ギルドの前で待ち合わせをするレリアーノ
フーベルトとの待ち合わせ時間になり、レリアーノとルクアはギルドの前にやってきていた。
「防具屋のヨハンがあんなに面白い人物だとは思わなかったわ。本当に驚きよね」
「ハンスさんだぞ。名前くらいは覚えておいてやれよ。俺もおかしな人だとは思うけどな」
ハンスから渡されている引換証を見ながら、レリアーノがルクアに苦笑しつつ訂正する。レリアーノが眺めている引換証には『気に入らなかったら料金は払わなくていい』とまで書かれており、自分の作品に対するハンスの自信が伝わってくるように感じていた。
「これで嘘でも『気に入らない』と言ったらどうするつもりなんだハンスさんは」
「自分に見る目がなかったと思うだけじゃない? そのレリアーノが持っている杖をくれた武器屋の店主のローグもそうだったでしょ?」
何気に話している内容にレリアーノが驚愕の表情を浮かべる。
「あの武器屋の店主さんってローグさんって名前だったのか!?」
「なによ! 私と同類じゃない。いえ、私は名前を憶えてなかっただけど、レリアーノはローグの名前すら知らないじゃない。そっちの方が酷いわよ」
「覚えてないのも十分酷いぞ!」
ルクアのツッコミにレリアーノが思わず言葉に詰まる。そんなレリアーノの様子にルクアが一本取ったと言いたげな笑みを浮かべていると、フーベルト達がやってきた。
「朝から楽しそうだなお前ら」
フーベルトは軽装で弓と小剣を装備しており『遊撃の射術』とのイメージにぴったりであった。彼の後ろに控えている仲間たちも軽装な者が多く、機動力を中心としたパーティーであるようであった。
「まずは自己紹介だな。改めて『遊撃の射術』のリーダーであるフーベルトだ。こっちのやつらは俺とパーティーを組んでいる仲間だ」
「おいおい。フーベルト。説明が雑すぎるぞ」
名前すら紹介しないフーベルトに一人から苦笑気味のツッコミが入る。そして、そのまま自己紹介を始めた。
「俺は副リーダーのサイラスだ。こっちが斥候のミゲルに、回復役のクレア。それと大きな荷物を持っているのが……」
「ベックだ。ポーターだ。お前たちの荷物も一緒に持とうか?」
「いや、俺たちの荷物は自分で持つよ。ポーターの仕事を取っているつもりはない。ここで楽したら次の依頼の時にしんどいからな」
レリアーノが荷物を渡すのを拒否したことにベックの顔が歪んだが、説明を聞いて納得した顔になる。レリアーノの返答は当然であり、基本冒険者は自分の荷物は自身で持つのが常識であった。
「ベックは凄いのよ。スキル片付け上手を持っているんだから!」
「クレア。俺のスキルは収納最適化だと言っているだろうが」
回復役のクレアはメンバーの中で一番軽装であり、手に持っている発動体も小さなワンドであった。そして自分の事のように自慢するクレアにベックが訂正をいれる。怒っているように見えるが、ルクアを見るベックのは優しさに溢れており、パーティー内の関係は友好であるように見えた。
「まあ、ベックのスキルは本当に凄いんっすよ。あ、俺が斥候のミゲルっす。で、ベックの背負い袋には俺たちの命綱でもある飛び道具が収納されているっす。先頭になったらベックをしっかり守って欲しいっす」
「まあ、そんな感じで俺がリーダーだが、パーティーの中心はベックだ。こいつに何かあればパーティーは壊滅するから、レリアーノ達もベックをよろしく頼む」
「そんな弱点をペラペラと喋ってよかったの?」
フーベルトの言葉にルクアが呆れた表情を浮かべる。それもそのはずで、通常は弱点と呼ばれるものは隠しておくものである。今回のようにベックが弱点であり要だと情報が洩れると、引き抜きや真っ先に攻撃される可能性があった。
「ふっ。この町のやつらなら全員知っているんじゃないか? まあ、ベックが狙われそうなら俺たちが未然に防ぐし、引き抜きは絶対にされないから安心している」
自信満々に胸を張っているフーベルトを見ながらベックに視線を向けると、クレアにお菓子を渡している途中だった。
「なるほどね」
「だろ?」
お菓子を食べているクレアを見るベックの姿は先ほどとは違い、愛しい人を見る恋人の目であった。2人が仲良くしているなら問題ないわねと呟いたルクアが軽く手を合わせて注目を集める。
「じゃあ、私たちね。ルクアと楽しい仲間たちのリーダーであるルクアよ。そしてこっちがレリアーノよ」
「おい、いつからパーティー名が決まったんだよ」
ルクアの自己紹介にツッコミを入れるレリアーノ。そんなツッコミを気にすることなくルクアは紹介を続ける。
「私は商人だけど魔法が使えるわ。それとキャンプする際の安全確保に自信があるわ。レリアーノは自分で自己紹介をしてちょうだい」
ざっくりな説明にレリアーノが苦笑をしながら自己紹介を始める。
「ルクアとコンビを組んでいるレリアーノだ。俺は剣と魔法が使える。前衛でも後衛でもどちらでもいけるから、状況に合わせて動かせてもらう。あと、料理は得意だ」
レリアーノの自己紹介を受けてフーベルトの仲間たちが驚きの声を上げる。それほど複合職業は珍しく、レアな職業であった。
「まさか複合職業持ちに出会えるとはな」「私も初めて見た」「ベルトルトさんに認められた理由が分かるっす」
「料理が得意なのは素晴らしいな。俺もポーターとして料理は一通りは出来る。後で情報交換しよう。クレアにも食べさせたいからな」
「ベックも料理が得意なのか? だったら、俺のレシピと交換してくれよ」
それぞれが感想を述べている中、ポーターのベックはレリアーノが料理が得意との言葉に喰いついていた。そして、ルクアとフーベルトが止めるまでレリアーノとベックの料理談義は続くのだった。




