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09.接敵

 『恐国』の中で休息を取ることは不安でしかなかったが、見張りの制度が確立されていた。裏通りの連中は複数人で交代し、常に万全の状態で警戒していたからだ。

 規律がなくバラバラな連中という印象だったが、戦場では違うようだ。休むときは休むし、警戒するときは警戒する。自身の命のためにお互いを信用しているのだ。


 仮拠点の中は随分と居心地が良かった。簡易ベッドがあたりにしかれ、布切れ一枚のテントなのにだ。おそらく、魔法が関連しているのだろう。快適な温度に、清潔感もある。加えて、男女別に区域が分かれていて、治安もいい。カーティやリパグーなど、女性陣に実力者が偏っているからだろう。


 そのおかげで、一回も起きることなく寝ることができた。過度の疲労感のおかげで、寝床に入ってから一瞬で夢中へ落ちれた。悪夢を見ずに済んだ。


 見張りの担当が私に割り振られていなかったのは、朝になって気が付いた。隊長を倒す実力者というレッテルをジェラが貼ってくれたおかげだ。

 実力者にはしっかり休んでもらい、弱者で見張りを回す。裏通りの連中は、合理的だった。非公式招集を国が行いたくなる気持ちもわかる気がした。



 早朝。

 指揮はカーティが取り、裏通りの連中全員で南西門へ進軍が始まった。


 話によると、南西門には既に仮拠点が完成しているらしい。二魔嫌士率いる正規軍も、我々と合流をするために南下するとのことだ。

 今日のゴールは、正規軍と合流し、南西門の仮拠点に辿り着くこと。

 明日、『嫌国』は正規軍と裏通りを合わせた大勢力になって一気に進軍し、『恐国』を叩くのだ。



 茶髪のボブの魔女、リパグーは箒に乗って空を舞っていた。

 彼女の戦闘場面を初めて目にしたが、確かにリベレと並ぶ実力者と言われるのもわかる。


 彼女の優れているところは、上空からの索敵だ。空から周囲を警戒し、接敵を許さない。七色の光線を飛ばすという攻撃手段も、非常に噛み合っている。遠距離からの光線に当たった敵は、リパグーを見つける前に全身が溶けていった。増援を呼ぶ暇すら与えない。


 先頭にはリベレがいた。リパグーの攻撃を避ける強者は、彼が対応する。先ほども、隊長と名乗る『嫌国』民を瞬殺していた。彼が飛ばす黒い靄に触れてしまったものは、みるみるうちに消滅していった。 



 これが裏通り最強戦力達。昨日1日かけてカーティらが進んだ距離を、1時間で歩むことができた。


 彼ら二人がいるということもあるが、昨日のうちに隊長クラスの人間を何人も殺したことによって進軍が容易になったらしい。リベレらが、今朝単独行動をしたのも、今日のためだったのだ。


 私はカーティと共に、最前列にいた。出る幕はない。二人がいるおかげで、手持ちぶたさだ。

 とはいえ、軽口を叩く気にもなれない。気を抜いて歩いているのは私くらいで、他の連中は気を張っている。道中は敵の断末魔のみが響く奇妙な空間だった。


 そんな私たちの歩みが止まったのは、太陽がちょうど真上に登った時のことだった。


 

「あ」


 一瞬、私の口から出た音かと思った。

 忘れ物に気が付いた時のような、うっかりした呆気ない声。


 ざわざわと、不安が胸を包む。

 

「リパグー?」

「…」

「おい!リパグー?」


 カーティの問いに答える声はない。先程まで、色とりどりに輝いた光線を飛ばしていた魔女の姿も無い。雲一つない青空がそこには広がっていた。


「嘘でしょ」


 それは敵の接近を意味していた。今までの隊長クラスの敵とは訳が違う。強敵。


 あのリパグーが先手でやられたのだ!



 そこには緑色の目をした女がいた。大きな目に、口元が隠れる程のダボダボな服を着ていた。手元は見えない。黄緑色の短髪で、身長は160cm程、リパグーと同じくらいだ。


 彼女はゆっくりと、私たちに近づく。ずるずると服を引きずりながら、少しだるそうに。

 いつ、どのように、リパグーが攻撃されたかわからない。

 ああ、まずい。アンクシャとの戦闘で私は学んだのだ。『恐国』民と戦う時にしてはいけないこと。

 未知の攻撃はまずい。


 未知は、恐怖に繋がる。


「な、なんだ!?」

「リパグー!」


  

 頼りになる仲間が居なくなる。それもまずい。裏通りの連中はリベレとリパグーに頼り切っていた。それが無くなる、不安。


 今思うと、『恐国』の罠に嵌まっていたのだ。ここまでスムーズに来ることで、リパグー達への依存性を高めた。

 そして、リパグーを奇襲で倒す。彼女より弱い人間は、恐怖に陥る。最悪なことに、彼女より弱い人間は裏通りの連中のほぼ全てだ。

 恐怖は伝染する。状況が読み込めていない人間も、すぐに恐怖に陥った。


 カーティ、リベレ、私を除く全員が恐怖に染まった。アンクシャが作り上げた十五人の恐怖による強化の比じゃない。数百人が一度に恐怖した。


 目の前の女の元の強さがどの程度だったかはわからない。ただ、今の彼女は奇襲じゃなくてもリパグーを倒せるような、気迫があった。


 アンク社のいう通り、本当に『恐国』民は戦闘に適している。強ければ強いほど恐怖を与え、恐怖すれば恐怖するほど強くなる。感情は連鎖し、人に伝わる。恐怖は伝染し、増幅される。

 恐怖した裏通りの連中は動きが鈍くなる。こうなると足手纏いだ。『恐国』民の強敵に、弱い味方は存在が利敵だ。




 私は恐怖に染まることはなかった。


ーーどうしよう。


 他のことを考えていたから、恐怖する余裕がなかった。

 

ーーまだ、間に合う。



 胸元に隠してある、短刀『リーフ』を握る。そして、隣にいるカーティをチラリと見る。

 リパグーが一瞬で倒されるような相手に私が勝てるわけがない。

 『呪い持ち』の力を発動させる必要がある。


 カーティは緊張した表情で、近くまで歩いてきた女を睨んでいる。

 私の様子には気が付いていない。


ーー今なら、カーティを殺せるわよ?


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