ふわふわとケータイ
■ふわふわとケータイ
「はい。・・・はい。18日朝8時30分からですね。分かりました。」
「必要なものは、印鑑とボールペンですね。分かりました。」
「メモですか?ちょっと待ってください。」
歩きながらケータイで話していた俺は、そう言いながら、ケータイを頬と肩の間に挟み、鞄から手帳を取り出した。
メモを取るには道では危ないので、目の前の公園に入り、ベンチに座り、電話の相手の言うことをメモしていく。
「分かりました。大丈夫です。」
そう言うと、電話の「終了ボタン」を押して電話を切った。
別に何のことはない電話だ。
次のバイトの日程の確認と、持ってくる物の連絡だった。
フリーターのような生活をしている俺にとって、ケータイは必須の物で、これがないと仕事も得られない。
まあ、現代的と言えば現代的。
だけど、こうなんだもん。
しょうがないじゃないか。
こうして休みの日でも電話がかかってくるのが少しめんどくさい。
ただ、常に仕事を取りにいかないと『休み=無給』の俺としては、スケジュールが空くと不安しかない。
せっかくだから、25日以降の仕事も探しておくか。
公園のベンチに座ったのだから、日常的に仕事を探しているサイトとアプリの巡回を始めることにした。
あれ?あれ?
『インターネットに接続されていません』
俺のスマホに表示された、無慈悲な表示。
スマホ代はちゃんと払っているはず。
俺の生命線だから。
電気代や家賃よりも優先的に払ってる。
電波が悪いとか?
辺りを見渡した。
ここは3方を大きな建物に囲われた比較的大きな公園。
囲われてるって言っても結構広い。
学校だったら校庭とまではいかないまでも、体育館よりは広い。
芝生も広いし、公園内には岩のモミュメント的なやつがいくつか立っていて、この岩の位置で何かを表現しているのだろう。
公衆トイレと、神社が併設されているし、結構デカいよ?
人だって、平日昼間だってのに20人以上はいるんじゃないかな。
ここで電波が入らなかったら、どこなら入るんだよ。
きょろきょろしていると、変なものを見つけた。
岩のモニュメントの後ろに隠れる女。
岩に隠れるようにしてしゃがんでいる。
なんだ?
問題か?
俺は恐る恐る近寄って少ししゃがんで話しかけた。
「あの・・・だいじょうぶですか?」
「ひゃ!ひゃいっっ!!」
女はまだ高校生くらい。
若かった。
女と言うより、少女か。
その少女は飛び上がる様に驚いたかと思ったら、俺の肩に手をまわして、しゃがまさせる。
「あの・・」
「しー!!」
なんだこれ?
少女が見ている方向を覗き見たが、何もない。
「誰もいないよ?」
「ふー、行ったみたい。」
変な女だ。
関わらない方が良いだろう。
「じゃあ。」
立ち去ろうとしていた俺にその少女が話しかけてきた。
「ちょっと・・・。」
そう言いながら、手を出している。
握手?
とりあえず、手を握ってみた。
「ひゃあっ!」
再び飛び上がる様に驚いたみたいだった。
「そうじゃなくて、スマホ!」
「ん?」
「スマホ見せて!ネットつながらないんでしょ?」
ついにエスパーが出現した。
俺のケータイがつながらないことをこの少女は何も聞かずに察知していた。
「さっき、聞こえた。全部言ってた。貸して、直してあげる。」
なんだ、俺は考えていることが全部口に出ていたのか。
「あと、振っても最新電子機器は直らない。」
たしかに、何かが調子悪いと振るな。
訳が分からないけれど、ネットにつながらなくて困っているのには違いない。
見てもらうことにした。
「ん・・・モバイルネットワークにつながってない。」
なんだ、モバイルネットワーク。
正直、俺はそんなにケータイに詳しくない。
「ん、直った。はい。」
その少女からケータイを受け取ると、さっき表示しようとしていたサイトが表示されている。
念のため、他のページも表示させてみた。
・・・ちゃんと表示する。
直ってる。
「あ、ありがとう。」
「最近、バッテリー節約アプリとか入れた?思い当たるのがあったらアンインストールした方が良いかも。」
「そ、そうなんだ。詳しいな。」
「ん・・・よく触るからスマホ。」
その少女よく見ると、背が低い。
160㎝はないな。
線が細いし・・・
髪が長くて、色はめちゃくちゃ白い。
ふわふわした服を着て、あの・・・なんて言ったか、ロリータ服みたいなひらひらしたパジャマみたいな服。
靴はクロックスかよ!
