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レリアーノは温かい料理を振る舞う

「不思議そうな顔をしているレリアーノに説明をしてあげるわ。この爺さんは、普通は出来ない発動体を取り外しと、さらには別の魔石に付け替えるなんて非常識な事をしたの。しかもBランク相当の魔石と交換したのよ。信じられないわ」


「別にいいじゃろう。Bランク相当と目利きできるのはさすがは商人じゃが、大昔に冒険をした際に倒した魔物の残り物じゃ。売っても金貨10枚にもならんじゃろ」


「き、金貨10枚!?」


 あまりの金額にレリアーノが叫んで慌てて周囲を見渡す。大声を出して寝ている者を起こしたのではと思ったが、不思議なことに同乗者たちは誰も起きなかった。


 周囲に反応がないことにレリアーノはホッとしながら老人に向かって小声で話しかけた。


「爺さん。そんな高価な物をタダでもらうなんて――」


 そうレリアーノが老人に断りを入れようとすると、御者が休憩所に着いたから降りるようにと伝えてきた。


「今日はここで野営をするから降りてくれ。人数の確認を事前にしておくぞ。ん? お前ら以外は寝ているのか? 珍しいな。おーい、起きてくれ」


 馬車が止まり御者が中を確認してくる。


 一同が寝ているので御者の大き目の声を掛ける。


 人数を確認した御者は馬の手入れをするために離れた場所に移動し、乗っていた者は野営の準備を始めた。


 ここは街道沿いの野営場所であり、他にも馬車が止まっており、宿泊の準備をしているのが見えた。


「とりあえずは食事の準備をしましょう。爺さんの非常識をゆっくりと考えたいわ」


「じゃあ、俺はいつも料理を作っていたから、ルクアは寝る準備を頼む。料理はちょっと自信があるから任せてくれ」


 設置されているかまどの一つに火を入れると、レリアーノは今までと同じように調理を始め、食材を切りながら鍋に次々と投入していく。


 同じ馬車に乗っていた者や、別の場所で休憩している者達は、荷物を少しでも減らすために携帯食を食べており、鍋から漂ってくる匂いに釘付けになっていた。


「ほっほ。それにしても非常識な事をしておるのー。こんな美味そうな匂いをさせるなんて罪作りな奴じゃな。老い先短い儂にも恵んでくれんかのうー。金は払うぞい」


 先ほどまで話をしていた老人が皿を片手にやって来た。


 金を払ってでも欲しいと催促する様子に、レリアーノは苦笑しながら皿にスープを入れた。


 まだ本格的な寒さは来ていないとは言え十分に冷え込み、また長時間馬車に乗って身体はこわばっており、温かいスープは寒さを和らげ身体をほぐすにはちょうど良かった。


「あ、あの。よろしければ、この子にも分けてもらえないでしょうか?」


 小さな子供を抱えた女性が話しかけてきた。10才くらいに見える少女が目をキラキラさせて鍋の中を見ており、漂ってくる匂いに涎を垂らしている事にも気付いほどであった。


「もちろん――」


「そうね! じゃあ銅貨5枚で分けてあげるわ。爺さんは情報提供をしてくれたから、特別に銅貨3枚にしてあげる」


 レリアーノが了承して少女だけでなく、その母親にも無料で渡そうとしていたが、ルクアが遮るようにレリアーノの前に立つと大声で料金の説明を始めた。


「な、なんで金なんか取るんだよ」


 驚いているレリアーノを気にすることなく、ルクアは女性だけでなく、その背後で様子をうかがっていた一同に聞こえるように伝えたようであった。


「ちっ! 守銭奴が」


 金がかかると聞いた一人がルクアを睨みながら聞こえるように悪態を吐くと睨みつけてきた。


「なに? 金がないなら一滴すら分けないけど?」


 一歩も引かないルクアに、男は舌打ちしながら元の場所に戻って保存食を齧り始める。


 声をかけてきた女性も、お金がいると分かり困った顔をしていたが、少女の表情を見て苦笑いするとルクアに手渡そうとした。


「なんで金を取るんだ――」


「分からないの? この鍋は私達の晩ご飯なのよ。集まっていた全員にタダで恵んだら、私達の分は無くなるし、もらえなかった奴らから恨まれるのよ。レリアーノはそこまで分かっての発言よね?」


