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ネクラ

 相変わらず颯介以外の友達がクラスではできなかったが、水木と颯介は昼飯に付き合ってくれた。


 金曜日の午後の体育の時間。体育は一、二組や三、四組といったふうに二クラスずつ合同で授業を行うことになっている。


 今日の授業は体力テスト。男子は持久走だ。体力的にはつらいが『好きな人とペア』を組まなくて済むので精神的には楽だ。颯介はおそらくほかのやつと組むだろうしな。


 曇り空の中早々に持久走は開始し、ガチ勢以外の生徒は校庭をだらだら走る。


 女子は短距離走らしい。二人ずつ走っていくようで、それ以外の生徒は実質お休みおしゃべりタイムだ。


 名前順だと『柊』は真ん中ぐらいだろうか。予想をしていると一紗を見つけた。


 てっきりおしゃべりタイムに興じていると思っていたけれど、どうも一紗は一人で座っている。


 あいつもぼっち系なのかよ。あのグループぼっち多いなとか思いながら観察を続けていると一紗の番になった。


 走り出した一紗はそれまでの生徒の中で一番速いようだった。

 フォームも美しくて外見は地味だけど気品がある。

 さらさらな黒髪が風にそよぐ光景はなんだか涼しさを感じさせる。


 やっぱりアイドルは運動できるんだなぁと感心する。


 六時間目の物理の授業は子守唄代わりにしっかり睡眠時間にあてた。こればっかりは昼食後に体育を配置している学校側が悪いのだ。


 例のごとく放課後は学校に用はないので授業が終わると学校の最寄りである○○駅に向かう。颯介は今日もバイトらしい。


 学校を出ると小雨が降ってきた。急いで駅へ走る。


 部活動が盛んな我が校では放課後すぐに帰宅する生徒は少なく、駅に着くと同じ制服を着た生徒は数人だけだった。


 電車を待っている人の中に一紗の姿を発見した。


 ファンが本人に話しかけるってアリなんだろうか。いや同じ学校の同級生なんだから別にいでしょ。これからする行動のはおかしくないのだと自分に言い聞かせる。


「学校おつかれさま」

 

 一紗は少し驚いたような顔をしたがすぐに普段の端麗な顔に戻る。


「こんにちは」


 軽く微笑む横顔を見ると肌の白さがよく分かる。


「柊さん、足速いんだね」


「見てたの?」


一紗はこちらを向き苦笑を浮かべる。やべ、さすがに引かれたか……。


「え、いや、その……勝手に目に入ったというか……」


「見てたのね……」


 そう呟くと彼女は線路の方に向き直る。


「じゃあ、ひとりなのも?」


「え?」


 一紗は予想してたものとは違う返答をしてきた。


 しかし、体育の時間、一紗が仲良さげな友達が一人もいないことをしっかり目撃してしまっている。俺は嘘はつけない性格なのだ。


「ああ、見てた」


 学校で一人でいるところを見られたのなら誰だっていい気はしないだろう。

 

 一紗の表情が神妙なものになる。


 すぐに電車は到着し、二人で乗り込む。

 まだ帰宅ラッシュには早い夕方の時間、座席は十分に空いているが一紗は座らない。


「……私、中学の時いじめられてたの。顔がかわいいから」


 そう漏らす。『根暗』だけど頑張り屋さんってそういうことか。


「……美少女も大変だな」


「アイドルやってるなんて言ったらもっとひどくなるでしょ?」


「……」


 確かに、容姿が優れていると嫉妬の対象になるなんてことは俺が経験してきた学生生活でもままある。顔がかわいいとトップカーストに君臨していると思いがちだが、そういうタイプの人も存在するのだ。自分でかわいいとか言っちゃうのも影響してると思うが。


「そんなに、アイドルやりたかったのか」


「昔からね。ずっと憧れてた」


「天職だと思うよ」


「ふふ、それ褒めてるって分かりにくい」


 ようやく弛緩した表情を見せる。


「……だから、学校の友達なんていらない」


 一変し、諦観したような目で窓の奥の景色を見ている。


 無理に友達を作る必要なんてないが、応援してくれる生徒なんて普通にいるのではないだろうか。現に俺はファンなんだし。


一紗の横顔を見ながら思ってしまった。俺も友達そんないないけど。


「そうか」


 心の中で思っていたことは口に出せなかった。

 

 乗り込んだ時よりも雨脚は強くなったようで窓には雨粒が張り付いている。


「うん……」


 その言葉を最後に二人の間にはしばしの沈黙が流れてしまう。


「あ、そうだそうだ。ライン教えてよ!」


 気まずい雰囲気になるのは阻止しようとして勝手に出た言葉がそんなものだった。


「ふ~ん、アイドルに連絡先聞くなんていい度胸」


 一紗は嗜虐的な笑顔を浮かべる。


「あ、いや、そういうんじゃ」


 すいません。すいません。俺なんかが女子に連絡先を聞くなんて百億年早かったです。身の程知らずでした。


「別にいいけど」


「へ?」


 こんなにあっさり女子に連絡先もらえるなんて一生分の運使い果たしたと言ってても過言ではない。


 一紗と連絡先を交換する。


「じゃ、私この駅だから」


 一紗は胸の前で小さく手を振ってから「また」と一言発すると電車を降りて行った。


 交換したばかりの連絡先を眺めていると、颯介からラインの通知が届く。


「次のライブ、今週の日曜日」


初めて小説を書きます。できる限り毎日投稿を続けようと思っています。

よろしければ感想などいただけると幸いです。


次回から後書きで私の近況など簡単に日記代わりに書きたいと思います。

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