三人と私
一紗視点です。
昨日は充葵ちゃんと凛ちゃんに遊びに誘われたのだけど予定があると言って断った。
私はいつものダンスレッスン用の練習着に着替えて近くの公園に向かった。
ダンスの自主練習をするため。
ゴールデンウィーク二日目の今日はレッスンが無いため、いつもプロデューサーが予約する練習スタジオを使えないから。
Fortune Routeは客観的に見ても歌は結構うまい部類に入ると思う。デビュー当時から私と朱ちゃんのハモりを特徴にして今までやってきた。
だけど、四人ともダンス経験が全く無いせいか、なんというかこうバラバラ。
振り付けはみんなしっかり覚えてるのだけれど、グループとしてまとまりがない。
公園について、あまり人がいないエリアを探す。
問題点はしっかり分かってるのに今日一人で練習するのももどかしい。ほんとは四人そろって練習するのが一番なのだ。
朱ちゃんが練習をたまにサボってるのも私的には結構ムカつく。
だけど、あまり強く言えない。
朱ちゃん無くしてFortune Routeは成り立たないから。
充葵ちゃんと凛ちゃんは練習は欠かさず来てるから休日に遊ぼうが何しようが文句は言わない。
けど、なんかもっと本気になってくれてもいいかなって時々思う。
私はバッグからドリンクとタオルをだして準備した。
あと、MCも私は苦手。リーダーなのに口下手だから、いつも充葵ちゃん頼り。帰ってから少しだけ練習しよう。
とりあえず明日のライブでやる曲を順番に踊ってみよう。
私はワイヤレスイヤホンをつけてスマホで曲を流す。
前までは、スタジオ以外で自主練するときはスマホから直接流して踊っていたけど、このワイヤレスイヤホンを買ってからはあまり恥ずかしい思いをせずに済んでる。
曲が自分以外に聞かれずに済むということもだけど、それ以上に外の音が聞こえなくなって自分の世界に入り込めるのだ。
最初は集中しているつもりだった。
日陰といえども、二曲目を踊り終わったくらいからじりじり汗をかいてきた。
屋内でやる時に比べてばてるスピードが異常にはやい。五月に入ってから急激に気温が上がったのだ。昼下がりのこの時間帯は最も暑い。もう少し夕方に来るべきだった。
明日のライブは三曲終わるまではノンストップだ。
今日は本番と同じタイムスケジュールで動くことに決めている。
三曲目が終わってペットボトルに口を付けた。ついでに汗もぬぐう。
すでにへとへとだ。
最近のライブハウスでは空調がしっかりしているのでこんなことにはならない。
だけど私は、ライブ本番の曲順と休憩のタイミングを忠実に守った。MCのタイミングでだけ給水する。
明日の定期公演ではアンコール合わせて十曲のセットリストを組んである。
私たちの曲はロック調の曲やラウド調の曲がほとんどで、すべての曲に振り付けがある。
バラードみたいなローテンポの曲は一切ないからライブ中はずっと踊り続けることになるのだ。
踊っている最中にふと立華君の言葉が頭をよぎった。
私にとっての『当たり前』はライブに集中すること。今までストイックになることでみんなにとっての『当たり前』を自分の中から排除してきた。
今までもこれからもそうするつもり。
私は炎天下といって差し支えない環境で十曲踊りきった。ペットボトルの残りを一気に飲み干す。
夏に向けてスタミナをつけていく必要があるなと思った。
Fortune Routeも地下アイドルの小規模なフェスくらいには呼んでもらえるくらいには成長している。野外ステージもあるかもしれない。
曲を止めてイヤホンを外した。
練習中はスマホの通知を切ってるから気づかなかったけど、四人のグループラインで充葵ちゃんからラインが来ていた。
内容は明日のMCで話すトークテーマはどうするかといったことだった。
すぐにでもシャワーを浴びに帰りたかったのだが、ベンチに腰を掛ける。
特に何か面白い話題もないので今の気持ちを率直に提案することにした。
「最近暑い話」
しばらくして既読がつく。
「旅行の話は?」
充葵ちゃんが投稿してくる。この間、修学旅行の話題が出たからだろう。しばらくして既読がつく。
「一紗さんのおっぱいが最近大きくなった話」
私は思わず自分の胸元を見てしまった。確かに最近ブラのサイズを一つ上げたのだ。凛ちゃんはいつもこういうことを言うんだ……
「ぜったいダメ!!」
指が勝手に動いてた。
「一紗さん、隠せないですよ」
「よしそれでいきましょう」
朱ちゃんが同意してくる。
「お、いいねそれ」
充葵ちゃんも乗っかってしまった。もうこうなると多数決で決まっちゃう。せめてもの抵抗をする。
「凛ちゃんの背が伸びた話は?」
「それも加えましょう」
私の提案は凛ちゃんに採用されるのだけど、私の話は棄却されなかった。
「いや、ぜんぜん伸びてないよw」
と充葵ちゃん。
「充葵さん。うるさいです」
「wwww」
「www」
充葵ちゃんと朱ちゃんがそれぞれ投稿する。私もスマホ片手にくすっと笑ってしまった。
「そうね、まったく伸びてない」
と朱ちゃん。
「朱さんは最近太りましたね」
凛ちゃんが対抗する。
「はぁ?! アタシがそんなヘマするはずないでしょ!」
ブチ切れる朱ちゃん。
「いつもライブ後にお菓子食べてるもんね」
思ったことを言ってみる。
「確かに!」
同意する充葵ちゃん。
「ちょっとアンタたちだまりなさい」
朱ちゃんは怒ると怖い。
「www」
「wwww」
二人はあんまり怖がってないみたい。
「そういう充葵は」
言いかけて朱ちゃんはそのあとの投稿がない。
「何にもないわね……」
と朱ちゃん。
「ずるいですよ。充葵さん!」
凛ちゃんがツッコむ。
「ええ~、私何もしてないのに~」
と充葵ちゃん。続けて投稿する。
「とりあえず、一紗が巨乳な話と凛の身長が伸びてない話とデブ朱の話でいくね」
「もはや話変わってるじゃん!」
「〇ス」
「デブじゃないわよ!!!」
私たちはいっせいに異議を唱えるのだった。
スマホをバッグにしまい、ベンチを立った。陽も徐々に落ちてきている。汗が冷えて風邪をひいてしまったら元も子もない。すぐに帰ろう。
やっぱり、メンバーと話してるとたのしい。
このままFortune Routeの活動をずっと続けていきたいと純粋に思った。
同時に私の夢もみんなに理解していてほしいと思った。
そのためにもちゃんと話すべきなのかもしれない。
私はさっき外したばかりのイヤホンをもう一度付け直し、私たち四人の曲をもう一度かけなおした。
毎日投稿というのはかなり厳く感じてきました。
やはり時間的制約があります。
できる限り頑張るつもりですが。
次も一紗視点です。
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