レリアーノは寝ている間に話を進められる その2
「……さい。起きなさい。交代の時間よ」
「ん? んん。……分かった」
身体を揺すられているのを感じながら、レリアーノはゆっくりと目を開けた。
追放を告げられてからまだ3日しか経っておらず、精神的な疲労がここにきて一気にやってきたようであり、なかなかスッキリとしないため生活魔法で桶に水を溜めると勢いよく顔を洗う。
「ふう。すっきりした。ごめん。ちょっと寝過ごしたよな?」
「爺さんと色々と話が出来たから気にしないで。後は朝までよろしくね。それと爺さんからしっかりと話を聞いておきなさいよ。今後のために必要な知識をいっぱい持っていたわ。じゃあおやすみ」
ルクアは軽く欠伸をしながら、今までレリアーノが眠っていた毛布を借りると横になると寝息を立て始めた。
一瞬で眠りについたルクアを見ながら自分と同じように疲れていたのだろうと、レリアーノはもう一枚毛布を取り出してかける。
重ねられた毛布の温かさに微笑みを浮かべているルクアを見ながら、レリアーノはマリウスのもとに向かった。
「爺さんは寝なくてもいいのかい?」
「ほっほっほ。儂の心配ならせんでもええ。言ったであろうが。儂は冒険者として名を馳せていたと。これくらいの徹夜なぞなんともないわい。さあ、こっちにきて座らんか。それでじゃな――」
気軽に話しかけてきたレリアーノに、マリウスは軽く笑いながら問題ないと伝えた。
そして、温めていたコーヒーを手渡しながら、軽い世間話をしながら温かいコーヒーを飲んでリラックスしたレリアーノに、マリウスが真剣な表情で低い声になった。
「少し説明してやろうかの」
「な、なにをだよ」
マリウスの表情を受けてレリアーノが思わず息をのむ。
「ふぉふぉふぉ。そんな緊張せんでもよい。お主のスキルについてじゃからのー。ルクア嬢ちゃんから話は聞いておる。収縮拡張スキルじゃな。お前さんが持っているのは間違いなくレアスキルじゃ。使いようによっては最強のスキルとなる」
「さ、最強のスキル?」
今まで役立たずと言われていたのが最強になると言われレリアーノは困惑していた。
「そうじゃ。最高のスキルじゃ。使い方なら儂が教えてやれる。ちいっとばかし魔法が得意じゃからのう」
マリウスの説明に徐々に胸が熱くなるのをレリアーノは感じており、自分の手を強く握ると頷いた。
「どうやってスキルを使えるのかを教えてください!」
「ほっほ。任せなさい。まずはスキルについて確認しようかの。今まではどう使っていたのじゃ?」
強い光を目に宿しているレリアーノに、マリウスは微笑みながら頷くと、今まではどうやってスキルを使っていたのかを確認する。
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「なるほどのー。酷い教え方をされたもんじゃな。それにしても教会は質が低下しておるんじゃないのかのー。これは王国に戻ったら改革が必要じゃな。いやいや。こっちの話じゃ」
レリアーノから聞いた内容に、マリウスが額を押さえながら深いため息を吐いていた。
教会では支援系のスキルだと教えられており、利用する際は魔力を全体に巡らせて使用すると説明を受けていたのである。
それではレリアーノのスキルである収縮拡張スキルは十分に発揮する事が出来ず、中途半端の状態にしかならいのは明白であった。
「しかも『魔力は一定の量を使用する』じゃと? そんな使い方をしておったら、そりゃあ役に立たんわ。とりあえず今までやっておった使い方を見せてくれんかの?」
「じゃあ影響のない身体強化を使ってみるぞ。……。『身体強化』」
呆れた表情になっているマリウスだったが、レリアーノにスキルを発動するように伝える。
身体強化を発動したレリアーノだが、いつものように微弱に体が強化されたのを感じる程度であり、1分もしないうちに強化が解除されたのを感じてマリウスに視線を向けた。
「こんな感じかな。もう強化は解除されているよ」
「ふむ。そんなもんじゃろうな。では今度は魔力を全て1か所に溜めてみなさい」
「魔力を溜めるだって? どうやって出来るんだそんなこと?」
「む。そこからか。魔力は身体を循環しておる。それを発動体に集めて放つのが攻撃魔法じゃ。回復魔法は傷がある場所に魔力を集中させる。坊主の場合は発動体に魔力を集中させた方がいいじゃろうな。魔力が集まるのを感覚で身に着けた方がええ。生活魔法は問題なく使えておるようじゃから問題ない」
マリウスはそういいながらレリアーノに杖を用意するように伝え、そして杖に魔力を集めるように指示を出す。普段から生活魔法を使っているレリアーノなので難しくないと思っていたが、意外と1か所に魔力を集めるのは至難の業であり悪戦苦闘をすることになる。
「なんでだ? 簡単にできると思っていたのに」
「仕方ないのー。少し手伝ってやろうかの」
眉間に皺を寄せながら魔力を操るのが出来ないレリアーノに、マリウスは軽く苦笑しつつ、レリアーノの手に自分の手を添えると軽く魔力を流し始めた。
枯れ木のように細い手を添えられ、何事かとマリウスを眺めていたレリアーノだったが、自分の手を伝って流れていく魔力に目を見開く。
魔力を利用するとはこういうことであると言わんばかりに綺麗な魔力が流れていく様子をレリアーノは感じ取っていた。
「こんな感じじゃな。夜の時間はたっぷりある。まずは今の感覚を覚えて、真似をしてみればええ」
「火の番は大丈夫なのか?」
「構わんよ。また手本が欲しいなら言えばええ。何度でも見せてるから安心せい。ここは魔物や盗賊が現れる場所でもないしのー。もし、現れたなら、儂が一撃で殲滅するから存分に練習をするがええ」
軽い感じで話すマリウスにレリアーノは頷きながら、先ほどの手本を思い出しつつ両手で杖を握ると真剣な表情で魔力を流して感覚を覚えこませようとする。
夜が明けるころには、ぎこちないながらも杖に魔力を集中させることに成功し大喜びするレリアーノの姿があった。