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当たり前

一紗視点で書いてみました。グループのメンバーの名前も明かされます。

※3/4改稿しました。

「学校でも、俺以外にファンになってくれる奴、いると思うぜ」

 

 握手会で立華君に言われた言葉がずっと頭の中でリフレインしている。ライブと特典会が終わって、帰る準備をしながらずっとそのことについて考えていた。

 

 私だって友達がほんとに要らないってわけじゃない。

 

 私をいじめていた中学の同級生とは絶対に同じ高校に通うのが嫌だった。だから地元から少し遠い私立高校を選んだ。

 

 反省して高校では目立つようなおしゃれはあまりしないようにした。

 

 それでも、口下手だから同年代の女の子と話すのがどうしても苦手だ。テンポの速い会話とかゲラゲラ笑うのとか私には無理。同年代の男の子と話すのも恥ずかしくて得意じゃない。

 

 その代わりにメンバーがいるし、ファンの人も少しずつだけど増えてる。

 

 今の自分は嫌いじゃない。ずっとやりたかったアイドルになれたし。

 

 学校でアイドル隠してるのは、何となくそういう学校の人と関わることとアイドルしてる私とを切り離してるから。


「どしたん? そんな暗い顔して」


 下着姿のまま充葵(みつき)ちゃんが聞いてきた。充葵ちゃんは同じ高校の三年生でひとつ上。学校では先輩だけどFortune Route歴は私がほんのちょっとだけ長い。


「充葵ちゃんは友達いる?」


「へ? いるけど」


 すごく当たり前のことを聞いちゃった。私にとっては『当たり前』ではないけど。


「ごめん 何でもない」


 私ははぐらかすような笑顔で話題を終わらせた。


「そういえばさー、一紗と朱ってそろそろ修学旅行だよね」

 

 話題が変わってほっとする。充葵ちゃんが気を遣ってくれたんだろう。


「へー! 楽しそう! どこ行くんですか?」


 (りん)ちゃんは一つ下だけどいつも明るくてグループのムードメーカー。


「東京だけど」


 朱ちゃんは自分のことなのに興味なさげに答える。


「えー、なんかつまんないですね~。沖縄とかじゃないんですか」


「ま、私たちからしたら何度か行ってるけど、普通は東京行ったことある人少ないんじゃないかなあ」


 充葵ちゃんは凛ちゃんに分かりやすく説明する。


「げ、修学旅行と私たちのイベント被ってるじゃん」


 充葵ちゃんがスマホのカレンダーを見ていて気づいたようだ。まだ服着てないし。


「そうね。確か、修学旅行とイベント被ってた気がする」


 朱ちゃんが答える。


「えぇええ、じゃあ二人抜きですか?! 私と充葵さんだけの二人ステージ??」


「ユニット組んじゃう??」


 充葵ちゃんはノリよく凛ちゃんに乗っかる。


「いや、アタシたちも出るわよね? 一紗」


 朱ちゃんの視線が私に向いた。気を抜いていたから反応が遅てしまった。


「あ、あ~。そうそう! 途中でいったん抜けてライブだけ出るよ!」


「修学旅行途中で抜けるとかできるんですか?」


 凛ちゃんは素朴な疑問を抱いた様子だ。


「ちょうどライブの出番の時間帯、自由時間で。学校にも許可とってるよ」


 どうせ自由時間でも班の人に黙ってついていくだけなら、みんなと歌ってる方が百倍楽しい。


「でもせっかくの修学旅行なんだからそっち優先しなよ。私、去年ディ〇ニー行ったよ?」


「ディ〇ニー!!! いいなー! 私行ったことないです」


 凛ちゃんは目を輝かせて興味津々のよう。


「とにかく、アタシたちはその日のライブも出るから!」


 凛ちゃんはディ〇ニーランドの話をしたかったようでがっくし肩を落としてしまった。


「そうなんですか……」


 朱ちゃんは妙に早く修学旅行の話題をやめたいようだった。疑問に思ったけれど聞くほどのことじゃないのかな。


「じゃあみんな、お先ね」


 朱ちゃんが着替え終わって一番乗りで出て行った。


「お疲れー」


「お疲れ様でーす」


「お疲れ様」


 私も着替え終わったので朱ちゃんに続く。


「わ、私も。また明日」


 できるだけ元気に聞こえるように挨拶して更衣室を出た。


「お疲れー」


「また明日です!」


 楽屋を出て外の空気を吸う。春ももう終わりかけだけど夜はまだ冷え込む。


 私はさっきの朱ちゃんの不自然な切り上げ方が気になっていた。

 

 充葵ちゃんは学校では友達が多いみたいで今日みたいに四人でいるときも学校の話をよくする。

 逆に凛ちゃんは高校には通っていなくてバイトとアイドルの二足の草鞋だから充葵ちゃんの話をよく楽しんで聞いてる。

 

 けど、朱ちゃんから学校での話は全く聞いたことがなかった。

 もしかして私と一緒で『当たり前』じゃないのかもしれない。もしそうだったら、親近感わくかも。


「そんなわけないか……」


 メンバーのことはみんな大好きだけど、朱ちゃんとはあまり個人的な話をしてこなかった気がする。


 朱ちゃんはいわゆる天才型で歌もダンスも一回通せばすぐに覚えられる。私は何度も練習しないと覚えられないからとっても羨ましい。


 しかも理数クラスの七組って言ってたから勉強も得意なんだと思う。私なんかよりも美人で身長も高い。


 嘘、顔は負けてない。

 

 レッスンはたまに来なかったりするけど。

 

 朱ちゃんのことを考えていたら逆に自分がどう思われてるのかについても気になってしまった。

 

 私も自分から学校のことを話したりしないのは同じ。『当たり前』ができてないことは三人には言っていない。信頼してるけど自分から言う必要はない。

 

 電車に乗るタイミングでイヤホンを付けた。

 私の好きなアイドルの曲を流して、考えるのをやめた。

 

 月曜日、眠いのは我慢して頑張って授業を聞いた。ゴールデンウィークと修学旅行の後には中間テストが控えているので勉強が得意じゃない私は板書だけは絶対に取るようにしてる。

 

 授業が終わってすぐに下駄箱へ向かった。今日もレッスンがある。

 

 靴を履き替えて昇降口へ出ると立華君と目が合った。


「こんにちは」


 自然になるよう意識して挨拶する。


「昨日ぶり」


「そうだね」


 立華君の昨日の握手会での言葉がまた蘇ってくる。


「修学旅行、イベントとかぶってるよね?」


「ああ、そのこと」


 聞かれたのは昨日のライブの後メンバーと話した話題だった。


「ライブの時間だけ抜けるの。そのタイミングでちょうど自由時間らしいから。学校にも伝えてある」


 凛ちゃんに言ったことと同じことを伝えた。


「そういうことか、なるほどな」


「そこまでして来なくていいからね」


 立華君は私と違って『当たり前』ができてる人だから。


「なんでだよ」


「立華君は修学旅行を楽しんでほしいの」


 『当たり前』ができてる人がわざわざ私にかまう必要なんかない。


「一紗も修学旅行楽しまないと」


「私は……無理だよ」


 修学旅行で楽しんでる私の姿は全く想像できない。


「ま、ライブは行くから」

 

 立華君が私に気を遣っているような言い方をしてきたのでカチンときた。

 そんな気遣いはいらない。

 私は私の『当たり前』を実践するだけ。


「私、この後レッスンだから」


 私はすぐにその場を立ち去った。



視点を変えて書くのは難しく感じました。あと、複数人会話も難しかったです。

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