ほんとに偶然の邂逅
六時間目の後すぐにも七組の教室を訪ねてみたが朱は登校していなかった。
綾乃の質問から以前ゲームセンターで朱が音ゲーをプレイしていたことを思い出したので、単純だがゲームセンターに行けば運が良ければ朱に会えるのではないかと考えたのだ。
偶然の産物からヒントを得た俺であったが、それが効果的に作用するかはまだ分からない。
「ねえ、何か分かったの?」
「まだ、行ってみないことにはな……」
「どこか行くの?」
「ゲーセン」
特に隠す必要もないので俺は綾乃にはっきり伝える。
「は? なんで?」
「綾乃も一緒に来るか?」
「へ?! ちょ、心の準備が……」
綾乃は顔を隠してぶつぶつ言っている。
「なんか言ったか?」
朱がゲーセン好きなことはあまり知られたくないっぽいからこれは綾乃には言わないでおく。俺も気が利くようになっただろ?
「なに突っ立ってんだよ。早く行くぞ」
「ちょっと! おいてかないでよぉ!」
俺は綾乃を放っておいて例のゲームセンターに向かうのだった。
結論から言うと、そんな簡単にはいかないようでゲームセンターに朱の姿は無かった。
「まあ、いねえよな」
しかし、俺はそこで興味深いものを発見する。
朱が以前プレイしていたゲームと同じものをオタクっぽい男がプレイしていた。
プレイしているだけなら特に言うことは無いんだが、その様子がおかしかったのだ。
音ゲーなのに、その男は全身を使って、頭は前後に動かしながら画面をタップしているのだ。
一般人ならドン引きの荒ぶりようだ。
「すごいね…… あの人」
綾乃も俺の隣にいたはずなのに三歩ほど後ずさりしている。
音ゲーの民はこういう変わったプレイヤーが往々にして存在するのだ。
しかし肝心のゲーム画面に目を向けてみると、すべてのノーツでパーフェクトを叩いている。
実力で言えば朱と同レベル、いや上回るかもしれない。
それを見ていると綾乃に腕を引かれる。
「ねえ、ちょっとぐらい遊ぼうよ~」
回れ右をした綾乃は全く興味のない様子だ。
今日は遊びに来たんじゃないんだよ綾乃君。
「あー、これやるからちょっと一人で遊んで来い」
俺は子供を見守る親のような顔で綾乃に五百円玉を渡す。綾乃ちゃんはちゃんと両替えできるかな?
「もう! せっかく二人っきり……」
「なんか言ったか?」
「もー知らない!」
そう言うと綾乃は隣のダンスゲームのコーナーに向かっていった。
俺はその男のプレイが終わるのをしばらく待ってから声をかける。
「お前、めっちゃうまいのな」
「ん?」
男は困惑している様子。
「プレイ見てたんだ。知り合いがそのゲーム好きでさ」
「僕は十年くらいやってるからねぇ」
リザルト画面にはランキングが表示されている。ランキング一位のプレイヤーネームの隣にはその男がいま取ったスコアが表示されていた。
「え? ちょっと待て、お前全国一位なの?」
「ま、今の曲は今日配信された新曲でね。すぐにこのAKANEってプレイヤーに更新されるさ」
男は画面を指さす。
二位のプレイヤーネームはAKANEと表示されている。
そのまま画面を操作し他の曲のランキングを見せてくれる。
「ほら、ここら辺全部」
AKANEはほぼすべての曲のランキングで一位を独占していた。
相当うまいと思っていたけど全国一位ってマジか…… あいつ。
これは偶然だが朱をおびき出すいいきっかけになるんじゃないだろうか。
「他の曲で、一位とったりできないのか?」
「うーん、あまり人気の無い曲だとAKANEもそこまでやりこんでないみたいだからもしかしたらスコアの更新できるかもね」
男によれば、比較的配信されて新しい曲は朱によって軒並みランキングを独占されているそうだ。
朱は理論値と呼ばれるそのゲームで出せる最高得点をたたき出していて、ゲームシステムが変わらない限り朱の一位は揺るがないのだという。
だが、最高難易度曲の中でも配信から時間がたった何曲かは朱の一位が刻まれていると言えど、だいぶ昔のスコアで理論値ではないそうだ。
その男もしばらくプレイしていなかったようだが、曲の難易度も最新の曲に比べれば少し易しいらしくランキングを更新できる自信があると言っていた。
「えーと、GATE、お前に頼みがある」
ランキング画面のプレイヤーネームはGATEと表示されていて俺はその男の名前として呼ぶことにした。
「なんだい?」
「その最高難易度曲でできる限りの曲でいいからランキングをお前の名前で塗り替えてくれない
か?」
GATEは少しだけ驚いた様子だったがすぐに俺の申し入れに答えてくれた。
「うん、おいおいやろうと思ってたから、いい機会だ」
GATEは追加でコインを投入しゲームを再開する。
彼は数回プレイしなおすことで、五曲でランキングを塗り替えることができた。
そのうち一曲は理論値をマークしていた。
「お前、やっぱすげえな。ちょっと引いたわ」
「そう言われると傷つくよ……」
GATEは胸を押さえる仕草で大袈裟にリアクションする。
「なんかお礼したいんだけど」
やはり頼み事をしておいてそのままってわけにはいかない。
「お礼? 僕がやりたいからやっただけさ」
「なんか欲しいものとかないか?」
GATEは数秒考えこんだ後に自信満々に発言する。
「彼女」
「ああ、そりゃ俺もだ」
二人で苦笑する。
GATEは荷物を持つと俺に別れを告げる。
「じゃあ、ありがとうね」
ありがとう? 俺がお礼を言う側なんだけどな。
俺が理解しかねているとGATEは言う。
「君が言ってくれなかったら僕、多分一生一位とれないままだったからさ」
「そうか……」
「たとえ一曲でもね」
言い残すとGATEはゲームセンターを出て行った。
俺は綾乃を探そうとゲームセンター内を見渡すとすぐに見つけることができた。
結構時間経ったはずだったが綾乃はいまだに同じゲームで踊っていた。
「立華君もこれやろうよー! 楽しいよ?」
「運動不足に無茶言うな」
綾乃は俺の五百円を余すことなく堪能していたようだ。
さっきまでGATEがプレイしていた筐体にはすでに他のプレイヤーがいた。
GATEが出したスコアは一曲だけ理論値を出したが他の四曲に関しては理論値ではない。
ランキングを更新された朱はおそらく近いうちに一位を奪取しに来るだろう。
そんなことで朱をおびき出せたら苦労しねえよと自分にツッコミを入れたのだが、その時の俺はなぜか妙に自信があったのだ。
今日も読んでいただきありがとうございました。
朱編まだまだ続きます!
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