金髪ウェーブ
金髪ヒロインです。
一紗に頼み事をされた翌日の昼休み。
「下駄箱が隣だったってことはあいつ、一組か」
誰にでもできるような推理を中断する。とりあえず飯だ。
颯介に一緒に飯に行かないかと声をかけようとしたが、すでに数人で固まって食堂に行くらしかった。
「そういえばこいつオタクの癖に友達多いんだった」
ぼっちになってしまった俺は仕方なく売店へ向かうことにする。
売店で菓子パン三つとコーヒー牛乳を購入したが、食べる場所が決まっていないことに気づいてしまった。
教室に戻るのも、すでにグループができつつあるクラスメイトに対して、なんか申し訳ない。かといって便所飯なんかも論外だ。中庭とか屋外で食べるにはまだ肌寒い。
選択肢がひとつずつ削られていく中で昨日のことを思い出した。
四階のあの場所、人もいなくて陽当たりもよかった気がしないでもない。今後の昼飯スポットの一つに検討しておこう。教室が検討対象になってないあたりが俺だ。
昨日の四階スポットに着く。
その先には屋上へと続くフロアまで階段が数段あるのだが、この学校ではアニメみたいに屋上は解放されていないのが現実だ。
仕方なくその階段に腰かけて昼食を開始する。
菓子パンを片手に、一紗のSNSをフォローしておくかとスマホを取り出す。
ツイッターで一紗のページを開いてしばらく閲覧していた。SNSの更新はこまめなようでタイムラインには彼女の写真が潤沢にアップされていた。
「はぁ、やぱっかわいいなぁ」
俺は彼女のツイートに片っ端からいいね、リツイートのボタンを押していく。
「アンタ、一紗推しなんだ」
後ろからいきなり声をかけられる。振り向いても誰もいない。
後ろを見ると屋上へ続くドアが開いていた。
「あれっ?」
首を反対側に回転させて振り返ると、金髪ミディアムロングウェーブ巻きの美少女がゼロ距離に存在していた。
「うおぉ!」
後ろへ吹っ飛び過ぎて手すりに頭を打ってしまった。
「いってえぇ……」
「ちょっと、そんなに驚くことじゃないでしょ」
腰に手を当てて立つ彼女はすらっとしていてモデルのようだが出るとこは出ている。
金髪ウェーブの美少女はきょとんとした顔でつぶやく。長いから略すな。
俺は彼女の表情で冷静さを取り戻す。
「いや、なんで屋上のドア開いてるんだよ」
「アタシ、鍵持ってるもん」
「解放禁止じゃなかったっけ、屋上って」
「別にいいでしょ? アタシの勝手」
なんだよその自己中は。逆にすげーな。よくよく見るとメイクもキツめだ。
「それはそうとアンタ、アタシたちのこと知ってんの?」
「私たち?」
「Fortune Route」
金髪ウェーブは仏頂面で呟く。美少女も取れたわ。
「ああ!!」
俺はスマホと彼女の顔を見比べる。
ツイートに添付されている写真で一紗と一緒に写っている金髪の少女にソックリだ。
あれ? でも写真の方はナチュラルメイク寄りな気がする。
「なんか顔違くね?」
「うっさい!!」
金髪ウェーブは鋭い剣のような声で否定すると、俺が持っていたスマホをひったくる。
そのままさささっとスマホを操作すると、俺に画面を向けてきた。
「サ・サ・キ・ア・カ・ネ……」
表示されている文字列を発音する。アイコンと彼女の顔にもギャップがある。
「アンタの名前も教えなさい」
俺のスマホを再び操作しながら彼女は命令してくる。
なんと上から目線のやつだ。良いだろう名乗ってやる。
「立華達。二年二組だ」
「ねえアンタ、アタシに推し変しない?」
朱はさっきの仏頂面からは考えられないほどの蠱惑的な微笑みで俺の隣に腰かける。
もうほとんど恋人の距離。
ちょ、ちょっと近くないですかねぇ。
「はあ?! するわけねーだろ?!」
俺は壁の方に向いて自分を落ち着かせる。
「じゃあ、コレならどう?」
そう言うと彼女はさらに距離を詰めてきて俺の手を取る。
俺が耐えていると彼女はおまけに指も絡ませてくる。
大人びた顔はどんどん近づいてくる。
もうそういう雰囲気です。誰もいない放課後だし。
「ちょちょ、ちょ! そういうことは大人になってからだな!」
「はぁ? 何勘違いしてんのよ。キモ」
「う……」
ですよねー。知ってました。一パーセントでも期待した俺が馬鹿でした。
彼女は俺から手を離すと再び俺のスマホを操作しだす。
「で、一紗のどこが好きなの?」
「はぁ?! す、好きじゃねーよ!」
「だーから。勘違いもほどほどにしなさい。さすがにキモいわよ」
「う……」
あ、ファンとしてどこが好きかってことか。
ほんとに引っかかりやすい罠を仕掛けてくる。
しかもさっきすでにキモいって言ったじゃねえか。
「すまん……」
男の本能を反省する。朱に言われると客観的に見ても自分のキモさ加減が理解できた。
「謝らないで感謝してもらいたいものね! こんなことただのファンにはしないんだから」
「あ、ありがとうございます」
いや、初めての経験でした。素直に感謝。
朱は全く動じていない様。さすがプロだ……
「ていうか、こんなとこで何してたんだよ」
さ、俺も反撃の狼煙を上げるとするか。
「別になんだっていいでしょ?」
朱音は虚を突かれたような顔で俺から目をそらす。
「もしかしてあれか? ひとりで飯食ってたんだろ」
「なっ……!」
一瞬にして顔が赤くなる。朱音は固まって動かない。
おー、こいつ分かりやすいなぁ。
「アンタも一人じゃない!!」
ゔっ。特大ブーメランを自分で投げていた。
「あーそうだよ。悪いか?」
「別に。誰とどこで食べようがその人の勝手でしょ」
その意見には賛成だ。ギャルっぽいけどいいこと言うじゃねえか。
朱の紅潮した顔はすぐにひんやり冷却していった。
「じゃあね」
朱は俺のスマホを放り投げてくる。屋上の施錠をした後すぐに立ち去って行った。
返されたスマホを見ると、俺のアカウントは朱をフォローした挙句、彼女のツイートをすべていいね、リツイートの状態になっていた。
「素直じゃねー奴」
初めて小説を書きます。できる限り毎日投稿を続けようと思っています。