よびすて
昨日、初めて評価とブクマを頂きました。初めて書く小説でも読んでくれる人がいるんだと感動しております。
日曜日のライブのチケットは颯介に取ってもらった。あいつこういうところ気が利くんだよな。
今日の会場は初めて行った会場とは別の会場だ。
ただ、まだ朝の十一時である。颯介にラインで伝えられた集合時間がその時間だったのだ。
「わりぃ、わりぃ」
颯介は集合時間ピッタリに到着した。
「うい、てかなんでこんな早い時間に集合したんだ?」
「タツにほかのグループも見せようと思ってさ」
「ん?」
颯介の説明によると、アイドルグループなんてものはこの世には無数にあって、週末になると各地各所でライブイベントが行われているらしい。しかも俺が初めて経験したみたいに無料で観覧できるイベントがたくさんあるのだと。
それからは七人グループのショッピングモールでのリリースイベントとまた別のアイドルの無銭ライブに参加した。
しかし、どんなアイドルにもオタクはいるんだなぁとかそんなどうでもいい感想をもったうえ、Fortune Route以外に新しく興味を持ったグループはできなかった。
颯介的にはライブで大声を出して盛り上がるのが楽しいらしく、本業グループ以外でも今日のように電車で行ったり来たり会場を移動してライブに足を運ぶそうだ。
二つのライブイベントを終え、お目当てのFortune Routeの会場に着くと午後五時四十分。開演までにはちょうど良い時間だった。
「MIX覚えてきたか?」
「ああ、義務教育と可変三連だけな」
MIXというのはアイドルライブにおいて曲の前奏や間奏などで観客が叫ぶ特定の掛け声のことだ。タイガーファイヤーとかそういうやつ。
「一週間でそんだけできれば上出来」
颯介曰く、義務教育と可変三連を覚えておけばどんなアイドル現場でもある程度は『高まれる』らしい。颯介はさっき行ったライブでも曲の途中ずっとMIXを打っていた。
Fortune Routeのライブではそのほかにガチ恋口上や混沌MIXなどわけのわからんMIXが存在しているらしい。
そうこうしているうちにライブは開演となった。
予習した甲斐もあってか曲中ではしかるべきタイミングでしっかりとMIXを入れることができた。
最初の方は遠慮して小声で発声する程度だったのだが、ライブ終盤では俺も吹っ切れて周りのオタク同様に叫び散らかしていた。
まだ覚えていないMIXはあるが、死ぬほど大声を出して知らないオタクと盛り上がるのは、思いのほか爽快感がありクセになってしまった。
最後の曲が終わった後はもうへとへとだった。ライブに『参加する』とはこういうものなのか。しかし颯介の体力はすごいな。あいつ持久走結構早めに終わってたしな。
「ここでお知らせがあります!」
一紗でも朱でもない少女がアナウンスする。
お知らせの内容とは新曲のメインボーカルとセンター位置を、特典会でファンが購入したメンバーCDの枚数やグッズ売り上げで競うというもの。期間は一か月ほど。この後の特典会から開始するらしい。
熱心なオタクは一度に数十枚とか購入するらしいが学生の俺にそんな余裕はなかった。今日も一紗用に一枚だけ買おうと思っていたのだが、朱の顔が思い浮かんだので朱のをもう一枚購入することにした。
握手会はどっちから先に並んでもよかったのだが、好物は最後に残しとく派だ。
ちなみに颯介は本業のグループで名古屋遠征が控えてるとかで今日は節約だそうだ。終わるまで待っていてくれるらしい。
「あら、アンタ一紗推しじゃなかったの?」
朱はそれまで俺以外のファンにしていた口調が変わった。屋上扉の前で話したときの口調だ。なんで俺にだけそんなに上からなんだよ。
「この後列並ぶし」
「変な気使わないでよ。ま、ありがと」
しかし素直なとこもあるようだ。
朱はグループでは一紗に次ぐ二番手ポジションのようで一紗と朱でグループの真ん中組と呼ばれている。
一紗とハモっているのはいつも朱だ。
「次からは買わねえよ」
「はあ?! 別にいらないわよ!」
急に声が大きくなったと思ったら頬が赤くなっている。
先ほどの言葉は撤回しよう。次のライブでも買ってやるか。
「じゃあな。一紗に負けないよう頑張れよ」
「大きなお世話よ!」
握手会しながら言うセリフではないと思いながらも、朱の列を抜け一紗の列に並びなおす。
「……しまった」
あいつの前で一紗って呼び捨てにしてしまったな……
まあいいやファンなんだし。
本人の前でも呼び捨てでいいよね? うん、呼び捨てにする。コールでもすでに呼び捨てだし。
俺は覚悟を決めて、一紗の列に並ぶ。
一紗の列は一番長いので緊張したまま結構な時間待つことになった。
俺の番になり、今日は俺から一紗の手を掴んだ。
「一枚だけなの?」
初めて握手したときとは対照的に一紗の表情は蠱惑的だ。
「学生だから許してくれ」
「知ってる、ふふ」
一紗は俺の目をしっかり見て微笑む。
なるほど、これが『釣り』というやつか。
どうやら朱のおかげでアイドルとの接触にも慣れてきたらしい。
俺は前回に比べて冷静だった。
しかし、またもや話す話題を用意してなかったので金曜日に口に出せなかったことを伝えてみることにした。
この時俺はそこまで深く考えていなかった。
「一紗、この前のことなんだけどさ」
「え?」
一紗はきょとんと首をかしげる。
「学校でも、俺以外にファンになってくれる奴、いると思うぜ」
「……」
彼女はそれを境に俺から目線をそらしてしまった。
一紗の顔を見ると余計なことを言ってしまったと思ったが、間違ったことは言っていないつもりだった。
「じゃあ、また来るから」
一紗は前回の握手会の時の笑顔を見せない。
俺は握手していた手を離した。
彼女はそれきり最後まで俺の目を見てくれなかった。
帰りの電車。
「そういえば一紗ちゃん、うちの生徒だって知ってた?」
俺だけ知っているであろうと思って謎の優越感を持っていたのだが颯介も知っていたようだ。
「え?! お前知ってたのかよ!」
「いや、学校で見かけて」
学校で初めて会った時の顔とさっきの別れ際の顔が同時に浮かぶ。
「お前、一組に知り合いっているか? できれば女子」
颯介は頭の上にはてなを浮かべている。
「いるけど」
自分でもお節介だという自覚はあった。
「まあ、やるだけやってみるか……」
さて、私の近況など少し書けたらと思って後書きを日記代わりに使わせていただきます。
私は修士1年で来月から就活が本格的に始まります。そんな中で始めた小説ですが、毎日少しずつリアクションが増えていっているのがモチベーションになっているんだと思います。先日、面接で落ちたのとは対照的に感じます。毎日投稿続けます。