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自分次第

 MCを挟んでの四曲目はこれまでの三曲と比べて少しテンポの遅いミディアムの曲だった。


「いま、一紗と朱ぶつかったよね?」


 俺は藤本さんに聞いてみた。颯介はバカ騒ぎしていて話にならなそうだったのだ。


「え? そうだった?」


 俺の気のせいだったのかもしれない。


「ごめん、何でもない」


 楽しんでいるところを遮ってしまって少し申し訳なかった。

 俺の目的は今日一緒に来てもらっている藤本さんと一紗が仲良くなるということだ。ここまで来れば俺にできることは無いのだ。藤本さんの腕にかかっているといっても過言ではない。

 藤本さんの顔を見てそう思った。


 そのあとは問題なくFortune Routeのパフォーマンスを堪能した。

 

 相変わらず一紗は魅力的だった。踊る姿と歌声とかわいらしい顔その全てが一紗の天性の宝のように思えたのである。

 ポニーテールの一紗は初めて見た。ステージでは低めに結んだりみつあみにすることはあっても軽くアレンジを加えるだけの印象だった。

 しかし高い位置でくくった今日の髪型はどこか、彼女の強さを感じた。

 

 回転するたびに揺れる彼女のポニーテールには目を奪われ、揺れるスカートには意識を奪われた。

 

 アンコールまで終わると何やら客席側が少しざわついている。


「なんかあるの?」


 正気を取り戻した颯介に尋ねる。


「今日、中間発表だろ? センターの」


 てっきり忘れていた。毎回CDは一枚だけにとどめていたため、新曲のセンター投票のことが頭から消えていたのだ。


「そっかぁ」


 センター投票のことをすっかり忘れていたとはいえ、パフォーマンスを見る限りおそらく四人の順位が変わることは無いだろうと思った。


 スタッフから中間結果が書かれているであろう紙を渡された一紗が発表する。

 人数も多くないので一位から順に発表していく一紗。


「一位は……私です!」


 少し溜めた割に客席の反応は「まあ順当だな」という感じだ。


 しかし一紗が次の名前を読み上げた瞬間、客席はさっきの二倍くらいざわついたのだった。


「二位は……充葵ちゃん」


 颯介が俺の方を向く。


「ずっと朱ちゃんが二位ポジションだったよなー?」


「そうだな」


 俺はアイドルオタクになってからまだ日が浅いためあまり理解していなかったのだが颯介曰く、四、五人のグループだと人気順はほとんど変動しないそうだ。


「順位変わんないと思ってたわ~」


 順位が変わらないならセンター投票の意味ないじゃんと思ったが、グッズを売るという観点からすれば効率がいいらしい。


「三位は……朱ちゃん」


 呼ばれた朱は何も言わない。


 俺は中間順位だから一時的に三位になることくらいあり得るんじゃないかと思った。


「四位は凛ちゃんでした!」


「いや、もっと溜めてくださいよ~」


 最後に呼ばれた凛の一言をきっかけに観客の雰囲気が一気に緩む。


「ど~せ万年四位ですよー」


 客席からは「そんなことないよおおお」だとか「りんちゃああああああん」だとかの叫び声が飛び交っている。


 そんな中一紗が口を開く。


「充葵ちゃん二位だったね!」


「いや~。まだ中間発表だから。ね、朱?」


 話を振られた朱は反応が少し遅れているようだった。


「ん? そうだね。こっから巻き返すわよ!」


 朱の声にはほんのちょっとだけいつもの圧力がないような気がした。

 ひと段落着いた後、四人は恒例の特典会のアナウンスし、ステージから掃けていった。


 その後CDを買い、俺たち三人は集まった。


「順番どうする?」


 颯介に言われて、三人とも一紗の列に並ぶのは確定しているのだが俺たち三人の順番を決めていなかったことに気づく。


「颯介、綾乃ちゃん、俺にしよう」


 藤本さんはライブ参加はするが握手会は初めてということだったので颯介の後にすることにした。俺が最後なのは何となくだ。


「分かった~」


 と藤本さんはつぶやく。


「じゃあ、列並ぶか~」


 呼びかけた颯介が先頭を切る。


 一紗の列は相変わらず一番長かったがしばらく待つと俺たちの番がやってくる。


 颯介の順番になる直前に、一紗にそれとなく俺と藤本さんのことを伝えてほしいと頼んでおいた。

 颯介と藤本さんの番はほかの列と大差なく普通に握手会が行われていたというのが見ていての感想だった。


そして俺の番が来る。ズボンで拭いた手を一紗に差し出す。


「どうだった?」


 今度は俺から質問する。


「ファンが増えたのはうれしいけど、もう余計なことはしないで」


 帰ってきたのはそんな言葉だったのだ。

 怒っているような口調と呆れているような口調が混ざっていた。


「俺以外にもファン出来ただろ?」


 あの日言ったことを一紗に証明して見せる。


「ファンができたからって学校で仲良くなれるわけじゃないじゃん……」


 またあの諦めたような目で話す。俺は彼女の表情の中でこの表情だけは好きになれないのだ。


「それは……一紗次第なんじゃない?」


 俺は彼女の目を見て言った。同時に彼女の手も握りしめる。

 一紗は俺の言葉に対して「え?」というような顔になったが、もう時間である。


「はい。終了です」


 スタッフの声が俺たちを引きはがす。


 列を抜けた後に強烈に自分を責める自分の声が聞こえた。


「特大ブーメランじゃね」


 俺もクラスの友達は颯介だけだし、その原因は俺にあるのだ。

 俺側からクラスメイトに話しかけない限り友達もクソもできないのだ。


 颯介がいなければ今頃俺は…… 

 考えかけたが、やめた。


 しばらく歩くと先に終わった二人が待っていた。

 颯介に声をかけられる。


「お前の作戦はうまくいったか?」


 うまくいったかどうかは分からない。今後、一紗と藤本さんの関係がどうなるかは彼女たちにしか分からない。

 少なくとも俺も颯介以外にクラスメイトの友達を作って、それを一紗に見せつける必要があることだけは理解していた。


「まだわからん」


 素直にそう答える。


「立華君の作戦って、私と一紗ちゃんが仲良くなればよかったんだよね?」


 藤本さんは確認する。


「そうだけど」


「なら、これからだね」


 俺は藤本さんに視線をやって問う。


「一回話したくらいで仲良くなれる人なんていないよ」


 藤本さんはさっきより真剣な表情だ。

 最初から分かっていた。そんなことは当たり前なのだ。握手会で一回話したくらいで仲良くなれていたら、今頃俺と一紗はラブラブだ。


「そうだな」


 俺は落ち着いた口調で答える。すると颯介が口を開く。


「綾乃的にはどうなの?」


 颯介が聞きたいのは藤本さんが一紗に対してどういう印象を抱いたかだろう。


「え? そりゃもっと仲良くなりたいけど」


 俺はそれを聞いて安心した。藤本さん側がそう思ってくれているだけ違うだろう。

しかし、最後の「けど」が妙に耳に引っかかったのだった。


昨日のアクセス数が一昨日の倍以上でした。驚きました。またブクマしてくれた方も3人ほど増えました。投稿時間を少し変えてみたのが功を奏したのかもしれません。

読んでくださってありがとうございます。


次は一紗視点です。


よろしければ評価、ブクマお願いします。

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