村長と話をするレリアーノ
「戻ったぞ爺さん。腹減った!」
「無事に戻ったわよ。早くご飯を食べさせなさい!」
レリアーノとルクアが村長の家に戻り、さっそく食事を要求していた。
なぜか旅装束をしている村長に、どこかに出かけるのかと確認すると、これからベルトルトの元に向かって救援要請をするところだったと告げられた。
「それにしても遅かったのー。どうなったのかと心配しておったんじゃ」
レリアーノとルクアを見て、安堵のため息を吐きながら村長から心配していたと告げられる。
毎年、鉱石を採りに来るエルフたちは数時間で戻ってきており、1日以上経っても戻ってこない2人が心配でギルドに救出要請を出しに向かう準備をしていたと言われた。
「1日以上? そんなに経っていたんだな」
「確かにねー。あれだけ遺跡を探索しまくっていたら、それくらいはかかるものね。途中で休暇しながらだったから、睡眠を忘れていたわね。これは今後の課題ね」
「ん? 『あれだけの遺跡』じゃと? あの遺跡はそんなに広くなかったじゃろう?」
首を傾げている村長に、レリアーノが遺跡の話をする。
ただ、ルクアがハイエルフなのは内緒だと言われており、工場でハイエルフだと判断された話は省いて説明を始める。
「転移部屋から出て進んでいったら、なんか変な工場みたいな場所に出てさ。ゴーレムを作る工場だったみたいなんだよ。そこで守護者ゴーレムと戦闘になったんだけど、3体も出てきたから苦戦したよ。それに工場に到着するまでも、色々なゴーレムが出てきて全部戦闘になったからなー。本当にきつかった」
「なんと! そのようなことがあったのか……。毎年、誰もがすぐに戻ってくるから問題ないと思っておったわい。これは護衛を増やした方がいいかもしれんのう。今までは守護者ゴーレムが1体出てきて、それを倒して魔石を取り出せば終わりじゃった。道中の戦闘も数体のゴーレムが出るくらいじゃったからのう。それにしてもお主ら、本当に無事に戻って来てくれて良かったわい」
レリアーノの説明を聞いて、もっと早くにギルドに救援要請を出せばよかったと村長が青い顔で反省しながら今後の事を考えていた。
長年、村長としてエルフが遺跡に向かうのを見守っていたが、今回のような状況は誰からも報告をもらった事がなかった。
そのため、自分が管理している遺跡は、ランクの低い冒険者が依頼に慣れるためにやってくるお試しダンジョン程度に思っていたのである。
「これはベルトルト様に伝えておかないといかんのー。あの遺跡の危険度ランクを上げてもらわんと」
「それだったら私が話をしておくわよ。ふっふっふ。これでベルトルトとの対応が優位に立てそうね」
村長の独り言を聞いたルクアが、自分が話をするから心配するなと、満面の笑みを浮かべて話しかけてきた。
ルクアの笑顔に物凄く嫌な予感がした村長が遠慮気味に断ろうとしたが、どのみちギルドへの報告義務はあり、また実際に体験した者が語る方が信ぴょう性があると言われると頷くしかなった。
「分かったわい。ではルクア殿にお願いしようかの。『しばらくは村の者で遺跡は監視しておりますから安心して欲しい』とベルトルト様に伝えといてくれんか?」
「分かったよ! 俺とルクアで、ベルトルトさんにちゃんと説明しておくから安心してくれよ。それよりも飯にしようぜ! 腹いっぱい食べて寝て、早く魔力を回復させたいんだよ」
「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃな。では、婆さんが腕を振るった絶品料理を用意してもらおうかの」
レリアーノの言葉に村長は笑ると、さっそく料理の準備をするから風呂にでも入って休むようにと伝えられる。
この世界では水が豊富にあり、また魔法でお湯の用意が出来るので、一般家庭にもお風呂は常設されていた。
「石鹸もあるの?」
「あたりまえじゃ。冒険者たちが遺跡から戻ってきたら一番に風呂に入ってもらっておる。それが村長の役目でもあるからのー。食事の時に遺跡の内容を詳しく話してくれ。色々なゴーレムがいた話を中心に聞きたいのー」
今後の対応を検討する上でもゴーレムの情報が欲しいとの村長の言葉にルクアの目が怪しく光る。
「へー。冒険者から情報をもらおうなんて言うからには分かっているわよね?」
「分かっておるわい。その話はお嬢さんとすればいいんじゃろ?」
「ルクアで良いわよ。殿も様も必要ないわ。もちろん、レリアーノも呼び捨てにしてね」
「ほっほっほ。ではルクアと商談はさせてもらおうかの。先にレリアーノは風呂にでも入ってくるがええ。その間にルクアと話をしておくからの」
村長がレリアーノに風呂に行くように告げ、そしてルクアを見るとニヤリと笑った。
そんなルクアも商人の目になっており、これから商談バトルが始まりそうだと感じたレリアーノは苦笑しながら、自分では役に立たないと風呂場に向かった。
「こちらが着替えですよ」
「ありがとうございます」
村長の妻だと名乗った老婆がレリアーノを風呂まで案内してくれた。
温厚な表情を浮かべており、レリアーノをまるで孫のように扱い、優しく対応をしてくれた。
「それにしても大変でしたでしょう? ゆっくりと温まってくださいね。お爺さんはしばらく商談するようだから。あんなに楽しそうなお爺さんは見るのは久しぶりですよ。よっぽどあなた達の事を気に入ったのでしょうね」
「ルクアと交渉するってなった時の顔は楽しそうにしてたもんな。まあ、難しいことは2人に任せて、その間に俺はゆっくりとお風呂に入るよ」
微笑ましそうにしている老婆にレリアーノは理解できないとの顔をすると、老婆が用意した着替えを持って風呂場で至福のひと時を過ごすのだった。




