出会いと引き継ぎ
初投稿。一次創作って難しい。
主人公は伊崎薙爪
引っ越して来たのは深塚繋太
普段通りの寝起き。普段通り美味しい朝食。普段通りの通学路を歩き、普段通りの教室で、普段通りのクラスメイトなのだから馴染めるはずもなく頬杖を着く。普段通りつまらない授業を受け、普段通り昼食を取る。自作の昼食にこだわりは無いので普段通りのメニュー。もう『飽きる』という気持ちにも飽きた。普段通り争い事が無い代わりに面白い事も無いホームルームを終え、朝と全く変わらない通学路を通って家へと帰る。帰宅後普段通り兄の自室で彼がパソコンを打っている音を確認してから、自分の自室に備え付けられているベットへ身を投げる。
夕食から、僕の1日はようやく始まる。兄と唯一コミュニケーションが取れる時間だからである。
兄作の夕食を取りながら今日1日の生活を報告すると、彼はいつも悲しそうな顔をする。その理由は分からない。
僕が一方的に喋り終えると、食卓は静寂に包まれる。普段通りならその後はずっと静かなままだが、今日は食後に食器を提げながら兄がした報告によって変化が生まれた。
「...今やってるプロジェクトに終業の見通しが着いた。丁度薙爪の夏休みが中間に差し掛かる頃だと思う。そうしたら旅行にでも行こう。」
「...分かった。」
一瞬目を見開いた。記憶が正しければ3年は続いている仕事だ。いつかは終わると分かっていても驚きは大きい。
だがその気持ちに負けない位大きな喜びも混み上がってきた。なんて言ったって3年振りの兄弟での旅行だ。嬉しくならない訳が無い。
ただ、思春期の僕に満面の笑みではしゃぐなど恥ずかしいたらありゃしない事だった。ハードボイルドなんて演出出来る歳じゃないが、それでも寡黙な兄に憧れている身としては『静かな俺...かっこよくね?』という感情が生まれている。(決して厨二では無いと信じたい)声変わりで随分低くなった地声を短く出し、こう言う小さな場面でも自分が憧れるスタイルでバシッと決めたかった。
僕がそういうお年頃だと知っている兄は『喜び』という感情を押し殺した声でも僕が心の奥底ではヒャッハーッとはしゃいでいる事に気付いているのだろう。肩が震えているのは恐らく気の所為だ。お年頃な僕に吹き出すのを我慢しているとかそういう兄では決してない。
両親の居ない僕は兄に対して普通の弟が自分の兄に抱く感情とはまったく違う感情を抱いている。それは兄と言うより父に抱く感情に近いかもしれない。まああくまでも近い、だが。兄は兄だし。僕にとって兄は特別な存在なのだ。小学校で将来の夢の作文に、兄になりたいという言葉とその理由を並べて書いたら貰った原稿用紙が足りなくなった程には。
食器を片付け終わると、兄は普段通り仕事に戻った。僕達を不自由無くしてくれる仕事なのだから恨んではいけないが、仕事が兄を奪っているという気持ちも少なからずある。まだまだ自分も子供なのだと、確認させられる感情である。...ちょっと幼すぎる気がしなくも無いが。
部屋へ戻ると普段通りの刺激の無い課題が待っているが、それさえ終わればゲームをしたり推しを愛でたり出来る。趣味の時間は、僅かながらに感じる普段通りのつまらない気持ちを無視さえすればとても楽しい。この時間が終わればまた普段通りの変化の無い時間が続くと思うと、ついつい夜更かししてしまうのは仕方の無い事では無いだろうか?次の日寝坊せずに起きられているし。まあそのせいで入浴する時間が10:00を越えているのは余り良くない事かもしれないが。
目を覚ませばまた大方普段通りの生活が始まる。...起床時に1度ため息を吐いたのは、変化と言えるのだろうか?
1日24時間。僕の世界に変化が生まれるのはたった2〜4時間。毎日のそれと、たまにあるイベントだけでは全然足りない
だから、
「やあ!突然だけど君には今日から東洋を救ってもらう事になるから!拒否権?そんなのある訳ないでしょ〜!とりあえずこれからよろしくね!!」
こんな事言われて、
「...なんなんですか貴方」
心が踊らない筈が無いんだ。
と、前座はこの辺にして。今目の前にいる如何にも大学生活謳歌してます!!という雰囲気を醸し出している男について記しておこう。
名は、深塚繋太。黒髪にアルビノなのか白い瞳。身長は180を超えていそうでそして...男の僕から見ても、イケメン。しかも兄と同じ大学に通っているという事は高学歴でもあるのだろう。
この男が今、僕の自室にいるのには山よりも低く海よりも浅い訳がある。
それは今日の夕食の事。兄が唐突に、
「薙爪。兄さんの大学の寮が今度取り壊しになるんだけど...」
と切り出した事から始まった。寮の取り壊しが決まったので寮を借りている人間の次に住む場所を決める必要が勿論あり、OB会に所属している兄は引越し先を探す手伝いをしているらしい。しかし次々と引越し先を決めていく兄の後輩達の中で1人だけ、一向に決まらない生徒がいた。彼...繋太は相当運が悪いらしく、住もうと思い不動産屋に相談してみても、売れたのに店先に紙を貼りっぱなしにしていたと謝罪されたり、先程の客が契約を終わらせたばかりだ、と言われたり。数々の逸話の中でも、手抜き工事が発覚して引越す1週間前に急遽取り止めになったというエピソードを聞いた時には
(うわぁ...この人運無いなぁ...)
