戦いを続けるレリアーノ
「ふー。これで何体目だ? キリがないな」
「そうね。もう30体は倒したし、戦闘回数は10回以上はこなしているわね。レリアーノは魔力体力ともに大丈夫なの?」
泥のゴーレムに止めを刺したレリアーノが汗を拭きながら呟いていると、ルクアが詳細な数を伝えながらレリアーノのコンディションを確認してきた。
「ああ。大丈夫だ。雑用係で鍛えられた体力と、最近の特訓で魔力は増えているからな」
「それは心強いわね。私は疲れたから早く休憩がしたいわ」
「いや、そう言われれば俺も休みたいけどさ……」
最初の戦闘から数時間が経過しており、レリアーノは強がりを言っていたがルクアは率直に答える。
それほど2人の疲労は積み重なっていた。
「それにしてもギルドでもらった情報と違い過ぎない? 守護者がいるだけじゃなかったの?」
「多少の魔物が出るかもとは聞いていたけど……。ここってクレアさんからもらった地図にも書かれてない場所だよな? 間違った地図が渡されたわけじゃないと思うけど」
戦闘が終了したレリアーノとルクアが軽く息を整えながら休憩をするために床に座る。
「ほら。これで持ってきた飲み物は最後になるぞ」
「村長にもらった食べ物もこれで終わりね」
飲み物をルクアに手渡し、レリアーノも喉を潤しながら手元の地図を眺める。
それはギルドの受付嬢ルクアからもらった遺跡の見取り図であり、二人して眺めていたが今まで走破してきた部屋や通路とは全く違うものが描かれていた。
「第一、ここまで広いなんて想定外よ。私が無限収納のスキルを持っているから食料と水の心配はないけど、普通の冒険者たちなら、かなり困ったことになっていたわね」
「そうだな。本当にルクアとコンビを組んでいて良かったよ。どうする? 先に進むか? それとも本格的な休憩にするか?」
「そうね。休憩を入れながら情報を整理しましょ」
レリアーノの提案にルクアが小さく頷くと、飲み物だけでなく無限収納から干し肉やパンを取り出し、周囲を警戒しながら休憩を始める。
「転移した部屋から新たに地図を描いているが全く違うよな?」
「ひょっとして別の場所に転移させられたのかしら? 毎年、エルフが鉱石を採りに来るのよね? でも誰もギルドに報告をしていないってことでしょ。なら、今回が初めての現象になるわね」
休憩しながら先ほどのマッピングを眺めるレリアーノとルクアだったが、これ以上は考えても答えが出ないので、先に進むことを決めると、レリアーノは手に持っていた干し肉を口に放り込み立ち上がった。
「行こう。あと何回戦うかは分からないけど、俺がルクアを守り切ってみせるから安心してくれ」
「ふふっ。頼りにしているわよ」
力強く宣言するレリアーノにルクアは微笑みながら立ち上がった。
◇□◇□◇□
「どうやら、ここが最後の部屋らしいな」
「そうね。まさかここまで彷徨うことになるとは思わなかったわ……」
マッピングしている地図を眺めながら、レリアーノとルクアがこれで最後になるであろう休憩をしていた。
先ほどの休憩の後も戦闘は続いており、様々な種類のゴーレムと戦っており、また宝箱を何個か見つけるなど、収穫としてはなかなかのものであったが、二人ともさすがに疲れがピークになりつつあった。
「さすがに疲れたわ」
「そうね。でもこれできっと最後よ。間取り的に後はこの部屋だけのはずだから。もし、その先に通路があったら暴れるわよ」
「やめてくれよ。そんなことを言って、本当にそうだったらどうするんだよ?」
周囲に敵が居ないのを確認している2人は、心底疲れたように扉を見ながら話しをしていた。
「とりあえずゴーレムの強さが大したことなかったから良かったけどな」
「そうね。戦闘用のゴーレムっていうよりは、運搬や害虫駆除レベルのゴーレムで攻撃も単調だったものね」
今までの戦闘を思い出しながら話していた二人だが、体力と魔力が回復したのを確認して頷きあうと扉を開けて中に入った。
「んー。広いけど普通の部屋ね。それに他に扉もないようね」
「よし! 後は守護者との戦闘かな? 魔力は杖に集めてあるから最初から飛ばしていけるぜ」
中に入った二人が油断せずに周囲を警戒していると、地面がゆっくりと振動を始めていることに気付いた。
「ビンゴみたいね。ほら来るわよ。私にも身体強化をお願い」
「分かった」
部屋の中央で徐々に石が積みあがっていき、人型のゴーレムが現れる。
そして二人を確認すると、ゆっくりと動き出した。
「お前の相手は俺だ!」
レリアーノの叫びに反応するようにゴーレムの腕が上がると、勢いよく振り下ろされた。
轟音と共に地響きが鳴ったが、そこにレリアーノは居らず、ゴーレムの横に素早く移動をすると杖を全力で叩きつけた。
「痛ってぇぇぇぇぇ! 物凄く硬いぞ。でも少し欠けてるから攻撃は通っている――あぶねっ!」
ゴーレムの右ひざに一撃を叩きこんで、破片を確認したレリアーノがあまりの硬さに顔をしかめながらも手ごたえを感じ、そこに油断が生じたようであった。
「気を付けなさい!」
「すまん! 助かった」
ルクアが呼び出した土の精霊が代わりに攻撃を受け、そして砕け散っていた。
痛みや疲れを感じないゴーレムは止まることなくレリアーノだけに攻撃を集中さる。
ルクアが視線に入っていないというよりも、攻撃が当たらないように気を付けているように見えた。
「なんで、俺ばっかり攻撃されるんだよ!」
「ひょっとしたらエルフには攻撃をしないのかもしれないわね」
そう言いながらルクアがゴーレムの前に飛び出すと両手を広げる。
「なっ! ルクア!」
レリアーノが突然飛び出してきたルクアに焦った表情になったが、ゴーレムはルクアを攻撃することなく振り上げていた拳を下すと戸惑ったような動きになる。
「やっぱり! レリアーノチャンスよ! 早く最大の一撃を打ち込みなさい!」
「わ、分かった。『我が手に集まれ雷の力! そして一つになりて撃ち放つ。ライトニングランス』」
杖にため込んでいた魔力を一気に収縮させると、石のゴーレムに向かってレリアーノが解き放つ。
一束にまとめられた雷の集まりは周囲に紫電を走らせながらゴーレムに向かっていく。
ゴブリンジェネラルの時とは違い、威力が高まっているライトニングランスは石のゴーレムの防御力を安々と突破した。
そしてレリアーノが叫ぶ。
「やったか!?」
レリアーノの言葉を受けた石のゴーレムは、動きが緩慢になりそのまま動かなくなった。




