友達関係 ―修学旅行編―
第一話を改稿しましたので、よかったらお読みください。
「イベント、どうだった?」
その日の夜、同じ部屋の颯介と俺は消灯時間を過ぎても寝付けずにいた。ほとんどの生徒がそうだと思うが。
「いや、普通だったけど」
「普通って。せっかく抜け出したんだからなんかあるだろ」
「一紗に、『ファンの人』って呼ばれた」
「はぁ? その通りじゃん」
スマホの光が颯介の顔の部分だけを照らしている。
「まぁ、そうなんだけど」
少しくらい彼女の力になれたらって思って行動したけど、まったくそんなことは無かったらしい。
俺もスマホを取り出して、一紗とのトークルームを眺める。一度だけ来たメッセージが表示されている。
それに俺はまだ返事のメッセージを送っていない。
これからどうすればいいのだろうか。
何を送れば伝わるだろうか。
「明日はどうするんだ?」
颯介の声で我に返る。明日のことを颯介に伝えなければ。
「悪い。明日も抜ける」
「お前のことだからそうだと思ってた」
颯介の方を見るとすでにベッドに入ったようだ。
「ま、班行動って言っても実質関係ないもんな」
名目上は班行動するようにと言われているが定番のデートスポットだ。男女で回るカップルが大勢いるのは自然なことだろう。
「そうだな」
それから会話はなくなりいつの間にか意識は無くなっていた。
翌日。入園前の点呼のため俺たちは班ごとに整列させられていた。
藤本さんからメッセージが来て確認する。
内容は入ってからの集合場所の連絡だった。
時間になり生徒たちは一組から順番に入園していく。
そこまで待たされることなく俺は入園することができた。
集合場所は入園ゲートからそう遠くない場所で、俺が到着するとすでに一紗と藤本さんは待っていた。
「おはよう」
俺は二人に挨拶する。
「おはよう、立華君」
「おはよう」
二人も返してくれた。
「あとは佐々木さんだけだね」
藤本さんは言う。
「朱ちゃんは七組だから結構かかると思う」
一紗が呟く。それほど嫌がっているようには見えなくて俺は安心した。
「そういえばそうだったな」
数理科学コースの七組に所属する朱は見た目から想像もできないほど秀才なのだ。
「藤本さんは今日も抜けてよかったのか?」
「私が一緒にいたい相手は私が決めるの!」
人差し指を立てて藤本さんは声を大きくする。
「あの! 立華君も抜けてよかったの?」
一紗が小さな声で尋ねる。
「いや、俺はお呼びでないからいてもいなくても関係ないし」
「私、ずっと立華君は友達いる人だと思ってた……」
一紗は両手の人差し指を合わせてもじもじしている。
「え? なんで?」
「だって、いつもあのさわやかそうな人と一緒にいるでしょ?」
「颯介はオタク仲間ってだけだよ。それにクラスにはあいつぐらいしかまともに話せる相手がいな――」
「おはよー!」
声がした方向を向くと朱が手を振って走ってきていた。なんかテンション高くない?
「佐々木さん、おはよ」
「朱ちゃん」
一紗は小さく手を振り返す。
「待たせたわね! それじゃあ行くわよ!」
「なんかお前元気だな」
「何よ? 悪い?」
「佐々木さんはディ〇ニー大好きなんだね?」
「そそそそそんなこと無いわよ」
分かりやすう。別に隠すことでもないだろ。
「それじゃ、行こっか」
藤本さんが声をかけると、俺たち四人は出発した。
「じゃあ、まずはブラックサンダーマウンテンからだね。早めに乗っておこう」
人気のアトラクションは昼頃になると死ぬほど並ぶらしく開演直後なら急げばそれほど待たずに乗れるようだ。
藤本さんが提案すると、朱はなぜかおどおどしている。
「いきなり乗るの? まだちょっと早いんじゃないかしら……」
「早めに乗っとかないと混むよ?」
「いやあ、まずは写真とか……」
朱の声はどんどん小さくなる。
「あれぇ? 佐々木さん、もしかして怖いの?」
藤本さんの顔は一気に嗜虐的になる。朱の扱い慣れるの早すぎだろ。
「はあ? そんなわけないでしょ?!」
声が震えているのが丸わかりだ。
「お前あんだけ楽しそうにてたのに、絶叫系無理なのかよ!」
「うるさいわね!」
「あーあ。楽しみだったのに~」
藤本さんは朱のことをまだ煽るらしい。
「そんなに言うなら、乗ってあげるわよ!」
「じゃあ! 悲鳴を上げた方が負けだね?」
二人の口喧嘩はどんどんヒートアップしていき、二人でアトラクションの入口へと走って行ってしまった。
「あー、行っちゃった」
一紗はようやく口を開く。
「一紗は一緒に乗らなくてよかったのか?」
「うん。私も絶叫マシンそんなに得意じゃないから」
「そっか」
え? ちょっと待って。一紗と二人きり? これって俺がエスコートするべきなのか?
「どうしたの?」
一紗は上目遣いで聞いてくる。
「あ、いや……」
「とりあえず、出口で待ってようか」
一紗は呟くと歩き出す。
「昨日帰るとき、『俺も友達いない』って言ってたじゃん?」
「え? ああ、そんなこと言ったな」
俺が朱に対して言ったときに藤本さんにツッコまれたことだろう。
「それで、私も同じって思ったの」
一紗は俺がクラスでぼっち気味なのを知らなかったらしい。確かに俺から特にそんな話はしてなかったしな。
「俺は、一紗はすぐに友達出来ると思ってた」
きっかけさえあれば。そのために藤本さんをライブに連れて行ったし、俺もクラスの友人を作ろうと心を入れ替えた。それはまだ実行できていないけど。
「そんなことないよ」
「一紗は友達が欲しいと思うか?」
自分で言ううちに疑問に感じてしまった。『友達』とは何なのだろうか。
「立華君は?」
「俺は……欲しいと思ってる」
『友達』なる存在がいることに越したことは無い。一年の時や中学の時は話したりするくらいの仲の人間は少しはいたが、それを友達と呼べるかどうかは分からない。
「学校の人って誰でも自然に友達とかできるものだと思ってたけど、私はそうじゃなかった」
一紗は続ける。
「私には勝手に友達はできないって思いこんでた」
「うん」
俺は相槌を打ち一紗に続きを促す。
「でも、私にもできるなら欲しい……」
一紗は俺に対して一歩踏み出す。
「だから、私と友達になってください!」
俺に手を差し出した一紗はその周辺のお客さんの視線をかき集めてしまった。
「ちょ、ちょっと!」
はたから見れば愛の告白と思われてもおかしくない構図になっていて俺は一紗の顔を上げさせる。
俺もテンパり過ぎて慌ててしまった。
「分かった。分かったから!」
「ほんと?」
一紗が顔を上げると、先ほど感じた視線は半分くらい無くなっている。
「ああ、友達になるから」
俺の推しである一紗に『友達』になってくれと頼まれれたのなら断る理由がなかった。
「私と同じ人となら友達になれるかもって思って……」
この時感じた一紗と同じという感覚がイマイチ持てなかったのはどうでもよかった。
「じゃあ、これからはファン兼友達だな」
一紗は修学旅行でようやく笑顔を見せたのだった。
次回でひと段落しますが、まだ修学旅行編は少しだけ続きます。
今日書いた分(21話)が割と自分ではいい感じに書けたと思います。
今日も読んでくださりありがとうございました。
出来ればでいいので感想、評価、ブクマよろしくお願いします。




