優先度 ―修学旅行編―
颯介は波多野さんともう二人、井口さんと三浦さんとグループになることを快諾した。
翌日、波多野さんは五人の名前を書いた名簿を提出し、俺たち五人は晴れて修学旅行で行動を共にする班となったのだ。二人は話したことすらないけど。
それから一週間は得に面白い事件やFortune Routeのライブもなく修学旅行当日となった。
とりあえず俺の目標としては女子三人と普通に話せる友達くらいの仲になることだ。
渡りに船的な考え方をすれば波多野さんに颯介以外三人のトークルームに入れさせられたことはよかったと思うことにする。
しかし今日はFortune Routeのイベントがあるため行動は一緒にできない。俺の意思でイベントに行くのだが、のっけから踏んだり蹴ったりだ。
修学旅行一日目は新幹線で東京駅に着いた後、各自昼食をとりそのあとは自由時間である。十八時半に宿泊するホテルに帰ってこられればどこに行ってもいいそうだ。
しかし、自由時間とは名ばかりでほとんどの生徒は昼食後、浅草を観光するのだという。クラスの集合写真とか撮ったりするらしい。
浅草の後はスカイツリーへ向かう者がいたり、明日、夢の国が予定されているのに花やしきへ向かう者だとか色々分かれるようだ。
新幹線内で女子三人が話してるところを聞いた。
女子の会話を聞いていると藤本さんからラインが来た。
「今日の幕張のイベントって、行くよね?」
「行くけど?」
「そうちゃんも来る?」
一応一緒に行くことになっているのでその通り伝える。
「来るよ」
「私も行くから」
藤本さんはてっきり修学旅行の方を優先すると思っていた。
「いいのか? 友達とか」
「うん、問題ない!」
「じゃあ、また後で連絡する」
この後はタイミングを見計らって浅草を出発しないとFortune Routeの出番に間に合わないな。
颯介に藤本さんも一緒に来ると伝えようとするも絶賛波多野さんのアタックタイムだ。
「ねぇ、浅草の後はどこがいいかな? スカイツリーはどう?」
距離近いなお前ら。
颯介は俺と一緒にイベントに行く予定だったためかおろおろしている。
仕方ない。新幹線を降りた後で相談しよう。
藤本さんとのトークルームから戻ると、例の女子三人プラス俺というトークルームに通知が来ていた。
「浅草で寅丸君と美桜を二人にします!」
ああ。マジでめんどくさいことになっている。俺としてはどちらにせよイベントには行くつもりだが、颯介はどうするつもりか。
それを聞こうにも颯介は波多野さんに守られていて颯介と言葉を交わすことは出来なさそうだ。
そうこうしているうちに、俺たちの乗っている新幹線は東京駅に到着した。
「ちょっと、俺トイレ」
颯介と話をしたかったので俺も機転を利かせる。
「じゃあ、俺も」
ようやく二人で話せる状況ができた。
「すまん、俺イベント行けねえわ」
「ああ、あの感じだとな……」
「タツは行くだろ?」
「ああ」
俺はお呼ばれでないのでぜんぜん途中抜け余裕なのだ。
「じゃあ、俺からうまく言っておくから」
その言葉に甘えそうになったが、やめた。
「いいよ、自分で言うから」
そのあと俺たちは女子三人と合流し昼食をとった後、浅草へと向かった。
浅草では、雷門前で写真を撮ったり中の商店街で食べ歩きをしたり、本堂でおみくじを引いたりと、まあ普通に順当に観光した。
今は颯介と波多野さんが二人で歩いている数メートル後ろに井口さん三浦さん、その後ろに俺という構図になっている。
そろそろ浅草を出ないと幕張でのイベントに間に合わない。
「あの」
二人は振り向いてくれた。
「俺、ちょっとこっちの友達に用があるからいったん抜けていい?」
「「いいよ!」」
なんか見事にハモってたのがムカつくがすんなりいった。
班を抜け単独行動に移る。一人になった俺は身軽なのだ。
駅へ向かいながらスマホで浅草駅から海浜幕張駅までの路線を調べる。
イベントは最初から見られないがFortune Routeの出番には間に合いそうだ。
路線アプリを閉じてラインを開く。
