1:研究室の夜
そこは人里はなれた山奥にある大きな建物。
深緑の木々とは不釣合いの、打ちっぱなしのコンクリート壁が異様な威圧感を放っている。
【プランツコーポレーション研究所】
国内最大手の製薬会社であり、重役は全て身内の言わば同族会社だ。
一台の車が研究所の入り口で停まった。
ウィィィン
運転席側の窓が下がった。
「おやっさん!おやっさん、いるぅ?」
ゲートの横にある小さな建物の窓から初老の警備員が顔を出した。
「おや、お疲れ様。今日は日曜だってのに、ご苦労様だねぇ。」
車の主は「そうなのよ」と言って、助手席のビニール袋をがさがさ漁った。
「私は休みなんだけど、旦那が研究室に泊り込みでね。まぁ、私も研究が気になるし。」
「似たもの夫婦じゃな。研究熱心とは良い事、良い事。」
初老の警備員は微笑んだ。
「あ、そうそう。おやっさんにお土産〜。」
「ほう。何だろうね?」
ビニール袋を受け取って、中を覘いてみた。
「ほう、ほう。こりゃ晩酌の肴にもってこいだ。ありがとよ。」
車の主はニヤリと笑って、手を合わせた。
「…ねぇ?今日私が来た事は…」
「いいよ。こんな上等な肴貰っちゃぁ、断れないさ。」
「ホント!?ありがとー!」
「あいよ。さ、見つからない内に行っちゃいな。」
初老の警備員は手を振った。
長い廊下。
いくつものドアが等間隔で続いている。
【青井研究室】と札の掛かったドアの前で止まり、一息つく。
「ふぅ。」
両手を塞ぐビニール袋がガサガサ音を立てる。
左手に持った袋を床に置きドアノブを回した。
部屋の中は、一列に並んだデスクにパソコン、ちょっとした応接用ソファとテーブル、そして小さな給湯室。
一見すると、まるでどこかのオフィスの様な一室である。
「っふぅ…完成…だ。」
椅子の背もたれに寄りかかって伸びをした。
「んうぅーぅ、はぁぁ…あ?」
背もたれに寄りかかったまま、伸びの勢いで後ろを見た。
そこには、Tシャツに膝丈のデニムのパンツを穿いた、見慣れた女の姿があった。
「ふふっ。完成おめでと。」
部屋へ入り、両手を塞ぐ荷物をドサっとソファへ放り出し、手を擦りながら辺りを見回した。
「相変わらず、とっ散らかってるわねー。父さん。」
並んだデスクの上は分厚い本と書類がごちゃごちゃに積み重ねられ、ソファは脱ぎ捨てられたヨレヨレの服が占領し、テーブルは2日前の新聞やら何やらで散乱していた。
「そうかぁ?キレイなほうだぞ?」
ボサボサの髪を掻きながら部屋を見渡し、シレっと言ってのけた。
「どこがぁ!?机の上はごっちゃだし、ってしかも資料と報告書混ざってるしぃ。あーもう、服は脱ぎっぱなし?鞄の中に入れてよね。それに食べっぱなしっ!まぁ?食べ残しが無いだけマシだけどねー。」
腰に手を当てマシンガンのように言い放った。
「んもうっ。それでも青井研究室室長の青井剛なの?娘としてコレは有り得ないわ。」
「いやはや、どうにも時間が無くてね…夏海が来たって事は、今日は日曜か。」
頭を掻きながら、のそりと立ち上がった。
「私片付けちゃうから、その間に父さんはお茶入れといて。」
夏海はさっさと片付けを始めた。
読みづらくてごめんなさい・・・