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同じ ―修学旅行編―

 修学旅行の班決めでは藤本さんが誘ってくれた。

 特に拒否する理由がなかったので私はそれを受け入れた。

 一人余って無理やりどこかのグループに入れられるよりましだったから。

 

 藤本さんにだけは、一日目の午後はイベントがあって抜けることを伝えておいた。

 いきなりいなくなっても気持ち悪がられるだけだから。

 

 新幹線の中ではもしかしたら私は一度も口を開いてなかったかもしれない。

 特に話も振られなかったので私としてはそれでよかったのだけど。

 

 東京について昼食をとった後、朱ちゃんと合流してイベント会場へ向う。

 プロデューサーからは今回のイベントは修学旅行を優先していいからと言われていた。朱ちゃんもそれは同じだろう。

 

 朱ちゃんに関してはこっちの活動に本気ってわけではなくプライベートを大事にするタイプだと思っていた。一時間くらいなら浅草観光もできたはずだし。

 

 でも私と一緒に直接会場へ向かうみたい。

 

 センター投票のことを気にしているのだろうか。

 あるいは修学旅行を途中で抜けたい理由でもあるのだろうか。

 考えてもそのくらいしか思いつかなかった。

 

 ライブが終わってから聞いてみよう。

 

 私はFortune Routeとして活動するうちにメンバーについていろいろ最初の頃に比べて知ることができたと思っている。


 でも、まだ知らないことも全然あるのだとこの時の私は感じていた。

 

 スマホが鳴ったので確認すると、藤本さんからだった。


「私からみんなに言っておくから、大丈夫だよ」

 

 それを見て私は少し安心した。変な噂が流れるのも迷惑だったから。


 藤本さんはあの日握手会に来て以来、学校でも私にちょくちょく話しかけてくる。

 気を遣ってくれてるのかは分からないけど、誰にでも優しいタイプの人は少なからずいるのだ。


 かといって私がそれをありがたく思っているかどうかは別なのだけど。


「二人はもう着いてるみたいよ」


 朱音ちゃんがスマホを見ながら言う。


「そうなんだ。私たちも早く行かないとね」


 それから私たちは電車に乗って会場へ向かった。


 駅を降りて会場であるイオンモールに入る。


「どこにいけばいいのかしら?」


「ちょっと聞いてみるね」


 私たち二人とも控室の場所が分からなかったので、充葵ちゃんに電話することにした。

 しばらくすると出てくれた。


「あ、もしもし。充葵ちゃん? 控室の場所教えてほしくて」


「あれ? もう来たんですか? 少しくらい観光してこればよかったのに」


「凛ちゃん? 充葵ちゃんにかけたはずだったけど……」


 電話に出たのは凛ちゃんだった。


「充葵さんなら今トイレです」


「人の勝手に出るんだ……」


「私たちは一心同体なので問題ないです」


 凛ちゃんも知らない人からの電話は出ないだろう。


「あの、控室の場所教えてほしくて」


 凛ちゃんに控室の場所を聞いて電話を切った。


「どうしたの? なんか様子が変だったけど」


 朱ちゃんが怪訝な顔で尋ねる。


「充葵ちゃんにかけたのに凛ちゃんが出て……」


「で場所はわかったの?」


「うん」


 私たちは凛ちゃんから教えてもらった控室に無事たどり着くことができて二人と合流する。


 控室に入ると充葵ちゃんがきょとんとした表情で尋ねてきた。


「あれ? 二人とも早かったね」


 さっきも凛ちゃんにも同じことを言われた。


「ほかのグループも見たかったから」


 私はもっともらしい回答をして早くこの話題から逃げ出したかった。


「そうそう! わたしも!」


 朱ちゃんも私に乗っかるらしい。


「そういうことね」


 充葵ちゃんは納得してくれたようだ。

 それから私たちは少し早めに着替えた。


 嘘をつくわけにもいかないので、私と朱ちゃんはステージ横のテントに移動して、私たち以外のグループのパフォーマンスを見ていた。


「ねえ、一紗はなんで地下アイドルになったの?」


 視線はステージを向きながら朱ちゃんが呟く。


「私は子供のころからずっとアイドルに憧れてたから」


「そっか」


 朱ちゃんは変わらずステージを見ている。


「二人ともそろそろですよ~」


 テントに入ってきた凛ちゃんが駆け寄ってきて知らせてくれた。

 メイクと髪を整えるため私たちは控室に戻らなければならなかった。


 ライブは四曲ノンストップで少しきつい以外はいい意味でいつも通りだったと思う。

 アクシデントなく私たちは踊ることができた。


 ライブが終わって控室に戻る。


「二人はこれからホテルに向かうんだよね?」


 充葵ちゃんが尋ねる。


「そう、結構時間ギリギリらしいし」


 朱ちゃんが答える。


「じゃあ、一紗。外で待ってるから」


 制服に着替えた朱ちゃんは一足先に控室を出て行った。

 私もすぐに着替え終わって朱ちゃんに続く。


「わ、私ももう行くね」


「修学旅行、楽しんできてね!」


「お土産期待してます」


 自分で買えばいいじゃんというツッコミは心の中にしまっておいた。


 扉を開けると朱ちゃん以外に関係のない二人がいた。

 私は驚きと呆れでどうしていいか分からなくなった。


「なんであなたたちがここにいるのよ」


 自分で言うのもおかしいけど私は少し機嫌が悪くなったみたい。


「え? この子一紗の友達じゃないの?」


 朱ちゃんは困惑顔だ。


「知り合いだけど、別に友達じゃない」


 そのまんまの意味。知り合いだけど、友達じゃない。


「まあ、そう言わず。同じ班の仲じゃん!」


「私に何の用?」


 彼らは私とは違う。『当たり前』ができる人。


「いや、ライブ見に来ただけだけど」


「来なくていいって言ったじゃん」


 『当たり前』ができる人に構われるのはなんか、苦しい。


「俺が来たかったんだよ」


 私は唖然として声が出なかった。


「ちょ、ちょっと待って? 一紗はこいつのこと知ってんの?」


 私は朱ちゃんに聞かれて意識が戻ってくる。


「立華君のこと?」


「そう、こいつ」


「ファンの人」


 ただ学校で会ったことのあるファンの人ってだけ。


「うん。それは知ってるんだけど……」


「朱ちゃんも立華君のこと知ってるの?」


「まあまあ、早く出発しないと時間に間に合わないから!」


 藤本さんは私の断りなしに仕切ると、私の手を引っ張ってきた。


 いきなり来られるのも困るのだけど、それと同時に、来るなら自分から行くと伝えるものじゃないだろうかと単純な疑問も浮かんできた。


「なんで来ること黙ってたの?」


「んー? サプライズ?」


 首をかしげる彼女の顔を見たら、私は呆れてしまってなんかどうでもよくなってしまった。


「――も友達いないから抜けるのは楽勝だったわ」


 え? いまなんて。


「立華君、そうちゃん意外友達いないもんね」


 今度ははっきり聞こえた。どういうことだろう。


「うるせぇ!」


 立華君はほんとは私と同じ?


 だから抜けてこっちに来た?


 しかも「も」って。


 どういうこと? 朱ちゃんもってこと?


 いくつもの疑問符がほんの一瞬のうちに私の頭を埋め尽くす。


「私と同じ?」


最後の部分を表現したかっただけなのですが、一話分書きました。


読んでくださりありがとうございました。

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