レリアーノは老人と出会う
準備が整ったレリアーノとルクアが街の門までやって来ると、武器屋の主人が遅れてやって来た。
「ほらよ。旅立ちの祝いに解体用のナイフを持っていきな」
「ありがとう。大事に使うよ」
「おう。帰ってきた時は、武器の使い勝手を聞かせてくれ」
「1年くらいで戻ってくるわ」
2人のやりとりを眺めていたルクアが会話に参加してくると、それを聞いた武器屋の店主は楽しみにしてるといいながら、最終チェックと言わんばかりにレリアーノの防具を整え始めた。
「武器も防具も俺の最高傑作だが、絶対に無理はするなよ」
「分かったよ。無理はしない」
ぶっきらぼうに告げる武器屋の店主にレリアーノが真面目に頷いているのを見ながらルクアが告げる。
「それじゃあ行くわよ。馬車の時間まであまりないわ」
「戻ったら一番に挨拶に行くからな!」
「おう! 気を付けてな」
レリアーノは武器屋の店主と握手を交わすと、乗り合い馬車が止まっている場所まで走る。
「いっちょ前の冒険者に見えるわよ」
「元々、冒険者だよ! でも武器屋の親父さんの所で買った武器防具だと言えるように頑張らないとな。これから向かうのは初級ダンジョンがある街なんだよな? 馬車で2週間くらいか」
「そうね。途中で2回乗り換えるわよ。でも、まずは次の街で装備の調子をみながら簡単な依頼を受けましょう」
2人は話をしながら馬車に向かう。
通常は護衛依頼を受けて馬車代を浮かすのだが、レリアーノがギルドから1週間の出入り禁止されており、受ける事が出来なかった。
そのため銀貨1枚を払って馬車に乗り込む。
乗客は2人が最後だったようで、御者は馬に鞭を入れると出発した。
「あんた達は冒険者かね?」
1人の老人が笑みを浮かべて話しかけてきた。
かなりの高齢で腰は曲がっており、深く刻まれた皺には人生の苦労が現れているようであった。
「これからダンジョンに挑戦しようと思っているんだ」
「ほっほっほ。若い者は元気があってええのう。……。まあ、隣にハイエルフのお嬢さんが居れば安心じゃな。じゃが十分に注意するんじゃぞ。一瞬の油断が生死を分けるでな」
笑顔で答えていたレリアーノに老人が小さな声で話していたが、その発言を聞いたルクアは目を見開いて慌てて老人の口を押さえる。
「隠蔽魔法を二重に掛けているのに! ちょっと! なにを言ってくれるのよ。どうして私が普通のエルフじゃなくて、ハイエルフだと分かったのよ?」
「ほごほご……」
「放すから、ちゃんと話しなさいよね」
苦しそうにルクアの手を叩いて放してもらうようにジェスチャーで伝える老人に、ルクアが警戒しながらゆっくりと手を離したのを見て、安堵のため息を吐いた老人が小声で返事をした。
「ふー。死ぬかと思ったわい。まだ70才を越えたばかりの若者を労ってくれんかね? ハイエルフのお嬢さんや。なんで分かったか説明しろじゃと? まあ、これでも昔は冒険者として名を馳せておったからのう。エルフの隠匿魔法は何度も見ておるんじゃよ。安心せい。誰にも言わんからのー。儂にかかれば年齢まで分かるぞ? それにしても坊主には言っておらんかったのか?」
「年齢は言わなくていいのよ! まあいいわ。もう少し落ち着いてから伝えようと思ったのよ。レリアーノ。私はハイエルフなの。この爺さんが言っているとおり、隠蔽魔法で姿を偽っているわ」
「ルクアがハイエルフだって?」
レリアーノは呆然としていた。エルフと呼ばれる精霊魔術と弓の達人が多いと言われる森の種族であり、特徴はとがった耳にスレンダーな身体、金髪碧眼で美形が多く、人間よりも長寿と言われている。
そして森から出る者は少なく、好奇心の強い若いエルフだけが冒険者や薬草を使った治療院を開いて生活をしていた。
基本的に森から出るエルフは総じて戦いに長けており、最初から高ランクのパーティーに所属している事が多かった。
そんなエルフをレリアーノは遠目に見た事はあったが、目の前にいるルクアはハイエルフだという。
エルフを統べる者と言われており、伝説の存在であるはずだった。
「黙っていたのは悪いと思っているわよ。次の街に着いたら伝えるつもりだったの。この爺さんの余計な一言さえなかったらね!」
「俺のレアスキルの話もよく考えたら聞いてないし、ルクアのハイエルフとか意味が分からないから、次の街で教えてくれると助かる」
ルクアの言葉にレリアーノも落ち着いてから教えて欲しいと伝えた。
ハイエルフの話は当面放置すると同意した2人に、再び老人が話しかけてきた。
「じじいが余計な世話を焼いたようじゃな。2人を見ていると信頼関係を築いてるのがよく分かる。それにしても坊主は面白いスキルを持っておるな」
「俺のスキルが分かるのか!?」
「あなた本当に何者?」
ハイエルフの話が落ち着いたと思ったら、老人が次なる爆弾を投げつけてくる。
「単なる隠居したじじいじゃよ。昔は冒険者として名を馳せておったが、今は名誉職として気楽な暮らしをしているだけの者じゃ。これから孫に会いにいく途中なんじゃよ」
2人の表情を見なながら楽しそうにしている老人だが、レリアーノをしばらく眺め、そして立てかけてある杖に視線を移した。
「これが坊主の発動体じゃな」
「まだ使った事はなくて、これから色々と試すんだけどな」
「なるほどのー。ふむふむ。武器としてはよいが、発動体としては残念な感じじゃな。ちょっと手助けしてやろうかの」
レリアーノから杖を受け取った老人は発動体をあっさりと取り外すと、慌てているレリアーノを見ながら、懐から宝石を取り出して元の発動体があった場所に埋め込むと詠唱を始めた。
「『汝に新たな役割をここに与えん』……。ふむ。こんなもんじゃろうな」
「簡単に魔石を交換したけど、お金は支わないわよ。押し売りにもほどがあるわ!」
「ほっほっほ。そんな怖い顔をせんでもいいじゃろう。金なんざ取るわけなかろうが。エルフの嬢ちゃんが坊主を気に入っているように、儂もレアスキルを持った坊主が気に入ったんじゃよ」
「2人して納得していないで説明してくれよ」
突然の老人の行動に睨みつけるルクアと飄々と笑っている老人と、なにが起こっているのか笑からずに口を尖らせているレリアーノだった。