追いかけられるレリアーノ(後)
時間は少し遡る。
扉を開け、中に入ったレリアーノとルクアの目に入ってきたのは不思議な道具が並んでおり、まるで工場のような場所であった。
「なにここ? なにを作る場所なのかしら?」
「かなり大きな工場だな。おい、なにか出てきたぞ。警戒した方がいいな」
レリアーノが指をさした場所から大きな塊がレーンに乗ってやってきた。そして2人に近付くにつれて、部品が追加されていき人の形になっていく。
「へー。こうやってゴーレムが作られていたのね。でも、全然動かないわね。まあ、私の直感が、このゴーレムには危険がないと告げているわ。エルフである私の勘を信じなさい」
「勘って……。まあ、信じるけどさ」
人型になった石ゴーレムだが、2人を見ても微動だにせず直立不動であり、なにか命令を待っているようにも見えた。
そして数が3体まで増えたタイミングを待っていたかのように部屋に声が響き渡った。
『お帰りなさいませ。マスターの認証コードを提示してください』
「認証コード? マスターって誰の事かしら? それにしても、どこから声が聞こえているの?」
ルクアが首を傾げている中、レリアーノは杖を構え、いつでも魔法が撃てるように警戒する。
『認証コードをお願いします。……。未確認。再度、認証コードを求めます。……。未確認。再度、認証コードを求めます』
しばらく認証コードを要求する声が部屋に流れていたが、5回を超えた時点で部屋に警報音が鳴り響いた。
『ハイエルフである事は確認されましたが、認証コードを提示されないため、マスターだと判断が出来ません。このままでは不法侵入者として判断することになります。警報を解除したい場合は認証コードを早急に提示してください。……。認証コードが提示されませんでした。不法侵入者と断定します。早急に退去を命じます。10秒以内に退去行動を起こさないと排除します』
「ねえ。ちょっとまずい感じがしない?」
「そうだな。すぐに移動を始めた方が――」
部屋に鳴り響く警告音と、告げられている内容にルクアの顔が険しくなり、レリアーノも早急に移動をしたほうがいいと話しかけたが、そうこうしているうちに10秒が経過してしまった。
『10秒経過しました。退去しないため、2名を不法侵入者として定め強制排除します。命令発動。守護者は侵入者を排除せよ』
部屋に響き渡る声に反応するように3体のゴーレムが動き始めた。
「やばい! 絶対にやばい! 早く逃げよう」
「そ、そうね。色々と気になる点はあるけど逃げましょう!」
守護者ゴーレム3体が2人に向かって近付いきており、その手には岩が握られ大きさも徐々に大きくなっていた。
「あれは絶対に投げる気だ!」
「ちょっと、レリアーノ! なんとかしてよ。私を守ってくれるんでしょ?」
「無茶言うなよ! 3体だぞ! まずは距離を取ってから反撃だ。ほら、走るぞ!」
レリアーノの胴体ほどもある大きさの岩を放り投げてくる守護者ゴーレム。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「ルクア!」
向かって一直線に飛んでくる岩に思わず悲鳴を上げるルクアだったが、寸前のところで身体強化が間に合ったレリアーノが横抱きにして回避する。
「助かったわ!」
「いいから! 走るぞ!」
2体目の守護者ゴーレムが岩を投げる動作をしているのを確認したレリアーノが、ルクアの腕を引っ張って走りだした。
そしてしばらく逃げ回った後、レリアーノがライトニングレインを撃ち放つ事でゴーレムが倒されるのであった。
◇□◇□◇□
「ふふふ。後、何体か来ないかしら?」
「やめてくれ! 本気で魔力がないんだよ! いや、魔力があっても嫌だぞ」
魔石を3個抱きしめながらルクアが含み笑いをしつつ呟いているのを、レリアーノがギョッとした表情を浮かべながらツッコみを入れた。
「冗談よ。さすがに私も限界に近いわ。でも、どうやったら脱出できるのかしらね?」
「笑えない冗談はやめてくれ」
レリアーノは大きくため息を吐きながら魔力残量を計算していたが、どれだけひねり出したとしても身体強化1回分しかないようであった。
「それにしてもどこなのかしら? 結構な距離を走ったわね」
「そうだな。あれだけ走り回ったからマッピングの意味がなくなったな」
せっかく完成していたマッピングだが現在地が分からないため、役に立たないようであった。
「……。おい、ルクア。壁が壊れて通路が出てきたみたいだぞ」
「まさか隠し通路? そんなわけないわね。ゴーレムの投石で偶然発見できた感じね」
レリアーノが守護者ゴーレムの投石跡に通路を見つけるとルクアも一緒に確認する。
どうやら別の場所につながっているようで、新たにマッピングをしながら進んで行く2人がどこかで見た事のある地形だと思いながら進んでいくと、敵に遭遇することなく教会まで戻ってこれた。
「結局、さっきの場所は完全に別の場所だったんだろうな。まあ、無事に帰ってこれて良かったよ。魔力が完全に枯渇しているかな。本当に助かった」
「そうね。私がハイエルフだってのが関係あったのかもね。マスターとか言われてたもの。認証コードを持っていたらなー。ひょっとしたらゴーレムを生産できたまもね。そうしたらもっと稼げたかもしれないのに残念だわ」
悔しそうに呟ているルクアにレリアーノは苦笑を浮かべるしかなかった。
2人は結局、分からずじまいのまま遺跡を後にする事になる。
実際は最初の転移部屋でエルフとハイエルフを分ける仕様になっており、ギルドで教会と呼ばれている場所は太古のゴーレム製造工場であった。
ルクアがハイエルフの森から飛び出してから100年ほどしか経っておらず、当時の古代文明がゴーレムを使役していたのを知らなかった。
マスターと呼ばれていた者はルクアと同じハイエルフであったが同じように変わり者であり、精霊魔法だけでなく全ての魔法に通じており、その知識と経験と技術をもって古代文明でゴーレム販売をしていた。
そして古代文明は滅び、ゴーレムを作っていたハイエルフもこの地を去り、残ったのは工場だけであった。




