第八話 炭鉱へ
「炭鉱へ向かう」
炎鳥兵を片付け、後始末をし終わった後、キティとメロディにそう話した。
メロディは若干怯えた様子で、
「た、炭鉱とは……どこへでしょう……?」
声が若干震えている。
私に怯えているのだ。
仕方がない。槍は体を貫くことなく、平手一つで炎鳥兵を吹き飛ばしてしまったのだから。
「候補はいくつかあるが……」
サザンクロス近郊の炭鉱は知りうる限りで三つ。
ほとんどは魔力がかたまった結晶石を掘り出すためのものだが、二つは枯渇してしまっていたはずだ。それも二百年以上の前の状況……。
今も残り一つの炭鉱が生きているかどうかはわからない。
「南の方かな」
「そこは……確かに炭鉱はありましたが、すでにもう結晶石は取りつくされて、今は誰もいないはずです」
「では北か? それとも西か?」
「そんなところに炭鉱はないはずです……」
「むぅ……」
時間が経ち、前に炭鉱だった場所はその役目を果たしていたことすら忘れられてしまったらしい。
「私は先ほど炎鳥兵の心を盗み見た。キティが言う連れ去られた市民たちはそこで働かされている様子だった。そういう光景があの炎鳥兵の視界に広がっていた。だから、恐らくキティの両親もそこにいるのだろう、と」
私が考えを伝えると、メロディは納得したように頷き、あごに手を当てて考え込んだ後、
「南西の方角のバラル山。そこだと思います」
「バラル? そこには結晶石はなかったはずだか?」
バラル山は活火山ではあったものの、周囲を森に囲まれ、魔力が結晶になる前に近くの植物や虫に吸い尽くされてしまう。
地下から湧き出てくる魔力エネルギーを我々魔族が抽出する番が回ってこない不毛な山だったはずだ。
「結晶石ではなく、銀を取っているんです」
「銀? なぜそんなものを?」
「人間に売るためです。銀は人間の世界では中々とることができない貴重なものな上、武器の素材としては最高の素材ですから。かなりの高値で大量に売れるのだそうです」
「なるほどな」
人間社会と平和になったからこその弊害のようなものか……。
利益が出ることで今まで考えもつかなかった腐った考えが出るようになる。
「わかった。では、南西のバラル山へ向かうとしよう。ちょうどいいところにフレアイーグルもいることだしな」
主人のレッドオーガがいなくなって手持ち無沙汰となっているフレアイーグルを拝借しよう。
フレアイーグルに触れた途端、私の魔力に当てられてすぐに首を垂れて服従のポーズを見せる。
その首元へとまたがり、手綱を握る。
足元には心配そうにこちらを見上げているメロディの姿が。
「では世話になった」
「は、はい……」
「約束しよう。必ず君の両親を連れて戻ると」
「…………」
最後まで不安そうだったが、いずれわかってくれるだろうと私は手綱をしならせ、フレアイーグルをはばたかせた。