3:運命の歯車
巨大な歯車が回転している。
歯車が動かしているのは更に巨大なドリル。
地中を、地層を深く深く掘り進んでいる。
そのはるか上層、眼下に鉄骨の骨組みに囲まれた巨大ドリルを臨む部屋に、彼女はいた。
プランツコーポレーション研究所最下層の重役専用応接室。
特殊ガラスの大きな窓と応接用のテーブルと椅子だけの簡素だが高級感漂う部屋だ。
彼女は少女と言う単語が似合わない位大人びているが、顔にはまだ幼さが残っている。
腕組をした彼女は、爪を噛みながら眼下の巨大ドリルを睨んでいる。その眼差しは氷のように冷たく、憎しみで満ち溢れていた。
「真衣、運命の歯車って知ってる?誰もが規則正しく回る歯車の様に人生が進むの。皆の運命の歯車は、あの機械の歯車と同じで順調に回ってるけど…私の運命の歯車は錆び付いているみたい。だって何もかも思い通りにならないもの…」
「……亜衣。」
彼女は振り返った。
「気にしないで、真衣。母様がいなくなったのは、あなたの責任ではないわ。」
どこか悲しい笑顔だった。
ガチャリ。
観音開きの扉が急に開いた。
そこには細身でイケメンだが、何所か頼り無い青年が取り巻きを連れて立っている。
「あぁ。真衣。こんな所にいたのか!探したんだぞ。」
青年は部屋の中へ入り、亜衣の手を取った。
亜衣はあからさまに嫌そうな顔をして、手を振り払った。
「私に触らないで頂けませんこと?西條様。」
西條と呼ばれた青年は苦笑いをし、亜衣の肩に手を置いて言った。
「何を言っているんだ、真衣。僕たちは婚約者じゃないか。笹木家と西條家が一緒になれば怖いものなんて無いんだ。さぁ、お爺様がお呼びなんだ。」
「……馴れ馴れしいですわよっ!!」
西條の背後から声がした。
驚いた西條は振り返ったが、フン。と鼻で笑った。
「フっ。誰かと思えば、亜衣さんじゃないか。これは僕ら婚約者同士の問題なんだ。あなたの様な出来損ないには関係のない事ですよ。僕は真衣と結婚できればそれで良いんだから…」
パシンッ。
乾いた音がした。
そこにいた誰もが一瞬何が起こったのか理解できなかった。
肩に置かれた西條のてを振り払って、亜衣は西條の頬を叩いたのだ。
「亜衣をバカにしないでっ!」
「真衣をバカにしないでっ!」
二人同時に叫んでいた。
「私と真衣を区別できないなんて、とんだ婚約者ですこと」
亜衣は腕組をし、見下すように喋った。
「な、何をなさるのですかっ」
取り巻き達が西條を心配そうに囲む。
「私は笹木亜衣。あちらにいるのが真衣ですわ。」
亜衣は皮肉たっぷりの微笑を浮かべて真衣を見る。
「私は笹木真衣ですわ。そちらにいるのは亜衣でしてよ。」
真衣は冷めた笑顔で西城を見た。
「双子とは言え、婚約者の私を間違えるだなんて…。」
「お爺様には私からこのお話は無かった事に、と伝えておきますわ。」
嬉しそうに言った。
まだ、続きます・・・