「ぐっ! で、でも、この子くらいは……」


 女性から銅貨を受け取ろうとしたルクアの手を握り咎めるつもりだったレリアーノだが、ルクアの目は反論はゆるさないと強い意志を持っていた。


 それそばで聞いていた老人は小さく頷き同意しながら、懐から銀貨2枚を取り出すとルクアに手渡す。


「ふぉふぉふぉ。では、儂が出してやろうかの。ん? いや、お嬢ちゃんだけじゃなく、母親であるあんたの分もじゃよ。銀貨2枚あればお代わりもいいじゃろう?」


 老人が銀貨2枚をルクアに手渡す。


 突然の申し出に母親が戸惑いながらも断ろうとするが、老人は首を軽く振り、子供だけに食べさせるのは美徳だが、自分の身体を削るのは駄目だと伝える。


「お嬢さんは母親である自分が我慢すればいいと思っておるじゃろう? じゃが、そんな事を続けておったら子供を残して倒れてしまうぞ。我が子の事を考えるなら、自分もしっかりと食べんといかん。あー、泣かんでよい。儂のほんの少しの気まぐれじゃ。お嬢さんの美しさに儂の目がくらんだだけじゃ」


「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」


「なら、儂の為に笑顔になってくれんかの。それが恩返しじゃ。娘さんも見ておるぞ」


 老人の言葉に母親が泣きながらも笑顔になる。突然泣き出した母親に、娘も一緒に泣きそうになっていた。


「いいところだけ持って行くなんて酷いじゃない。元々、その子達からお金を取るつもりなんてなかったのに。ああ言わないと――」


「分かっておるわい。銀貨はお前さん達の気遣いを横取りした分だと思ってくれたらいい」


「ふう。仕方ないわね。じゃあ、そっちの2人はここで食べて行きなさい。2人だけで旅をしているのでしょう? 同じ馬車に乗っていたものね。レリアーノ。スープを大盛りで入れてあげて」


 老人とルクアのやり取りを眺めていたレリアーノだったが、ルクアの言葉に慌てて親子と老人の席を作って大盛りのスープを渡す。


 少女は湯気が立っているスープを見て母親を見上げて、食べていいと言われると満面の笑みを浮かべながら猛烈な勢いで食べ始めた。


 そして母親も老人やレリアーノ達に感謝の言葉を伝えながらゆっくりと味わう様に食べ始める。


「儂も大盛りがいいのー」


「爺さんには肉を多めに入れてやるよ」


「ほっほっほ。それはそれは。さっきの魔石代じゃな」


 大盛りと言われ苦笑しながらもレリアーノは肉を多めに入れたスープを老人に渡す。


 老人は母娘の隣に座ると、身の上話などを聞きながら食事を始め、レリアーノたちにも自分の近くに座って食べるように伝える。


「ほりゃ。早くこっちで食べんか」


「そうだな、やっぱり飯はたくさんで食べる方が美味いな」


「そうね。たまにはいいわね。確認だけど前のパーティーでも旅先で料理をしていたの?」


 楽しそうに食事をしている風景を見ながらルクアがレリアーノにと書けると頷きが帰ってきた。


 依頼に向かう途中でも温かい料理をリーダーであったエドガーから求められることが多く、魔物が蔓延る場所であっても、すぐに料理が作れるように生活魔法を駆使しながら、火起こしや生活用水の確保を出来るようにしていた。


「そこまでやって評価されないなんて、ある意味凄いパーティーだったのね」


「その辺はあまり分からないな。それよりもルクアも早く食べないと。ワインも少し温めたから、いつもと違う味になっていて美味しいと思うぞ」


「リンゴと蜂蜜も入れてくれたの? 贅沢じゃない」


「寒い時は少しでも贅沢をした方がいいんだよ」


 スープとは違った温かさに身体の芯からほぐれてくる感じに、ルクアはレリアーノの肩を勢いよく叩いた。


「物凄く美味しいわ。でも蜂蜜とリンゴだけじゃないわよね? 他にもなにか入れているわよね?」


「よく分かったな。採取依頼の時に見つけた香辛料を少しだけ足してるんだ」


 美味しそうに飲でいるルクアをみて手応えを感じたレリアーノは、嬉しそうにしながら老人や少女の母親にも手渡した。


 温かい料理と飲み物に、老人と少女の母親は身体が芯からほぐれていくのを感じていた。

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