第三話 炎鳥兵
キティに先導されながら、ごみ溜めのようなスラム街を歩く。
サザンクロスから捨てられたごみで作られた家々。子供たちの笑い声が響き、私の足元を通り抜けていく。
はしゃいでいる子供を妙に見かけるが、家の中に目を向けると暗い瞳で膝を抱える少女の姿もあった。
ずっと歩いて、引っ掛かったのが一点ある。
「子供ばかりだな」
「そりゃあ当然だろう。スラム街なんだから」
スラム街にいるのは子供ばかり、父親や母親のような働き盛りの歳の大人がいないのは辛うじて納得できるが、老人の姿も見えない。
「当然なのか? スラム街というだけで親がいないのが?」
「ここにいる子供たちは皆、親を魔王軍に攫われた子供たちなのさ」
「皆⁉」
全て。親を攫われた⁉
ざっと見ると果てなくスラム街は広がっている。そこにいるすべての子供たちが魔王……私だが、に親を攫われた子供だと言うのか⁉
「もしや、あの矢文は……」
「ああ、俺だけじゃない。俺の仲間たちの両親を返して欲しいって意味だよ」
「仲間たち?」
ピヒョォォォォ‼
私の疑問を遮るように空から鳥の鳴き声が響いてきた。
空を見上げると炎をまとった巨大な怪鳥フレアイーグルが飛び、その上に赤い肌をした鬼、オーガ族の魔王軍一兵卒が槍を右手に、フレアイーグルのくちばしに括りつけられた手綱を左手に持ち、スラム街を見下ろしていた。
「おい、おっさん。どうしたんだよ?」
立ち止まった私を咎めるようにキティが急かす。
キティは空飛ぶオーガ兵をまるで普通の光景のように捉えているようだった。だが、情けない話だが、フレアイーグルに乗って我が軍の兵士がパトロールをしているなどとは私は知らなかった。
そのことをキティに尋ねる前に否定しなければならないことがある」
「おっさんではない! バッツという名前があるのだからそう呼んでもらおう!」
「えぇ~……でも、おっさん、どう見てもおっさんじゃん」
「おっさん……ではあるが、だからこそ気にするのだ! わかってはいるが、自分はもう若くはないのだと否応なく自覚させられてしまう。キティも名前を呼ばれず小娘としか呼ばれなかったら嫌だろう?」
「めんどくせぇ……俺は別にそれでもいいよ……」
「めんどくさがるなぁ! 女の子だろう! もっと自分の名前に愛着を持てよ!」
心底面倒くさそうに私を見上げ、「はいはい」と呆れたようにつぶやき、
「じゃあ、バッツさん。さっき飛んでたあの炎鳥兵のことが気になってたみたいだけど」
「ああ、なんなのだ、あれは? パトロールか?」
「見張りと言えば見張りだけど。品定めっていうのが大きいかな」
「品定め?」
「ああ、あの炎鳥兵は働けそうな大人を見つけたら連れて行っちゃうんだよ」
「連れていく? どこへだ」
「死の山」
死の山とは火山で、いたるところからマグマやガスが噴き出し、魔族ですら炎に高い耐性がある種族でないと近寄れない。
そんな場所へ普通の魔族を連れていく、メリットがわからない。
「なぜだ?」
「金がたくさん採れるんだって。それを掘り起こすためにたくさん人が必要なんだって。それで、攫ってんだよ。魔王軍が勝手に。違う……」
段々、キティの拳が震えてきた。
「四天王の烈火剛将アモンが。魔王軍を使って大人たちを攫いまくってんだよ!」
怒りのあまり、キティが近くにあたごみを蹴り上げた。