と当時は名しか知らぬ彼に激励を送りたいと心の底から思ったものだ。...それと同時にそこまで運が悪い彼が無事我が家にやって来たら、反動で大変な厄災が降ってくるのでは?とも心配になったが...
そして我が家にやって来た繋太と兄も一緒に、荷物を掃除し終わったばかりの空き部屋に運び込む作業が終わって一休みしていると、兄と繋太がこれからの事を話し始めたので、長い話になりそうだったので自室で寛いでいると...
...突然部屋にやって来た繋太がこんな事を言い出したのである。
「...ねえ繋太さん。流石に大学生だし、厨二病は卒業した方がいいんじゃない?」
僕は溜め息を吐いてから、相手が年上である事を忘れジト目で繋太を見つめた。だって丸出しなんだもの。少し失礼な態度かもしれないが僕は悪くない。
因みに僕は現役の中2だ。今の所発症していないが拗らせてもおかしく無い程には漫画やアニメを見ている。まあ拗らせたくなる位漫画の必殺技はかっこいいが、それでも大学生にもなって3次元と2次元の区別がつかないのはちょっと...
しかし、暫くジト目で見続けてみても繋太はニコニコと笑ったままである。
...厨二病の事はこれ以上触れても繋太は認めないだろう。ならばここは一つ、聞き間違いかと思った事を聞いた方が時間を有効に使えるな。
僕はこの沈黙の間(尚ずっと見つめ合っていた間とも言う)気付き、引っかかっていた事を繋太に質問する事にした。
「...さっき僕が日本を救うなんて突拍子も無い事言ってましたよね?それってどういう事ですか?」
(流石に宗教勧誘までしてきたら兄さんに報告しよう。)
そう思いながら再度溜め息を吐く。厄介事に巻き込まれそうなのは正直ごめんだから気分が滅入るのも仕方無い事だろう。お互い立ちっぱなしだった事に気付き、繋太を勉強机に付属されている椅子に腰をかけさせた後、自分はベットに座ると繋太はどんよりとした雰囲気の僕を見て、部屋に入った時と変わらない笑みを浮かべながら言った。
「うん!じゃあ座れた事だし本題に入るね」
すっと笑みを引っ込めて急に真剣な顔になった彼。心做しか目も先程より鋭くなっている気がする。
...真剣な表情なのに、たまにこの人大学生にもなって厨二病なんだよなぁ...という考えが頭をよぎってしまうので、僕は出来る限り真剣な表情を浮かべながら肩を震わせてしまった。繋太が不思議そうな顔で此方を見たきたが、気にしないでと言うと了解!と頷きわざとらしく咳払いした後にようやく僕の問いの答え...本題を切り出した。
「さっきは突然変な事言って悪かったね。まずは挨拶と自分の肩書きから...僕、深塚繋太の人間社会での顔は大学2年の学生だけど本当は...というか神妖社会っていう人間には認識出来ない裏の世界では、白沢っていうまあまあ偉い神獣さんなんだ。で、今神妖社会は荒れてしまっているんだよ。1000年周期の神々大転生って言うその名の通り神妖社会の神々が全員一斉に人間界へ偵察も兼ねて転生するって言うまあ妖怪の僕達から見ればはた迷惑な行事だけど...それでも自分達が創造した物を神妖社会からではなく人間社会から見るという事が重要なんだと...まあ色々あって結局大転生は行われたんだけど...」
かなり世界観が決まってるなー...と曖昧な気持ちで僕は繋太の話を聞いていた。まあ所詮厨二病だし、宗教勧誘してくるまでは真剣な表情を保ちつつ聞き流しておこう。その程度の軽い気持ちだったが、
「力のある神々が総じて人間社会に人間として生きている、つまり神妖社会に居ないタイミングを見計らって一部の妖怪達が争いを起こしたんだ。」
「...ふむふむ。それで神妖社会は今どうなってるんですか?」
僕は、段々話に興味が湧いてきて相槌を打つ。その時の僕はまあまあ面白い漫画のあらすじを聞くような気持ちであった。長くなりそうなこの話がつまらなかったら地獄だったので、興味が湧いてきたのは救いだった。
「興味を持ってくれた様で助かったよ。その妖怪達の背後には西洋の神々がいる事が分かってね。...彼等は元々僕達東洋の神妖達を嫌っていてさ。で、調査を進めてみると西洋では大転生のルールを破り、多くの神々が転生せずに隠れている事が判明した。」
「...えっとそれって大丈夫なの?」
「大丈夫な訳ないだろ。今西洋で原因不明の異常気象が起きている理由はそれだよ。」
