2:異変
『最近、変な声が聞こえるんだよね。』
『幽霊とか見た。』
ワイドショウでは最近起き始めた現象の評論がされていた。
幻聴や幻覚の症状を訴える人が増えていると言う内容のものだ。
医者も、どこかの大学の教授も結論には達せず同じ事を言っている。
「適当な事言ってんじゃねぇよ。」
携帯でテレビを見ながら呟いた。
暖かい風が吹いている。
「シュウ?何か言ったか?」
屋上の下を見ていた男子生徒が尋ねた。
「幻聴でも幻覚でもねぇ。わかんねぇけど、確かに、いるんだ。」
屋上で仰向けに寝転び、爽やかな青い空を眺めた。
雲が動いている。
「え?何?」
キィィィィィィイイイイィイィィィィィ
突然の高音。
「なっ!?何だこの音!!?」
「何何何?音って??俺聞こえないけど?」
シュウは飛び起きて音のする方向へ走った。
屋上の北、フェンスの所まで走って下を見た。
下ではこの高音が聞こえる人と聞こえない人がいるようで、混乱していた。
《逃げろ》
誰かが言った気がした。
シュウは振り返って男子生徒へ訊ねた。
「今、何か言ったか?」
「はぁ?何も言ってないけど…?」
「逃げろって。」
「は?」
誰かは分からない。だが、本能的にシュウは駆け出した。
「お前ら早く逃げろ!!いいな!」
屋上を飛び出し階段を駆け下りる。
途中、何人かの生徒に校舎から急いで逃げるように言ったが信じてくれなかった。
職員室へ走り、担任へ訴えたが、
「妄想している暇があったら勉強しろ。」
と言われた。
他にもシュウのように訴えに来た生徒がいるが相手にされていない。
《逃げろ》
再び声がした。
「ほらっ!先生にも聞こえたでしょ?今逃げろって。」
眼鏡をかけた細身の男子生徒が叫んだ。
暫くして職員室中に笑いが起こった。
「おいおい、寝言は寝てから言えよ。お前らが口裏合わせたって、ネタはバレてるんだからな。」
「そうよ。こんな事してないで教室に戻りなさい。」
「お前たち将来は役者になると…いい…?」
カタカタカタカタカタカタカタカタ
小さな揺れだった。
「やだ。地震?」
職員室中の目がシュウと眼鏡の生徒へ向けられた。
その目は次第に恐怖の色へと染まっていった。
「行こう。」
眼鏡の生徒に引かれて、慌てるように職員室を出た。
揺れは止まらないが、小さな揺れのままだ。
「何だよ、離せよ。」
引っ張られていた腕を振り払った。
「あ、ごめん。…とりあえず外へ出よう。この揺れは…」
「お前何か知っているのか?」
「お前じゃない。御幸賢人だ。あんたは?」
「俺は高城秀。シュウでいい。」
暫くの沈黙。
「名字で呼ぶな。賢人で。」
「…名字て、みゆき…あ。なるほど。了解した。」
賢人は中指で眼鏡の位置を直した。
揺れが小さい為か、生徒たちはこの状況を楽しんでいるようだった。
教師たちの誘導により、全校生徒がが校庭へ出た頃には揺れは止まっていた。
年に2度行われる避難訓練の成果はあまり出なかったようだ。
空には飛行機雲ではない一筋の雲があった。
まだまだ続きますです・・・