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ソフトクリーム

朱回です。

 駅前の女物の洋服店を二人で回っている。すでに俺の両手にはそこで朱が買った荷物を持たされていた。ついでに彼女のスクールバッグも俺が運んでいる。

 

 どうしてこんなことになっているか最初から思い出してみる。

 ゲーセンで朱に偶然遭遇した。気づいたらこうなっていた。うん、分からん。


「お前、こんなことしてていいのかよ」


「別にいいでしょ…… さ、次はスイーツよ」


 手ぶらの朱についていく。


 この時は、単にだるいからサボっているくらいの軽いイメージだった。

 

 移動販売車でソフトクリームを買ってきた朱が戻ってきた。停車している広場に設置されているテーブル席に向かい合って座った。


「一口だけよ」


 プラスチックのスプーンを俺の口元に持ってくる。正直、動揺を隠せないのだがここで拒否しても何の意味もないのでありがたく貰うことにした。まだあいつ口付けてねーし。

 

 朱は俺が口をつけたスプーンでそのままソフトクリームを口に運んだ。俺が気にしていた間接なんとやらは全然気にしていない様子だ。もう諦めることにした。


「そんなにレッスン行きたくない理由を教えてくれよ」


 さっきより少しだけ真剣に言ってみた。意外だと思うが俺は根は真面目なのだ。


 朱の表情は神妙になる。徐々に落ちてきた陽はそんな朱の表情を隠していく。


「明確な理由なんてない。ただ、気が向かないときは行かないの」


 少しは話してくれる態度にはなったらしい。


「そんなしょーもない理由で休んでも怒られんのか?」


「うちのグループ、メンバー少ないからそんなにきつく言ってこないのよ」


 確かに最近のアイドルグループでは四人というのは少なめな印象がある。言われるまであまり気づかなかったが、昨日ライブに行った他二グループは七人組と八人組だった。颯介の一推しグループもメンバーは十人以上いるらしい。


「にしても女一人でゲーセンはないだろ」


 少しからかうニュアンスで言ってみた。


「いいでしょ、好きなんだし……」


 俯いた頬が桜色に染まる。いや、いきなり照れんなし。こっちまで恥ずかしくなってくるんですけど!


「ほ、他はどんなゲームするんだ?」


「は? 音ゲーしかしないわよ」

 

 朱はさも当然かのような顔をする。こいつには常識は通用しないんだな。分かった。


「そ、そうか。にしてもアレだな。お前死ぬほどうまいのな、音ゲー」


「当たり前でしょ! ずっと通ってるんだから!」


 朱は得意げに胸を反る。


 俺は強調された彼女の胸から目をそらす。やっぱでけえな……


「自慢するようなことじゃないだろ……」


 音ゲー全国レベルがプレイしてる姿ほどドン引きする物はねーぞ。


「通ってるだけではあっこまでうまくならねーよ。俺も中一から通ってるけどさ」


 朱はそれを聞いて少しだけ顔をしかめる。

 少しだけ間を開けてから朱は口を開く。


「変な話するわよ」


 朱は一転真面目な表情になった。それにつられて俺も気を引き締める。


「アタシ、昔から勉強も運動も結構得意でね。それ以外も大体何でもできる」

 

 見た目のわりにスペック高いんだな。


「音ゲーもその中の一つって?」


「そうかもね」


 朱は続ける。


「それで学校行くのがなんか楽しくなくて、暇つぶし代わりにアイドルやってみたの」


 暇つぶしでアイドルが務まっているのも相当すごいけどな。


 一紗が聞いたら怒りそうだ。


「アイドルも楽しくないのか?」


「ううん、ライブは楽しい」


「じゃあ」

 

 言いかけたが朱の言葉に遮られる。


「歌もダンスも一回やると覚えちゃって」


 朱は作り笑いを浮かべながらソフトクリームの山をつつく。まだ全然減っていない。


「アンタはさ、なんか真剣になれるものってある?」


「今は一紗に真剣」


 そういう意味で聞いたのではないことくらい俺は分かっていた。


「そういうのじゃなくて! 勉強とか部活とか趣味とか……」


 案の定軌道修正される。


「勉強は普通だよ、中学の時は部活やってたけど」


「そういうの、なくても平気なの?」


「そんなの考えたことなかった」


 俺はいつも通り素直に思ったことを伝える。


「一紗はね、めっちゃ練習してんの」


「昔からアイドルに憧れてたらしいな」


「アタシは、一紗みたいに本気になれない」


「高校生なんてそんなもんだろ」


 やりたいことや真剣に向き合えるものあるいは夢を持っている高校生なんて日本にどれだけいるだろうか。ほとんどの人は漠然と学校に通い、漠然と勉強してるのだ。大学生だって社会人だってそんなに変わらないはず。


「友達いないからわかんない」


 あー、そりゃごもっとも。


 近くにいるのが一紗だったのがある意味運が悪いのかもしれない。


「なら」


 俺は朱が持っていたソフトクリームを奪い取った。


「コラ、ちょ、返しなさいよ! アタシのソフト!」


 朱は必死になってソフトクリームを取り戻そうとしてくる。狙い通りだ。


「できてるじゃん」


「はぁ? 何がよ」


 俺は()()な眼差しで朱を見つめる。


「今お前は、俺からソフトクリームを取り返すことに『真剣』になっただろ?――」


「――ふふ。あはははは」


 今日初めて見せる笑顔だ。ステージで見せる笑顔とは違っていて、初めて見るのにこれが朱の自然体なのかもしれないと思ってしまった。


 金髪に反射した夕日がいつもの数倍朱を美人に見せる。


「何その屁理屈、ばっかじゃない??」


「同じ高校なんですけど?」


 不服申し立てだ。


「あれ、アタシ言ってなかったっけ?」


「は? 何が」


「アタシ、数理科学コース」


「マジで!?」


 数理科学コースとは我が〇△×高校の最も偏差値の高いコースで一クラスだけ。推薦入試のみで三年間クラス替え無しの超エリート学級だ。

 俺や颯介や一紗が所属する普通科コースとは比べ物にならないくらい賢い。


「だから、学校であんまり見かけないのか……」


 数理科学コースは各学年七組に設置されているのだ。教室は一組から順番に並んでいるため七組の教室は俺や一紗の教室とは最も遠い位置に配置されている。


 奪い返したソフトクリームのクリーム部分はいつの間にかなくなっていて、コーンが残っているだけだ。


「さてと、最後にコスメ買いに行くわよ!」


 コーンをバリボリと食べながら席を立つ朱を、急いで追いかける。


 さっきの洋服店の感じからLOFTとかそういう大衆向けのお店に行くと思っていたのだが、着いたのは百貨店の化粧品コーナー。


 周りには大人の女性ばかりで視線のやり場に困る。


 客観的に見なくても制服の男女が浮いて見えるのは丸わかりだった。


 朱はそんなことお構いなしに化粧品を見ている。


「お前そんな金あんのかよ、さっきも結構使ってたみたいだけど」


「アイドルって意外に儲かるのよ」


 真顔で儲かるとか言わないでくれ。真面目にバイトしてる颯介がかわいそう……。


 てか颯介置いてきたままだわ。後で謝っておこう……


「アンタが買ったCDも一部、アタシに入ってきてるのよ?」


 心の中でもう絶対こいつのグッズ買ってやらねえと誓った。


やっと週末ですね。お疲れ様です。

書かなきゃとは思ってしまうのですが、書き始めたら結構楽しめます。

最近は読む方が全くできていないのでうまく時間を作りたいです。

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