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俺氏、アイドルにハマる

前回の続きです。握手会のシーンです。

※3/6 改稿しました。

 CD買わないといけないなんて聞いてないよ……

 

 アイドルと握手するためにはCDを購入し、それに付属してくる特典券というものが必要らしい。

 

 てっきり颯介に関しては十枚くらい買うのかと思っていたが颯介も一枚だけ。

 実際に十枚以上CDを購入している人も何人か見かけた。


 聞けば颯介はこのグループに関しては筋金入りの追っかけっていうわけではないらしい。

 アイドルオタクではあるがこのグループは颯介のメインで追っかけているグループではないとのこと。


 それと学校ではオタク仲間がいなくて困っているだとか。普通に友達はいる様子だったけど。


 リーダーの少女の列に並びながらそんな会話をした。

 

 前に並ぶ颯介が振り向く。


「他の子がよかったか?」


 そう言われて俺は改めてメンバーの様子をチェックする。

 列の長さはリーダーの子が一番長く、金髪の子が二番目、ほかの二人は同じくらいといった印象だ。


「いや、まだ推しは決めてない」


 特にぱっと見で誰が気に入ったとかはあまりなかった。


「だんだん分かってきたじゃん」


「アイドルは知らないけど、アニメ見たりはするから」


 アイドルもののアニメは何作か見たことはあったが、地下アイドルを題材にしている作品というのは俺の知っている限り無かった。

 無論、地下アイドルと特典会で話したり握手したりするいわゆる『接近』というのは初めてだ。


「立華はそっちのオタクか~」


 颯介は笑顔になりながら俺の肩に手を置く。

 その顔が気に食わなかったので肩から手を払いのける。


「声優とかアニメ系のライブは?」


「何度かな」


 アニメを見ているといつの間にか声優に興味が出てきてしまうまでがテンプレ。

 そこからラジオを聞いたりお渡し会に参加したりライブへ行ったりと沼にハマるのだ。


 そうこうしているうちに颯介の順番が来た。

 リーダーの少女とは何やら楽しげに話している。アイドルと接触するこういうイベントに慣れているのだろう。


 その光景を微笑ましく見ていたのだが、ここまで来て話す内容を全く思い浮かべてないことに気づいてしまった…


「やべっ、どうしよ……」


 前に行った声優のお渡し会で、事前にしっかり話す内容を決めておいたのにも関わらずテンパり過ぎてすべて吹っ飛んでいったという記憶が鮮明に残っている。

 抜き打ちテストの気分だったが、推し声優のお渡し会ほど緊張してドキドキしているということは無かった。

 

 颯介の順番が終わり、俺の正面が空く。


 自分から手をつなぎにいくのは何となく気が引けたのでさりげなく手を前に出して歩を進める。するとリーダーの少女は柔らかい手で俺の手をぎゅっと握ってきた。


 その瞬間俺の心臓はどきりと脈を打つ。


「後ろの方にいたよね?」


 春に咲いた花のような笑顔でやさしい視線を向けられる。


「ライブどーだった?」

 さっきよりも目を見つめられ反射的に目をそらしてしまった。


「すごかったよ」


「うれしい、今日はじめてだよね?」


 ころころと表情を変える彼女を見ているとどんどん心臓が跳ねる。


「ああ、はじめて」


 なんとか会話として成立するぎりぎりの返答をするのが限界だった。


「またライブ、来てね」


 最後に再びにこっと微笑み顔で目を合わされ、挙句の果てウインクだ。


「ウッ……」


 彼女の笑顔は極めて正確に俺の心を撃ち抜いたのだった。

 

 彼女は最後まで胸の前で小さく手を振ってくれている。

 

 彼女から離れてもしばらく俺の心臓はドクドクと音を立ていた。

 

 ほんの数秒の出来事だったが、正体不明の心地よさと、強烈な恥ずかしさが俺を襲ってくる。

 

 その二種類の感情に飲まれながらも俺は無意識のうちに口を開いていた。


「次のライブいつだろう……」


「次のライブ? ちょっと今わからんからあとでラインするわ。来週くらいにまたあるんじゃね?」


「本当か?!」


 俺は反射的に颯介の両肩を掴んでしまった。


「そんなに気に入ったか?」


「いや、気に入ってない」


 颯介の得意げな顔を見て俺はすぐに手を離す。


「立華もオタクの仲間入りだな」


「うるせぇ」


 ライブハウスを出るとすっかり夜になっていた。商店街には無数の人が歩いている。


 颯介に飯を食っていくかと聞かれたのでうなずいた。

 あれ? 俺たちこんな仲良かったっけ。やるじゃん俺。初日から飯行くほどの友達出来るなんて。


「ミラノ風ドリアとペペロンチーノ」


 みんな大好き安心安全の高級イタリアンで各々注文を済ます。

 食べている最中でライブの感想を話したり、颯介のメインで追っかけているアイドルグループなんかも教えてもらった。


 どうやら颯介はアイドルについて話している時、いつものさわやかさが失われるようだ。俺は勝手にオタクモードと呼ぶことにした。


 高級イタリアンを出て駅へ向かう。颯介はJR線、俺は地下鉄ということだったのでそれぞれの帰路についた。


 颯介の顔を失うと、さっきの少女の笑顔が浮かぶ。


 くそ。これは多分ハマるやつだ。あんな笑顔を見せられたらもう一度会いに行くしかないだろっ……


次は新ヒロインが登場します。


初めて小説を書きます。できる限り毎日投稿を続けようと思っています。

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