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第四話 スラムのママ

蹴散らされたごみの飛んでいく先を見送り、改めてキティに尋ねる。


「アモンが……君たちの攫っていると言ったな? それは本当なのか?」


 二百年前。

 最も勇敢で誰よりも先に敵陣に突っ込み、私に尽くしてくれた『烈火剛将アモン』。

 卑怯なことを嫌い、常に堂々としていた彼が、そんな外道な行為を働いていると耳にしても信じることはできなかった。


「ああ、フレアイーグルや炎を操る魔物は全部アモンの部下だろう? あいつがやってんだから、アモンがやってんだろ」


 そう言って空を飛んでいる炎鳥兵を指さし、


「まぁ、アモンも自分が勝手にやってるなんて言ってないし、魔王様の命でやってるの一点張りだけどな。だけど、みんな知ってる。魔王様はそんなことをするお方じゃないって。アモンが魔王様の命令だって言い張って私欲を肥やしているって」

「どうしてわかる?」


 実際そうなのだが……二百年間城に引きこもる隠居生活を送っていたのに、どうして年端も行かないようなこんな少女にここまで自分が信頼されているのか。疑問に思った。

 だが、キティは平然とした顔で。


「だって、そうだろ?」


 と、何の根拠にもなっていないことを言った。


「……うん、そう……そう、とは?」


 しばらく続く言葉を待ったが、キティは首をかしげてそれ以上の言葉はないという様子。


「魔王様は絶対に俺たちを救ってくれる。そうだろ?」

「……ああ、そうだな!」


 保留! 今はまだわからん!

 よくわからんが、とりあえず何らかの理由で私は下界の民から絶対的な信頼を置かれているようだ。

 それもアモンが何かしら市民たちに植え付けているのだろうか。


「あ、あれだ。あれが俺たちの城だよ」


 キティが遠くを指さす。

 その先に合ったのは、朽ちてボロボロになっている教会だった。

 壁は崩れ、天井に穴は開いた、ひどい状態だ。それを恐らくゴミで捨てられたものだったのだろうが、腐りかけの木板や布で塞いでいる。

 そして、特徴的な点が一点だけある。

 アレがあるから城と言い張っているのだろうが……、


「大砲があるな……」


 ステンドグラスを突き破って大砲が砲塔が顔を出している。

 砲塔だけしか見えないから正確にはわからんが、恐らく船につけられていた大砲だ。サイズとあまり特徴のない形状で、記憶をたどってそう推測した。

 随分と高い位置にあるが、あれは発射できるのだろうか?

 キティは自慢げに鼻を鳴らした後、何かを見つけ駆け出して行った。


「ママ!」

「え?」


 教会の前で洗濯物を干している女性の獣人の姿があった。

 その女性にキティは抱き着き、彼女も「あらあら、しょうがないわねぇ」とキティを抱きかかえた。

 そして彼女のほほにほおずり。

 先ほどの勝気で男まさりな様子が嘘みたいに甘えまくっている。


「え……?」


 母親……いるんなら、ここまでの話全部ひっくり返っちゃうんだけど……。

 何のために来たの私……。


「あら、キティ。あちらの方は?」

「ああ、魔王様からの使いの人。執事のバッツさん」

「魔王様の使いの人⁉ キティ! あなたまさか……なんて恐れ多い!」


 ママと呼ばれた女性は慌てて私の元に駆け寄ってきた。

 犬耳を下げた、黄色い毛並みを持ち……近づいてみると、非常に若い、というか幼い。顔立ちもそうだが、体が成熟しきっていない。


「申し訳ありません! 使いの方! キティがとんでもないことをして! 子供のたわいないいたずらですのでどうか、お許しください!」


 そう言って、ぺこぺこと小さな頭を下げ続ける。


「いや、いたずらなどとは……とんでもない。魔王様は下界のことを気にかけている故、君たちのどんな言葉も聞き入れたいと思っている……それよりも、君はママと呼ばれていたが、年はいくつになるのだ?」

「はい、今年で14歳になります」


 魔族は寿命は千差万別。5歳で成人となり、10歳で老衰する種族もいるにはいる。

 だが、獣人は人間と成人年齢も寿命もほぼ変わらない。

 つまり、ママと呼ばれた彼女も、まだ年端も行かない子供だった。


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