顔立ちも整っていて、それなりに美少女・・・いや、かなりな美少女。
平日の昼間に公園で・・・何してんだ?この子。
ガン見してしまっていたようだ。
その『ふわふわ』が明らかに警戒した態勢を取っている。
「あ、ごめんごめん。お前みたいな子がなんで平日の昼間に公園にいるのかって・・・。」
「・・・いいでしょ。どうでも。」
「まあ、そうなんだけど。」
「あなただって、平日の昼間に公園にいる。」
「たしかに。」
俺はベンチに再び座った。
『ふわふわ』も1人分くらい離れたところに座った。
「何見てんの?」
「ああ、バイトの求人サイト。」
「ニート?」
「フリーターだ。」
「ふーん。」
興味はあるけど、それ以上は踏み込んでこないみたいだ。
「おまえは?」
「おまえじゃない。」
「じゃあ、名前は?」
「知らない人に名前を教えたくない。」
ちょっとカチンときた。
「じゃあ、『ふわ子』で。」
「なにそれ?」
「いや、パジャマみたいな『ふわふわ』した服を着てるから。」
「ふ・・・じゃあ、それでいい。」
いいのかよ!
アニメとかの定石だと『そんな名前じゃない!私の名前は〇〇よっ』て名乗るのでは!?
「あなたは?」
「俺は泉、泉 武郎だ。」
「タケロー・・・」
いきなり呼び捨てかよ。
しかも、下の名前。
最近のJKは礼儀ってやつが分かってないな。
「おま・・ふわ子は、いくつ?」
「16」
「JKかよ。」
「学校行ってない。」
「お前の方がニートじゃないか。」
「ニート・・・なのかもしれない。」
「日頃、何してんの?」
「なにもしてない。」
「1日中ボーっと座ってるってわけじゃないだろ?動画とか。Youtubeとか。」
「動画は通信量すぐに超えちゃうからあんま見れない。映画とかはたまに見るけど。大体見たいのはもう見た。」
「でも、なにかしてるだろ?」
「んー、座ってることも多い。寝てることも多い。」
「ダメ人間か!」
「んー・・・ダメ人間かも。」
「1日家にいるの?」
「んー、そんなとこ。」
「親は何も言わないの?」
「んー、特に。」
諦められてんのか?
面白いやつだな。
美少女だし、ふわふわしたの着てるし。
ケータイに詳しいし、色がめちゃくちゃ白い。
右手にはビニールみたいなピンクのブレスレット?
「あ!」
ふわ子の手を見ていたら、ブレスレットを隠されてしまった。
「なに?」
「なんでもない!」
服は高そうなのに、ブレスレットは薄っぺらで安そう。
なんか色々アンバランスなやつだな。
「反対側いっていい?」
「ん?」
ふわ子は、ベンチの俺の反対側を指さしている。
ああ、ベンチの反対側に座りたいのか。
「ああ、いいよ。」
ふわ子は俺の右側に座り直した。
「日が当たってきたから・・・」
「吸血鬼か!」
「日に当たらないからそんなに生っちょろいんだよ。ガンガン食って、ガンガン日に当たったらいいんだよ。」
「んー、太陽に耐えられない・・・」
そんなやついるもんか!
「なあ、さっきなんで隠れてたの?」
「隠れてない。」
「いやいや、絶対隠れてただろ。」
「んー、追いかけてくるから。」
ニートが家から出て追いかけてくるやつなんているのか!?
霊か!?
霊なのか!?
「霊的な?」
「ふっ、タケロー面白い。」
「俺はお前の方が面白いよ。」
「わたしは、つまらない・・・つまらない人間。」
「そんなことはないだろ!めちゃくちゃ面白いよ。ニコッと笑ったらモテモテだよ。」
「モテモテって・・・」
笑われたよ。
今ではモテることをなんていうんだよ!?
