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第七話 成敗 (下)

「貴様! どういうつもりだ⁉ 本当にさすぞ!」


 必死にこちらを脅す炎鳥兵。

 槍を向けてはいるものの、本当に貫くつもりなどさらさらない。

 おそらく実践を経験したことがない若い兵士だ。だから、まだ殺す覚悟がない。それに相手は魔王の執事を名乗る人間だ。嘘だとは思っているが、万が一がある。

 だが、その覚悟もなしに、槍を相手に向けるという行為をしたことに虫唾が走った。


「だから、やれといっているのだ」


 私は力強く一歩を踏み出した。


「ヒィ‼」


 悲鳴が上がる。

 見ているキティやメロディだけのものではない。槍を向けている炎鳥兵自身もぎゅっと目をつむっていた。


「あれ……へ……?」

「どうした? やってみろ?」


 また一歩前に出る。


 ミシィ……!


 音が、なった。

 強い力に鉄の棒が耐え切れずに音を立ててひん曲がった。

 その光景を私以外の底にいる者たちは茫然とした表情で見ている。


「な、何なんだ。お前はぁ……!」

「槍で、私を、貫くのでは、なかったのか⁉」


 一歩、一歩と炎鳥兵へ近づくたびに問いかける。

 炎鳥兵は見ている光景が信じられないと恐怖に歪んでいた。


 槍が、一歩ずつ歩く私の胸に押されてジグザグに折れていく光景を―――。


 鉄の切っ先が、皮膚を貫けず、それどころか槍が耐え切れずに折れて折れて《《収縮》》していく。

 自分の持っている武器が、べきべきに折れていくのと同時に心も折れて言っている。


「やらないのか?」


 炎鳥兵の眼前に迫る。手を伸ばせば届く距離どころか、頭突きが届く距離だ。

 彼の持っていた槍はまるで折り紙のように折りたたまれてしまっている。

 その折りたたまれた槍を取り上げ、


「こんな風になってしまったが?」

「どうして貫けない……⁉ 硬化魔法を使ったのか⁉ だけど、呪文を唱えている様子何て……!」


 別に使ってはいない。単純に私が強すぎるだけだ。

 人間と何百年と戦争をしてきた我が肉体。その程度のことで傷がつく肉体であるなら、とっくの昔に死んでいただろう。

 強すぎる魔力は宿主の体を自然と強化させる。体内に魔力を宿している魔族はもちろん、自然から魔力を借り受ける人間も、魔力に振れれば触れる分だけ、肉体が強化されていく。

 だから、長い間戦い続けた人間は単純に強くなるのだ。

 炎鳥兵がハッとする。


「まさか……本当に魔王様の……⁉」


 ……本人だが。


「その通りだ。そして、我々はアモンが市民を攫っているなどとはみじんも把握していない。それは、どういうことだ?」


 目に魔力を込めて睨みつける。


「ヒィ!」


 その瞬間、炎鳥兵の瞳にアモンの姿が映った。

 読心魔法ー『マインドアピア』。その力で彼が思っていることがそのまま瞳に映し出され、私はそれを読むことができる。

 どこか炭鉱のような山で、アモンがレッドオーガたちに指示を出し、ボロボロの着衣の様々な種族の魔族たちが首輪をつけて作業をしている。

 市民たちの眼は死んでおり、靴も履けずに重たい石を運び出す過酷な環境。

 アモンはその光景を見ている。だが、止めようとはせずに冷たい、家畜を見るような目で見つめていた。


「…………」


 その光景が、アモンがこの炎鳥兵に見せている姿だ。

 アモンは、無理やり市民を攫って何かをさせている。

 そして、この炎鳥兵はそれが後ろめたいことだと知りつつも、アモンに協力している。


「なるほど、全てがわかった」

「え、え⁉」


 読心魔法など禁忌中の禁忌で一般兵士の彼には知る由もない。

 たった今、全ての情報が抜き取られたことなど。


「君は一軍人だ。上の人間に言われたことに従うしかない。それはわかる。だから、君がすべて悪いとは言えない」

「え、え、さっきから何をおっしゃられているのですか……?」


 炎鳥兵がへりくだる。

 だが、さっき読心魔法で見た光景に確かにあった。

 弱った老人魔族に、この男が鞭を振るっている光景が―――。


「だが、すべて悪くはないが、悪いことは悪いことだ」


 平手を振り上げる。


「おしおきだ」


 バチィィッッッッッッッッ!!!!!!!!!!


 すさまじい轟音が鳴り響いた。

 肉がなる快音。その後に響いたバッコンと天井が破砕する音。

 天井に穴が開いてしまい、炎鳥兵が空の彼方へと、ヒュ~ン!と漫画のように飛んで行った。


「む、やりすぎた」


 炎鳥兵の頬を少し吹き飛ばすほどの力で張ったつもりだったのだが、力が強すぎてそのまま炎鳥兵の体を《《引き連れたまま》》手を振りぬいてしまい、すさまじい勢いて炎鳥兵は空高く投げられて行ってしまった。

 穴から覗かせる空の向こうで、炎鳥兵がキランと星のように輝いた。

 パラパラと天井の木片が落ちる中、何が起きたかわからないと茫然と固まっているのはキティとメロディだ。

 メロディが恐る恐るこちらに歩み寄りながら、


「なんてことを……魔王様の炎鳥兵様を……、何て不敬なことを……」

「聞いていなかったのか。キティの言葉が正しかったことに」


 キティがメロディの服を引っ張り、目が合う。

 無言でうなずく。


「ママ。大丈夫だよ。魔王様は、バッツさんは俺たちを助けてくれるよ」

「そんな、そんなことが……」


 震えて首を振るメロディ。

 洗脳が心の奥底まで染みわたっているようだが、私は言ってやる。


「安心していい、君たちの両親は私が必ず連れ戻す」

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