藤本さんに駅で合流しようというメッセージを送ると、すでに駅で待機中とのこと。
十分ほどで浅草駅に着き、藤本さんの姿を見つけるのは容易かった。
「ごめん、遅れた」
俺は女子に待たせてしまったという申し訳なさから謝る。
「そうちゃんは?」
藤本さんは不思議そうな顔をする。
颯介が来れないことを伝えるのをすっかり忘れていた。
「えーっと、颯介は……」
「そっか」
まだ何も言ってないのに納得された。
「私と一緒だ」
「え、なにが?」
「早く行かないと間に合わないよ」
藤本さんはそう言うと改札に入っていった。
俺もそれを追いかける。
浅草駅から海浜幕張駅へは、東京メトロで渋谷行の電車に乗り込み上野を経由して日比谷線に乗り換え、八丁堀からはJR線だ。
電車に乗り込み、話す話題を考える。藤本さんとはまだ特別仲がいいわけではないのだ。
座席はすべて埋まっていたので二人して吊革に手をかける。
すぐに上野に着き俺たちは日比谷線に乗り換える。
「ふじ……綾乃ちゃんは一紗と同じ班だよね?」
「うん、そうだよ」
「どんな感じ?」
「お昼の後すぐに抜けて行っちゃったよ」
「そうか……」
しばらく無言の時間が続く。会話を広げることができない。
沈黙を破ったのは藤本さんだった。
「立華君はどこまでも一紗ちゃんを追いかけるね」
「え?」
「そこまでできるのすごいと思う」
何の話かよく分からない。
「ごめん、何の話?」
「私がヘタレって話」
「なんでふじ、綾乃ちゃんがヘタレなの?」
彼女の会話についていけない。
「そこまで言い間違えるなら、名前で呼ばなくていいよ」
藤本さんは微苦笑を浮かべる。
しかしそのあと表情を変えた。
「誰にも言わない?」
俺に話す相手などいないのだ。
「ああ」
「ほんと?」
「言わないから」
そんな言われ方をすると気になってしまうのが人間の性だろう。
「私、そうちゃんのこと好きなの」
「あー知ってる」
なんだそんなことか。そんな恥ずかしそうにするな。
「え?! なんで? 誰にも言ってないのに」
「いや、見てたら分かるし」
「そんなに、分かるの?」
「いや、颯介と話してるときの藤本さん、女の顔だよ」
なんかそんな顔されるとイジりたくなっちゃうよ。
「もう、行くよ!?」
藤本さんは八丁堀に停車した電車を急いで降りる。
俺も電車を降りて追いかける。
生れてこの方、色恋沙汰など経験したことは無いがやはり人のそういう話を知ってしまうと気になるのはおかしいことじゃないですよね?
俺たちは京葉線へと乗り換えた。
電車に乗り込むと、東京メトロに比べると空いていて座席に座ることができた。
「颯介に告白するのか?」
「できないの」
「は? なんで」
単純に疑問に思った。
「中学の時そうちゃんに告白されて、それ断ったから」
「理由は聞かない方がいいか?」
「私が友達のほう優先しちゃったから」
藤本さん側からその理由を教えてくれた。
「なるほどな」
リア充ならではの理由だな。贅沢なこった。
「だから、一紗ちゃんに一途な立華君はすごいなって」
「いや、俺のはそんなんじゃないって」
恋愛的な好きとオタクの推しじゃあ話が変わってくる。
「そうじゃなくてもすごいと思う」
「推しを追っかけるのは普通だろ」
「私はそうちゃんを追っかけられなかった」
藤本さんは少しだけ俯く。
「なのに、さっき浅草でそうちゃんがいなくてガッカリした」
「それは悪うございました!」
俺は冗談ぽく言って空気が悪い方へ行くのを阻止した。
「うそうそ。ライブは楽しみだし」
藤本さんは顔を上げてくれた。
「本当かよ」
二人して笑う。暗い話にならなくて安心した。
「じゃあ、今日はとことんライブ楽しもうぜ」
「うん!」
この時の俺は藤本さんの恋についてそこまで深く考えていなかったのだ。
今後のシナリオについて少し悩んでいたのですが、一応ロジックは通ったものが思いついたので
それを書いていきたいと思います。
読んでくださりありがとうございました。
余力があればでいいので、評価、ブクマ、感想など頂ければやる気が出ます。




