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私が夜を好きな理由。

作者: 秋人

私は夜が好きだ。

空を飲み込む闇の深さも、

遠くを吹く風の音が聞こえるような静けさも、

私を優しく包み込んでくれる気がするから。


そして私はこんな夢を見た。


気がつくと私は一体どこか分からない薄暗い路地裏に立ち、ぼんやりと何もない空を見上げていた。

突然えも言えぬ不安に襲われ、せめて知っているところに出ようとコトリ、コトリと足を前に踏み出した。


淡くぼんやりと灯る提灯の光、遠くから聞こえる艶やかな笛の音に誘われるようにたどり着いたのは、この頃すっかりみなくなった祭りの屋台だった。


焼きそばを焼く男の姿、りんご飴に目を宝石のように輝かせる少女の瞳、お面を欲しがり泣き出す子供の声、その全てがどうしてか少しだけ懐かしく感じた。


「ああ、せっかくのお祭りだ、何か土産になるものでもあるだろうか」


そう思い、出店を眺めてぼんやりと歩いていると一人の少女に声をかけられた。


「そこのお方、もしよければこのお祭りのほんの思い出にガラス細工の装飾品なんていかがですか?」


その声の方を見ると出店には鮮やかな色彩と複雑な形状のガラス細工が多く並んでいた。


「普段から身につけるには少し派手かもしれませんが、ただ窓辺に置くだけでも少しは気分が良くなりますよ」


なるほど、確かに部屋に飾るだけでも鮮やかで美しい。

そう思った私はおもむろに一つのガラス細工を手に取った、それは淡い黄色のスイセンの花を模した髪飾りだった。


「お買い上げ、ありがとうございます」


「いや、素敵な思い出を売ってくれてありがとう」


そう言い残して私がそっとその場を立ち去ろうとしたとき、だんだんとあたりの屋台が閉まりひと気が減っていくのに気づいた。


「もうそんな時間か」


祭りの熱気が消えてきたからだろうか、私は何故か肌寒さを感じ、このままで風邪でも引いてしまっては大変だと思い家に帰ることにした。


知らないはずの場所であったのに、ただ帰りたいと思って歩いただけで私の家にたどり着いた。

ドアを開け、ソファに座っているあの人の後ろ姿に声をかけると、

「おかえり。」

と、まどろんだ返事がふわふわと飛んできた。


その声で先ほどの肌寒さもすっかり忘れた私はそっとあの人の隣に座り、ただ今にも寝てしまいそうなあの人の横顔を眺めていた。


やがて目を閉じ背もたれにもたれかかったあの人の髪に、祭りで買った髪飾りをそっと付けた。

あの人は起きたら一体どんな反応をするのだろうか。

そんなことをいたずらに考えて、淡い黄色の髪飾りのよく似合うあの人の姿をまた静かに眺めていた。

そうしているうちに私も眠気に襲われ、あの人の隣でそっと意識を手放した。


その瞬間、半開きの窓から吹く冷たい風で、私は目を覚ました。

そして今までの光景が全て夢だったのかと気づき、窓辺にある白黒写真の中のあの人と目が合う。

少しの間、写真の隣に供えた花を見つめた後、私はまた静かに目を閉じる、夜が私をまた夢の世界へ招いてくれるように。


私は夜が好きだ。

夜に見る夢の中でだけは、

もう二度と会うことのできないあの人と、

静かな夜を過ごすことができるから。

初めて書いた作品なのでわかりづらい表現や読みづらいところもが多々あったと思いますが、読んでいただきありがとうございました。

このお話と同じように、大切な誰かとのお別れに深く悲しんでいる方々が少しずつ時間をかけてでもその思い出を大事にしながらまた日常に戻れることを祈ります。

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