだった。

 

 私の左眼。金色に光り輝くその瞳を見たら、この国にいる人間は誰しも気が付くだろう。その人間の国籍を。

 紫色の眼をした人々が暮らす国、『恐国』。その中で、私は異物とみなされた。

 

 

「この国は差別が少ないって言ってたじゃない!!」


 この国へ向かうといい、と去り際に行った男のことを思い出す。育ての親同然の男ということもあり、疑う余地はなかった。なんの準備もせず、検問所に訪れたのが失敗だった。



 走る。走る。



 捕まることはない。私の足は速く、警備隊達は誰一人追いつけなかった。ただ、数の差という物がある。住宅街をスピードで逃げ回る私に対し、警備隊達は地の利で勝負した。魔法による情報の伝達、脳に刻まれた自国の地理。その二つを駆使することで対抗しているのだ。


 こうして、終わりのない逃亡劇は始まった。もうすぐ、1時間は経つだろうか。これは、どこまで逃げればいいのだろう。というか、ここはどこで今何時だ。

 私のその疑問に答える人は相変わらずいない。私は人に飢えていた。



「もういっそ捕まろうかな」



 今なら、捕まっても死なないだろう。死なない自信があるし、最悪脱走すればいいのだ。流石に、警備隊も出会い頭殺したりはしないだろうし。

 それよりも、会話をしたい。警備隊達で暇をつぶそう。この国の情報招集はその後でもいいだろう。

 裏路地で歩みを止め、呼吸を整える。

 さあ来い、と後ろを振り返ったときだった。



「おい、こっちだ」



 タイミングを見計らったように、道角の向こうから声がする。少し低い、女の声だった。姿は見えないが、道角から手がひょっこりと現れ、手招きされる。 

 周囲を見渡すが、幸い警備隊達はまだ来ていない。つまり、自分に声をかけられた、と考えるのが普通だろう。


「誰?」

「誰でもいいだろう。警備隊が来るぞ」


 警備隊ではないのだろう。女はすこしいらついたようにー-といっても、手しか見えないがー-急かす。

 私は少し考えた後、女についていくことにした。その女が警備隊の用意した罠でも、そうでもなくてもどちらでもいいと思ったからだ。逃亡劇には飽きた。それ以外なら何でもいいや。




 道角を曲がった瞬間、いや、曲がる直前だ。視界が暗転し、すぐに明るくなる。チカチカと目が痛くなり、思わず目をつぶる。



「ああ、ごめんごめん」

「いや、大丈夫」



 瞬きをすると、視界が安定してきた。

 変化のない星空とは違い、薄暗い光がそこにはあった。空気も温かく、室内に入った様だ。

 紫色に光る照明に加え、ガヤガヤと話し声が聞こえる。警備隊は居らず、酒を嗜む人ばかり。


 BARだ。夜中に営業しているのか、客もちらほら酒をたしなんでいる。そして私の肩には、先ほどまで手招きした手に掴まれていた。


「魔法?」

「そう、魔法だ。まあ、私が使っているわけじゃないんだが、透過する壁ってやつだ」

「なるほど」


 道角の先から手招きをしていたわけではなく、壁を貫通させて、手招きしていたのだ。よくBARを観察すると、出口が存在しない。私と女の正面にある『透過する壁』とやらが唯一の入り口になっているのだろう。


 一通り納得した後、肩に掴んでいる女の手を振り払う。そのままBARのカウンターに座り、壁で啞然としている女に顔だけ振り返りつぶやく。


「とりあえず、座れば?」

「はぁ?いやいや、あたしのセリフでしょ」

「あんたのおごりでいい?」

「ふてぶてしいやつだな」


 私はそのまま、オレンジジュースを頼んだ。この流れで酒じゃないのかよ、と女は小声で突っ込んでくる。



 プレスレスさんに教えてもらったことがある。

 私の身長は140cm程で年齢にしてはとても小さい。身長の低さはとてもコンプレックスだし、ガキだと思われて舐められやすい。

 プレスレスさん曰く、初対面の相手には高圧的、強気に当たるべき、とのことだ。舐められたら終わりだ。


 

 目の前の女は私の威圧にビビったのか、舐めた態度は取らなかった。成功、というわけだ。

 軽い困惑を見せた後、女は私のを興味深そうに見つめる。そして、店主から受け取ったオレンジジュースを温かい目をしながら渡す。だめだ、舐めてやがるこいつ。

 女は適当に酒を頼み、隣に座る。



「あたしは、カーティ。あんたは?」

「スペア」

「ふーん。スペアは何しにこの国に来たんだい?」

「それをあんたに教えて何の得があるのよ」

「おいおい、助けてあげただろう?」


 カーティは酒を飲みながら私を見る。

 顔をマジマジと見られるのは少しむず痒い。眼帯をしている右目に注目しているわけではない様だ。

 やはり、この国にはいない人種、左目の黄金の輝きを見ている様だった。


「助けてなんて頼んでないし。助けられたとも思ってないし」

「いいねぇ。度を超えたふてぶてしさだ。全く可愛げがない」

「それはどうも」

「背伸びして可愛らしいね」

「おい」


 カーティは紫色の目で私を値踏みするように見つめる。


 こいつ、奴隷商人か何かなのか?と、思った。

 一旦、逃亡劇は終了したが、このカーティとかいう女の考えていることがよくわからない。目的が見えない。

 カーティはピンクの髪をした高身長の女だった。筋肉質でタンクトップが非常に似合う。BARの人間というより、酒場にたまたまいた逆だろう。そして、この国特有の紫の目。

 

 私がカーティの目を見つめていることに気が付いたのか、カーティはにやりと笑う。目の色は、お互いが気になる点だった。


「スペアの国だとめずらしいだろうなぁ」

「そうね」

「この国だと、お前の目のほうが珍しいけどね」

「そりゃそう」


 私は両手でコップを掴み、そのままごくごくと飲み干す。


「で、スペアは何のためにこの国、『嫌国』に来たんだい?」

「言うと思う?」

「言うとも。力を貸してやろう」

「はぁ?」


 私は肘を付き、呆れたようにカーティを見る。


「力?なんのこと?」

「協力者が必要なんだろう?力になってあげるって言ってるの」

「まだ、何で国に来たか言ってないんだけど」

「まあまあ。でも、協力者がほしいからBARまで付いてきたんだろう?」


 鋭い洞察力だ。ただ筋肉がある力自慢の馬鹿な女だと思っていたが、カーティの評価を上げなければならない。

 私の沈黙を肯定と捉えたのか、カーティは酒を一口飲み、頷く。


「この国に来てわからないことも多いだろう。あたしが力を貸すよ」


「ふうん、絶対に後悔するよ?」

「上等だ。ただし」


 カランと、飲み切ったグラスの中で氷が揺れる。カーティはそのまま、店主に酒を頼む。度数は先ほどより弱いものだ。


「金になる話だよな?」


これから、区切りがつくまで毎日投稿します

ぜひ読んでいってください

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