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第五話 お役目

「どうぞ、こちらへ……」


 ママと呼ばれた少女の名はメロディと言った。彼女に案内されて教会の中へと入る。

 キティが先を走り、私とメロディは並んで廊下を歩く。

 エプロン姿で優しそうな少女で、彼女がキティたちのコミュニティのまとめ役。まさにママなのだろうと思うが、年端も行かない少女に似つかわしくないものが首にかかっていた。


「どうして首輪なんかしているんだ?」

「え……?」


 首元に手を添えるとチャリっと音が鳴る。

 思い返してみるとすれ違ったスラムにいた子供たちの何人かは首輪をつけていた。


「これは証なんです」

「証?」

「はい、魔王様の元に召される日が近いことの、証……」


 メロディは目を閉じて首輪へ指を這わせる。

 崇高なもののように。自分の使命を受け入れるかのように。

 ただ、手が震えていた。


「証、とは? それに、どうしてキティにママと呼ばれて……」

「ママ、ほら早く! バッツさん紹介するよ!」


 そして、先導していたキティが教会のホールの扉を開く。


「俺の家族だ」


 ホールにはたくさんの子供たちがいた。


「ママ!」「ママお帰り!」「キティ帰ってきたんだ!」「ママどこ行ってたの⁉」


 子供たちがメロディとキティへ駆け寄ってくる。

 種族は様々で角と翼が生えた悪魔族から全身を水で構成された水人族まで多岐にわたっていた。

 メロディは子供たちをあやしながら、こちらを向いた。


「皆、魔王様の城から来た使いの人。バッツさんよ」


 そう紹介すると、子供たちはみな驚いた顔をした。


「え⁉ 魔王様の使い?」

「じゃあ、お父さんとお母さんは帰ってくるの!」

「うちに帰っていいの⁉」


 目を輝かせる子供たち。

 だが、メロディは子供たちをたしなめるように。


「こらこら、無理は言わないの。私たちのお父さんお母さんは魔王様に捧げられて立派にお役目を果たしているのだから。それはとても光栄で崇高なことなのよ」

「「「え~~~!!」」


 メロディの言葉で子供たちは一気に消沈し、私から興味を失くしたように散っていった。

 よほど期待していたのか、泣いている子供さえいた。

 だが、キティだけは踏みとどまり、私を期待の眼で見上げていた。


「そんなことはないよな⁉ バッツさんは、魔王様は俺たちにアモンから父さんや母さんたちを救ってくれるんだよな⁉」

「こら! そんなこと言わないの」


 メロディがくしゃくしゃとキティの頭を押さえつける。


「さっきから気になっているのだが……捧げるとは、お役目とは何のことなのだ?」

「まぁ、魔王様の執事の方なのにご存じないのですか?」

「ああ、私は全く知らない」

「このサザンクロスでは成人になりますと、使いの不死鳥様に連れていかれ、魔王様の元で働くようにとお役目が課せられるのです。魔王様の元でお役目を全うするとその家族は魔王様の加護を受け、永久の安寧が約束されると言う。とても名誉あることなのです。本当にご存じないのですか?」


 若干、メロディの声色に不安そうな色が混じる。

 キティは「だから言ったじゃん」と唇を尖らせ、


「全部アモンが付いてた嘘なんだよ! この国を作った魔王様が無理やり大人を攫って行くわけがないじゃないか! 俺たちの救世主なんだぞ!」


 叫んで教会の奥に立っている石像を指さす。

 頭がない、体も幾分かけているが高貴なマントを羽織り、背に六つの悪魔の羽を生やしている。

 あれは……私か……。


「困っている人を見捨てない! そんな救世主様が人を困らせるわけがないんだ!」

「困らせてはいません。キティ、あなたのお父さんもお母さんもいつかは絶対に帰ってきます。辛いのは今だけよ。帰ってきたらあなたはずっと幸せな日々を送れるのだから」


 私はメロディがキティに言い聞かせている声を聞きながら、教会のホールの子供たちを見渡す。


「ここにいるもの。すべての子が親をお役目で連れていかれた者たちか?」

「はい。だから、私が母親代わりとして世話をしているんです。だけど……」


 メロディはそう言ってまた首輪に手を添える。


「さっき君はその首輪は証と言ったな。もしや、大人になるのが近いとつけられるのか?」

「はい。これをつけているものはいつでも魔王城にお役目として連れていかれてもいいように準備をしておかなければいけないんです。それがいつかはわからないんですけど。お役目が結局来ずに首輪が外れる人もいます」

「外れるのか? 自動で?」

「魔法の首輪ですから。お役目にふさわしくない人間にはこの首輪はつけられないんです。つけられても必ず魔王様の元へと召し仕えられるわけではありません。大体半分の魔族がお役目で連れていかれずに首輪が外れます」

「君は?」

「はい?」


 突然訪ねられて、きょとんとした顔でメロディが私を見る。


「君は行きたいのか? 行きたくないのか?」

「…………」


 メロディの眼が、泳いだ。

 だが、私に悟られまいと笑顔を向けた。


「行きたいに決まっているじゃないですか。魔王様の元で働けるのは光栄なことなのですから!」

「……そうか」

「ですが、私がいなくなった後のことが心配です。ここで母親役ができるのは、もう……」


 キティに視線を落とした。


「あなただけなんだから、しっかりしなさい。みんなの世話は任せたわよ」

「嫌だ! 父さんも母さんもいなくなったのに! ママも何て! なんでママはアモンに騙されてるって信じようとしないんだよ!」

「魔王様にお仕えしている四天王の方々が魔王様の名前をかたって騙すような方なわけがありません。失礼ですよ」


 メッとキティの唇に人差し指を当てる。

 どうして、メロディはここまで魔王を、魔王軍を信奉しているのだろうか?

 それに、この教会の奥の像。

 私はもしや、神のように祭り上げられ、魔王教とでも言うべき宗教が広まってしまっているのだろうか。メロディの態度を見る限りそうとしか考えられない。

 アモンが支配しやすいように……。


「いや、そんなわけが……」


 疑念を払うように首を振った瞬間だった。


 ピヒョォォォォ‼


 炎鳥―フレアイーグルの鳴き声が頭上で響いた。


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