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第二話 スラム街の少女

 キティと思われる少女を追いかけていくと、下水路へとたどり着いた。

 上の城下町から流れゆく汚水を流すために、人間の知恵を借りて作られた地下水路。化けネズミははびこり、人食い蜘蛛が天井に張り付きネズミを食っている地獄絵図が広がっている世界。

 そこをキティは住処にしているとあのおやじは言っていた。

 腐臭が広がるこの地下水路を……?


「魔族といえど、子供がとても住めた世界ではない……」


 キティの小さな背中を追いかけながら独り言ちる。

 先ほどから彼女とはつかず離れずの距離を保ち続けている。

 本気を出せば一瞬で追いつくことができるが、彼女がどんな生活をしているのか知るためにあえて泳がせている。

 正直、平和だと思っていたこの城下町で盗みを働き、悪辣な環境の下水路を拠点にしている子供がいることがショックだった。

 しばらく走り、やがてキティは下水路の出口にたどり着く。

 光が差し込む出口に目を細めながらも安心した。ここを拠点にしているというのはおやじの勘違いだったようだ。

 そして、キティから少し遅れて私も外に出る。


「なんだ、ここは……」


 下水路からは外に出た。だが、そこに広がっていたのはもっと汚い場所だった。

 ゴミが至るところに散乱し、そのゴミを組み合わせて家を作り、そこに魔族が生活している。そういったものが十や二十どころではない、ざっと百はありそうなほど広がっている、街と化していた。

 ここは、サザンクロスのゴミ捨て場。だが、今はそれと同時にもう一つの意味を兼ね備えた場所となっている。

 スラム街だ。


「どうして、こんな場所が……」

「あ」


 声がしてそちらを向くと、キティが立っていた。

 獣人族の少女だ。ピンク色の体毛でウサギのような長い耳が生えている。まだ年は幼く大人の腰ほどの伸長しかない。が、眼が細く、目じりが上がった、どこか強気な、年不相応な大人びた顔立ちをしていた。

 だが、その顔も今はすっかり油断しきった表情で、両手いっぱいにパンを抱えていた。

 私と目が合うと驚いてそのパンをぽろぽろと地面に落とした。


「どうしてここに⁉」

「……盗まれたものがあるのなら、取り返そうとするだろう」

「蒔いたはずなのに! クソッ……」

「待て、逃げるな」


 急いで逃げようとするキティにこっそり拘束の魔法をかける。


「クソッ! どうして! 足が動かない!」

「君がここでどういう生活をしているのかは検討もつかない。だが、盗みはいけないことだ。私から盗んだものを返してもらおうか」

「全部もう使っちまったよ!」


 そういってキティは足元のパンを指さす。私の金貨袋の中身は子供の両手いっぱいのパンで消えてしまったらしい。


「そうか、ならば仕方がない」

「え?」

「私の用はそれだけではない。君に話があってきた」


 キティはきょとんとした表情を浮かべた。


「信じるのか?」

「何をだ? 金貨はもう使ってしまったのだろう?」

「あ、うん……そうだけど……」

「戻ってこないのならば仕方がない。もう君が盗みをしなければそれでいい。そんなことよりも、君の名前はキティで合っているか?」

「どうして俺の名前を⁉」

「オレ……手紙とずいぶん雰囲気が違うな。先ほどの出店の店主が教えてくれたのだ。私がキティという少女を探していると聞けばな」

「探していた? 俺を?」

「そうだ。魔王城へと矢文を打ち込んだのは君か?」

「⁉ あんた、魔王城からの使いか?」


 キティが先ほどまでとは打って変わって期待に満ちた、キラキラした目で私を見つめる。


「魔王様が、俺たちの声に耳を傾けてくれて、ようやく何とかしてくれるのか⁉」

「ああ、その通りだ。両親が攫われたと言っていたが……」

「やったぜ! 媚は売っとくもんだな!」


 なんだか、雲行きが怪しくなってきた。

 矢文を打ち込んだキティは彼女なのだろうが、どうも手紙の人物と目の前の彼女が一致しない。なんか騙されたくさい。


「キティ。君は本当に両親を攫われたのか?」

「ん? ああ、そうそう、そうだよ」


 軽っ。

 騙されたかなぁ……こりゃ。まぁ、街が平和なら騙されたでいいんだけど……。

 だが、ここはスラム街。

 騙されたにしても、どうしてこんな場所に子供がいるのか調べなければいけないな。


「それで、キティ。攫われた君の両親はどこにいるんだ?」

「そのことを話すと長くなるからさ、とりあえず俺たちの城に来てくれよ」


 親指でゴミでできた路地の奥を指し示す。


「城? 城を持っているのか?」

「ああ、とっておきの城だ……ところで使いの人。あんた名前はなんていうんだ? 俺だけ名前を知られているなんて不公平だぜ」

「む、そうか。そうだな……」


 そのままクロスと名乗ってもこの様子だと魔王と同じ名前を名乗る別人と思ってくれそうだが、せっかく変装をしているのだから別の名前を名乗っておこう。


「バッツ。私は魔王様に使える執事のバッツだ。宜しく頼む」


 適当に身分をでっちあげ、名乗った。


また三日後ぐらいにアップします。

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