繋太が言う通り、最近のニュースは西洋で起こっている異常気象で持ち切りだ。そのせいで西洋で主に作られている食品が値上がりしたり、有名な建物が雨風で脆くなっており立ち入り禁止になっていたり...影響は多々あるが僕の日常生活は余り変わっておらず、それどころか(人間としてよろしく無いかもしれないが)日本でもこんな感じの事起こってくれないかなーと非日常を少なからず望んでいた。
そしてまた一段と話は現実味を帯びていく。正直つい先程まで彼を厨二と痛いやつ呼ばわりしていた僕の心に、馬鹿にするような気持ちは消えていた。
「神と妖の差は歴然でね、戦うとなったらどうしても神の力は必要になる。そんな訳で今、東洋の妖怪は神々を探しているのさ。この戦いに負けたら、信仰が書き換えられて東洋に住まう人間の記憶が崩壊する恐れがある。もう一度言うね?記憶が崩壊すり恐れがある。...何にも知らない薙爪から見ても一大事だと思うだろ?」
「....ちょっとスケールが突然大きくなって混乱中だから待って。」
...そう言うのが精一杯な程今の僕は混乱していた。
(え?色々ツッコませて頂きたいけど...いや待てこの人厨二病拗らせてるんだからツッコんだら負けだよな?えでも嘘付いてるって感じしないし...でも現実的に考えてそんな超常的な事を信じるっていう方が...いやいやでも本当...)
自分の世界に入ってしまった僕に繋太は「おーい!大丈夫かーい?」と声を掛けてきたようだがその言葉は届かない。僕の頭は繋太の言葉を否定肯定するのを繰り返す事で一杯になっていた。
すると繋太はそっとなにか呟き、溜め息を吐きながら言った。
「じゃあ実際に向こうの力...こっちでの超常現象を今使ってみるから、そうしたらその混乱は収まるよね?」
彼は薄く目を瞑り、集中しだす。それは漫画で見た事のある神降ろしの準備をしている巫女の仕草に似ているようにも思えた。
(ここまで言うって...もしかして本物?)
そんなにも自信があるなら、もしかするともしかするかもしれない。
期待と疑心を含めた視線で疑り深く繋太を見る。
そして、瞬きによる刹那の暗闇が明けると...
そこに居たのは1匹の牛...否、白沢だった。
...
「...あれ?オカシイナー、繋太さーん?」
これが所謂現実逃避に当たる事くらい分かっている。でも...
(そういや白沢って牛みたいな神獣じゃなかったっけ...)
部屋を貰って7年。ここまで部屋が狭く感じたのは初めてだ。
そして、ここまで神々しいと感じたのは...人生で初めてだ...
白銀の体に黄金の角。蹄は吸い込まれるかの様な漆黒。そして何より──
「これで分かった?僕の話の真偽。」
...何より漫画とかでよく見る金色のオーラの様なものが繋太の周りを漂っている。そして牛(本当は認めたくないけど白沢...)が喋っている。
(...CG技術ってチープだったんだな)
と思う程に自然な神々しさ。
これは認めざるを得ない。彼は白沢...人外だ。
「じゃあ解くね。」
気が付くと目の前から白沢は居なくなっていた。時計を見るからに繋太が白沢の姿になってから1時間が経っていたようだ。そして、体が固まってしまっている所から考えると僕は1時間同じ体勢で彼を見続けていた事になる。...体が痛むはずだ。
当然白沢はいなくなり椅子には繋太が座っている。...正直、先程見た事が現実だと信じられないが実際にこの目で見たのは事実。
...僕は深い溜め息を付いた後、潔く自ら厄介事に巻き込まれて行った。
「(本当は嫌だけど...)認めますよ...貴方の話。...それで僕は何をすればいいんですか?」
すると何故か繋太は一瞬だけ切なそうな顔をした。しかし瞬きをした時には元の真剣な表情だったから、その表情は幻覚だったらしい。
(こんな事があったんだ。軽い幻覚位見るさ...)
「...さて、結論だ。君には転生した神...現人神を探す手伝いをして欲しい。」
有無を言わさない口調で真剣な顔で言った彼。最初に繋太が言った通り、僕に拒否権は無いのだろう。ならば了承する他無いだろう。
...それに....
「...分かりました。こんな僕でも良ければ、ですが。手伝わせて頂きますね。」
そう言うと、繋太の顔は安堵した様に緩み、「じゃあこれからよろしくね。あと敬語は外して、呼び捨てで構わないよ。」と握手を求めて来る。
「こちらこそ。これからよろしくな。」
僕はしっかりと繋太の手を握り、それを終えた後ぺこりと頭を下げた。
(それに、こんな刺激的な事って他に無いだろう?)
次の話から登場人物が増えていく予定です。
誤字報告、よろしくお願いします。