「タケローは何してる?」
「俺は、毎日バイトだ。あ、今日は休み。」
「どんな?」
「んー、いろんなバイトをしてる。引越屋とかラーメン屋とか、警備とか、掃除屋とか・・・」
「色々?」
「一つに絞ると続かないんだよ。恥ずかしい話・・・」
「色々やると恥ずかしいの?」
「色々やると・・・っていうか、続かないのが恥ずかしいんだよ。」
「どうしてやめるの?」
「長く同じとこにいたら、人間関係っていうか・・・あんまりうまくいかないんだよ。」
「ふーん。」
「きっと性格に問題があるんだろうな。」
「そんなことない。別にタケローと話しても嫌じゃない。」
「そか、ありがと。」
なんか、いい子だな。
「あ、そろそろ行かないと。」
「ああ、じゃあな。」
「タケロー、またくる?」
「ここ?休みの日なら、たまに。」
「待ってる。この時間ならここにいる。」
「さすがニート。じゃあ、また次の休みに。来週の木曜かな。」
「ん、木曜。」
この日は、ふわふわな少女とこれで分かれた。
この時、その後、俺の人生を変えるような事件につながるとは予想することとも出来ないでいた。
■この世が嫌い男。
俺はこの世が嫌いだ。
高校も嫌いだった。
まず、授業が嫌いだった。
歴史いる?
徳川の名前を覚えるのも嫌だった。
もう「徳川1」「徳川2」・・・でいいじゃないかと思ったほどだ。
数学も嫌い。
目の前の物の面積や体積を求めたいことなんて一生ない。
それを割り出す方法を覚えてどうする?
国語は漢字。
ケータイがあるし要らなくね?
勉強も嫌いだったけど、人間も嫌いだった。
とにかくマウント取ろうとしてくるやつ。
クラスで、一人でいるやつに情けをかけて声をかけたこともあった。
そしたら、段々調子にのってきて、俺にたてつくようになったり・・・
めんどくさい。
特にモテたりもしなかった。
人間関係が煩わしい。
学校が嫌だったから、高校卒業したら、大学にはいかなかった。
家は出て一人暮らしを始めた。
金がいるからバイトを始めた。
バイトも続かなかった・・・
やっぱり人間関係だ。
仲良くなれるやつはいたけど、続かなかった。
きっとあれだな。
『仕事上の付き合い』ってやつだな。
休みの日に会いたいやつなんていなかった。
子供の頃って俺は物語の主人公だと思っていた。
だけど、別に成績が良いわけじゃない。
スポーツが出来るわけじゃない。
趣味がある訳じゃない。
何者かになろうと思って、卒業したのに、卒業したら、何者でもない俺になった。
高校の時は「高校生」だった。
でも、今の俺は何だろう。
特定の仕事をしている訳じゃないし、夢や目標がある訳じゃない。
嫌なことから逃げて逃げてきたけど、どこかにはたどり着いてない。
家賃のためにバイトして、食費のためにバイトして、光熱費のためにバイトして・・・
資格が要るとか言うから、資格を取ったら、経験がないと使いもんにならんとか言われるし。
結局なんなの?
何なのこのムリゲー。
目立ちすぎても死亡。
目立たな過ぎても死亡。
資格取らないと死亡。
資格取っても死亡。
やってみたい仕事は条件に合わないからできないし、学校にいるときはそんな条件は知らされない。
攻略本もなければ、一発勝負で、1回負けたら即死亡。
文句を言いたい運営からは返事がなく、課金するにも金がない。
いつしか気づいたよ。
俺は『その他大勢の中の一人』だってこと。
何かをなすために生まれたわけではなく、きっと何かを成し遂げたりすることはないだろう。
バイトして、飯食って、クソして寝る。
そして、またバイトする・・・
そういう『マシーン』だな。
これって『灰色の生活』ってやつかな。
二十歳にはなったが、大人になった気はしていない。
多分、俺ってダメなやつだな。
異世界に行ける物なら行きたい。
チート能力で無双したい!
それでも、朝が着たらバイトに行くのが俺の日常だった。
でも、あの少女との出会いで、俺の生活は少しずつ変わって行った。
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