オタクと乙女とアイドルと ―修学旅行編―
俺たち二人は海浜幕張駅を出て会場であるイオンモールの広場へ向かう。
会場に着くと観覧無料なことも影響してか、平日であるにも関わらず、すでに多くのオタク達の声が響いている。
俺たちもそれに加わろうと会場へ入るが前の方にはすでに埋っているので仕方なく後ろの方で観覧することになった。
「一紗ちゃん達って次?」
ステージでは六人組のグループが踊っていてFortune Routeはこのグループの次が出番だ。
「確かそのはず」
今歌っているグループは知らないグループだったので後方彼氏面を決め込んでおいた。
藤本さんはそれなりに手拍子とかぴょんぴょん跳ねたりしてた。
最後の曲も終わりそのグループはステージから去っていった。
しばらくしてFortune Routeの四人が袖から駆け込んでくる。
同時に聞きなれた曲のイントロが走り出す。
俺の体は曲に合わせて少しずつリズムを打つ。
周りに身を任せる。
周りに合わせて声を上げる。
俺はFortune Routeの楽曲ならすでにMIX、コールは完全にマスターしていた。
一紗が歌うパートでは声を張り上げた。
「かずさ! かずさ! お・れ・の・か・ず・さ!」
一心不乱に叫ぶ。
旅行先の影響なのかは分からないが一紗達のライブでは俺史上一番声が出ていたと思う。
そのあとに続く二曲目以降でも振りコピ、MIX、コールなど力の限り出し切った。
隣に藤本さんがいることなんて忘れて。
最後の曲が終わり観客の歓声が響く。
四曲をノンストップで歌い切った一紗達は肩で息をしている。
そのあとで彼女たちは自己紹介に移った。
「はい、根暗だけど頑張り屋さんのバカリーダー。柊一紗です!」
その宣言に対して俺は全力で叫んでいた。
「かずさあああ!!!」
朱の自己紹介へと移るタイミングで藤本さんは呟く。
「やっぱり立華君、すごい」
「オタクってこんなもんだって」
Fortune Routeの出番が終わり俺たちはステージに背を向ける
そのあとにもあと一組ステージが控えていたのだがFortune Route以外はあまり興味がなかった。
今日は特典会もない。
会場を出ようとすると、三十代ぐらいの男性に声をかけられた。
「君たち、柊ちゃんたちの友達?」
俺と藤本さんは顔を見合わせる。おそらく藤本さんの制服が一紗たちの制服と同じだからだろうか。
「はい、そうです」
友達かどうかはまだ定かではないがとりあえず頷いておいた。
「ああ、やっぱり。迎えに来てくれたんだね」
「は?」
「今修学旅行中でしょ? この後ホテル帰るって言ってたからさ」
「そうです。そうです。一紗ちゃんたちを迎えに来ました!」
思考が止まっている俺とは対照的に藤本さんは答える。
「あー、じゃあちょっとついてきて」
話を聞くとこの男性はFortune Routeのプロデューサーだという。
一紗と朱以外の二人は今日新幹線で大阪へと帰る予定で、その新幹線の時間がもう迫っているらしく、ホテルまで一紗と朱を送ることができないらしい。
俺たちは関係者しか入れない控室のような場所まで連れてこられた。
「ここが彼女たちの控室だから、しばらくしたら出てくると思うよ」
そう言うとプロデューサーはどこかへ行ってしまった。
「とりあえず待つか」
「そうだね」
俺たちはちらちらと時間を確認しながらしばらく控室の前でじっと待っていた。
十五分ぐらい経つと控室の扉が開いた。
「よっ」
出てきたのは朱だった。
「よっ、じゃないわよ! なんでアンタがここにいるのよ!」
「なりゆきで……」
正直俺もわからん。
「意味わかんない。しかも女連れてるし」
「言い方、言い方」
俺が咎めようとすると、藤本さんはそれを宥める。
「私、一紗ちゃんと同じクラスの藤本綾乃です」
それを聞いた朱はようやく納得いったようだ。
「そういうことね。一紗の友達……」
するとまた扉が開く。
「なんであなたたちがここにいるのよ」
一紗は目を丸くして問う。
「え? この子一紗の友達じゃないの?」
「知り合いだけど、別に友達じゃない」
「まあ、そう言わず。同じ班の仲じゃん!」
藤本さんはあれから一紗と距離を詰めようとしてくれているらしい。
「私に何の用?」
「いや、ライブ見に来ただけだけど」
俺は本心を伝える。
「来なくていいって言ったじゃん」
「俺が来たかったんだよ」
そこで朱が入ってくる。
「ちょ、ちょっと待って? 一紗はこいつのこと知ってんの?」
「立華君のこと?」
「そう、こいつ」
指をさすな、指を。
「ファンの人」
「うん。それは知ってるんだけど……」
ファンの人かぁ。すごく寂しく感じる一言だった。
朱は何やら困惑しているよう。俺もよく分からない。
「朱ちゃんも立華君のこと知ってるの?」
一紗も朱と同じことを言っている。
「まあまあ、早く出発しないと時間に間に合わないから!」
藤本さんによって場はまとめられ、俺たち四人は歩き出す。
建物を出て駅へ向かう。
藤本さんが一紗をひっぱるせいか自然と前列に一紗と藤本さん、後列に俺と朱という並びになった。
「詳しく説明しなさいよ」
朱は俺の一紗との私的な関係のことを聞いているんだろう。
「学校でたまたま会って、知り合いっていうか……」
言っているうちに俺と一紗がどういう関係なのか言葉にするには難しく感じた。
「ふーん……」
朱は納得しているのか納得していないのか曖昧な返事をする。
「ま、俺も友達いないから抜けるのは楽勝だったわ」
気まずい雰囲気になりそうだったので自虐ネタを入れてみる。
「立華君、そうちゃん意外友達いないもんね」
俺は朱に話したつもりだったのだが、前の藤本さんにも聞こえていたようで振り向かれる。
「うるせぇ!」
一紗が何か言ったような気がしたが振り向かない。
駅について改札を通った。
ちょうど電車が到着し、俺たち四人は乗り込む。
時間的にギリギリ帰宅ラッシュのピークはずれていたようで人は多いものの押しつぶされるレベルではなかった。
「そうだ! 明日のディ〇ニーランド、私たち四人で回らない?」
「「「は?」」」
藤本さんが唐突に提案してきた。
しかし、よくよく考えると推しのアイドルと一緒にディ〇ニーなんて機会もうこの先絶対にないだろう。クラスの友達を作るという俺の目標もあったのだが、特に急ぐ理由もない。
「俺は別にいいけど」
「アタシは別にいいわよ」
「朱ちゃんが言うなら別にいいけど」
三人はあっさりとその提案を受け入れるのだった。
今まで投稿したものの中に、朱のところが朱音となっているところがあったので修正しました。
朱音と打ってから一文字消すという入力の仕方をしているので今後も多発する可能性があります(笑)。
今日も読んでくださりありがとうございました。
よかったらでいいのでブクマ、評価、感想などくれると嬉しいです。




