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そら  作者: alex
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5:真衣の記憶

亜衣は研究所最上階の所長室にいた。

大きな窓を背に大きな机と上等な革張りの椅子。

椅子に座っているのは所長ではなく、薄くなった白髪に眼鏡をかけ杖をついた老人だった。その老人こそ、プランツコーポレーション会長であり真衣と亜衣の祖父である、笹木恵造だ。

座ったまま杖の先を俯いている亜衣へ向けた。


「お前は何をしていたのだ!!」


亜衣は身体をビクッと硬直させた。


「莫大な金を投資してお前を造ったのは真衣をこんな目に遭わせたくなかったからだ。真衣を守れないお前に、存在価値は無い。」


恵造は怒りでわなわなと身体を震わせ、亜衣は恐怖で小刻みに震えた。


「も、申訳ございません。」

「お前の代わりは幾つでも造れるが、真衣がお前の”廃棄“を許さないから、何の能力も無いお前が今まで生きてこられた。だが、今後今回のように真衣を守れなかったら真衣には悪いが、お前を廃棄するからな。」


恵造は俯く亜衣を孫ではなく、物であるように、失敗作を見る目で睨んだ。

くるりと踵を返すと窓の外を睨む。


「もう、顔も見たくないわ!下がれっ。」


亜衣はビクリと身体を震わせ、震える声で搾り出した。


「・・・はい。失礼致しました・・・。」




同じ頃、真衣は医務室のベッドの上で目を覚ましていた。

白い天井を眺めながら思い出していた。

11年前の恐怖と出逢いを…


-11年前-

白衣を着た男が幼い女の子を連れて歩いている。


「真衣、お父さんはこれから”ガイア”とお話をするんだ。」


女の子は顔を見上げた。


「がいあ、ってなぁに?おとうさまのおともだち?」


白衣の男は微笑んで女の子を抱き上げた。


「やさしいよ”ガイア”は。真衣もいつか逢えるよ。父さんが帰ってくるまで真衣は、あの子と一緒にいなさい。」


白衣の男は数メートル離れたところにいる女の子を指差した。


「亜衣。こっちへ着なさい。」


たたた。と駆けてきた女の子は、白衣の男が抱きかかえている女の子に瓜二つだった。


「おろして。おとうさま。」


女の子は飛び降りるように抱きかかえる腕から離れ、自分と同じ顔の女の子をまじまじと見つめた。


「まいとおんなじ、おかお。わたし、まい。あなただぁれ?」

「あたち、あいっていうの。」


無邪気な子供たちは同じ顔の相手に不信感をいだくこと無くキャッキャとはしゃいでいた。


「さぁ。父さんはもう行くよ。亜衣、ちょっと来なさい。」


亜衣は白衣の男に駆け寄った。


「よく聞きなさい。亜衣、お前は何があっても真衣を守るんだ。亜衣が怪我をしても、真衣に怪我をさせちゃいけないんだ。解るね?」


白衣の男は亜衣の肩をギュッと掴み、亜衣は何も言わず、こくりと頷いた。


「でも、それは周りの大人が勝手に決めた事なんだ。亜衣は真衣のお姉さんなんだ。何があっても二人は姉妹なんだよ。もし誰かに酷い事を言われたら父さんに言いなさい。何とかするから。いいね?」

「あい。」


そう言ってこくりと頷いた。

白衣の男はそのまま真衣の方を見て、


「真衣。行ってくるね。」


そう言って白衣の男は真衣と亜衣を研究室に残して、実験室に入った。

研究室の中央には大きな穴が開いている。

その穴を大きな機械が掘り進んでいた。

研究室に残された二人は椅子に座って話を始めた。


「あいちゃんは、どうして まいと おなじ おかおなの?どこから きたの?」

「んー。わかんない…。あいは、ここで うまれたんだって。」

「ふぅん。あいちゃんの おかあさまは ここにいるの?」

「おかぁさま ってなぁに?」


きょとんとした顔で亜衣は真衣に聞いた。


「おかぁさまは、おかぁさまだよ。まいの おかぁさまは ずっとまえに とおくにいっちゃったんだっ

て。」

「とおくって どこ?」

「わかんない。」


二人が首を傾げていると、後ろからお菓子の山が出てきた。


「わわわ。おかしだー」


お菓子の山の後ろから白衣を着た女がヒョイっと顔を出した。


「何のお話をしてるのかなぁ?」


真衣と亜衣はキャッキャを笑って、


「あいちゃんが、まいと おんなじ おかおなのは どうしてっておはなしだよー。」


白衣の女は少し考えた後、子供たちと同じ目線までしゃがんだ。


「亜衣が真衣ちゃんと同じお顔なのは、亜衣が真衣ちゃんで出来ているからよ。」

「?」

「?」


二人は同時に首を傾げた。


「ちょっと難しいかな?笹木所長は真衣ちゃんが大切だから、亜衣をココで造ったのよ。」

「あいちゃんって つくれるの?」

「?」


真衣は興味津々だが、亜衣はさらに首をかしげた。


「亜衣は真衣ちゃんの髪の毛から造ったのよ。クローンって言うの。」

「くろぉん?」

「そう。あそこに試験管があるでしょ。あそこで造ったの。」

「ふぅん。」


真衣はとりあえず、解ったフリをした。


「あの、まいちゃんの… おかぁさまは どこにいるの?」


白衣の女は不自然な笑顔になり、亜衣の手を強く握った。


「いっ…」

「亜衣には関係の無いことでしょう?真衣ちゃんにはお父様がいつか教えてくれるわ。真衣ちゃん、お菓子食べていいのよ。」


白衣の女は言って実験室へ入っていった。

研究室から実験室の光景を真衣と亜衣は見ていた。

中の音は防音壁のせいで聞こえない。

白衣の女と真衣の父親が言い争いをしているようだ。


「おとうさま、けんかしてるのかなぁ」


白衣の女は研究室をチラっと見て、ポケットから拳銃を出した。


「あ、てっぽうだ。」


真衣の父親は後ずさりし、研究室が見える窓へ近づいた。

何かを叫んでいるが、聞こえない。必死の形相で何かを訴えている。

その後ろでは白衣の女が銃口を真衣の父親へ向けていた。



…そこから先の記憶が真衣には無かった。


「またなの?また、誰かがいなくなっちゃうの?」


続きます。

次回もお付き合い下さい。

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