遺跡にやって来たレリアーノ
「ほっほっほ。気を付けて遺跡に行ってきなさい。それとこれは昨日の謝罪の品じゃ。ちょっとからかいすぎたからのー。あの後、婆さんにこっぴどく叱られたわい」
朝早くに遺跡に向かおうと村長の家から出たレリアーノとルクアだったが、玄関の扉を開けた先に村長が立っているのを見て、レリアーノは仰天した表情でルクアは呆れた表情になっていた。
「いつから待っていたのよ?」
ルクアの苦笑交じりの問い掛けに、2時間ほど前だと笑いながら村長が袋をレリアーノに手渡すと中身を確認するように言ってきた。
レリアーノが中に見ると、2食分の食事や飲み物、その他にも果物やポーションなどが入っていた。
「婆さんに作ってもらった朝食と昼食じゃ。味は天下一品じゃから安心して食べてくれ。夕食も作って待っておるからの」
頑張ってくるんじゃぞと言いながら村長がレリアーノの肩を叩く。
「ありがとう。じゃあ行ってくるよ」
「さっさと帰ってくるから、夕食の準備をして待ってなさいよ!」
もう、昨日の事は忘れたと言わんばかりのルクアの態度に村長は苦笑を浮かべる。
そして村長と別れを告げたレリアーノとルクアが遺跡に向かう。
朝食は歩きながら食べられるようにと、パンに肉が挟まれており、レリアーノとルクアは周囲を警戒しながら交代で食事をする。
「美味い。肉に隠し味があるのは分かるんだけどなー。それが何かが分からない。ここを押さえられたら料理のレパートリーが広がるんだけどな。……駄目だ! 帰ったら作り方を絶対に教えてもらう!」
「ふふっ。レリアーノの料理を楽しみにしているわよ。でも、今は周囲の警戒も忘れないようにしなさいね」
肉に染み込んでいる調味料が気になって注意力散漫になっているレリアーノにルクアが苦笑を浮かべる。
「そうだな。もうすぐ遺跡の入口だからな」
「そうよ。食べる時は食べて護衛の時は護衛をする。それを忘れないでね。切り替えが大事なのよ。しっかりと私の事を守ってよね」
ルクアの言葉を聞きながら、気恥ずかしそうに頷いたレリアーノは目の前にある建物を見上げる。
かなり古い教会らしく、不思議な事に岩と一体化しているようであった。
「……。岩から教会が生えているみたいだな」
「そうね。教会の奥も遺跡になっているのでしょうね。どんな造りになっているのか楽しみだわ。建物だけを見ると1000年ほど前の教会だけど、何の神様を祀っているのかしら? あの当時なら確か……」
「『あの当時』って、ルクアはなにを覚えているんだよ? エルフって物凄く長命だからルクアの年齢……痛ってえぇぇぇ! なにすんだよ!」
「女性の年齢に触れるようなことを言うからでしょ」
「なんだよ。気になったから聞いただけじゃん」
思いっきりわき腹に抜き手を入れられたレリアーノが悶絶しながら抗議するが、ルクアからは澄ました表情で返事がくる。
自分から気になる話題を振っておききながら、ツッコみを入れるルクアに何か言いたげなレリアーノだったが、再び攻撃を受けそうだったので、口の中でもにょもにょと呟きながら教会の扉を開けた。
年に一度は開けているからか扉は錆びついておらず、扉は軋みながらゆっくりと開いた。
「へー。中も普通に教会なのね。ステンドガラスも傷んでないし、明るさも十分に取り込まれている。それに椅子も立派な物が備え付けられているじゃない。保存魔法でも掛けられているのかしら?」
教会に入ったルクアが鑑定をしながら周囲を眺めていた。
人が居ても不思議ではないくらいに掃除されており、埃もなく修繕が必要な場所も見受けられなかった。
このままミサでも始まるような荘厳さを感じながら、レリアーノがステンドグラスを眺めていると、満足したのかルクアが話しかけてきた。
「さてと。奥に行きましょうか。そこが守護者が守っているエリアになるはずよ。多分、生活区画がダンジョンみたいになっているんでしょうね」
スタスタと奥に向かっているルクアに慌てて後を付いていくレリアーノ。
「おい。先に行くなよ。急に襲われたら危ないだろう」
心配しているレリアーノの言葉にルクアは軽く笑いながら、ここは大丈夫だと自信満々に言い切る。
「その根拠はなんだよ?」
「Aランク冒険者の経験よ。危ない時は首筋がぞわぞわするの」
「まさか勘かよ。まあ、Aランク冒険者の経験があるからだろうな」
ルクアの根拠が勘であると聞かされたレリアーノが苦笑しながら、護衛としての任務を果たすためにルクアの前に出る。
「この扉開かないぞ?」
少し古めかしい扉を見つけたレリアーノが開けようとしたが、扉はびくともしなかった。
押しても引いても開かない扉に鍵穴はなく、錆びついていると思ったレリアーノだったが、ルクアがノブに手を掛けて引くと、何事もなかったかのように扉は開いた。
「どうやら、これがエルフじゃないと開かない扉なのね。もっと仰々しいかと思ったら普通の扉なんだもん。拍子抜けするわね。でもどうしてエルフじゃないと駄目なのかしら?」
そう言いながらルクアとレリアーノが部屋に入ると扉が突然閉まった。
「なんだ? 開かないぞ?」
「ダンジョンのギミックらしくていいじゃない。さあ、行くわよ」
焦っているレリアーノを気にすることなく、ルクアが進もうとするのを慌てて止めるレリアーノに、ルクアが不満げな顔になった。
「なによ?」
「だから俺が先頭なの。ルクアは背後を警戒していてくれ。まあ、今のところは一本道だから魔物に背後から襲われることはないと思うが」
すぐに発動させても良かったのだが遺跡の広さが分からないために、戦闘回数がどれほどになるか予測が付かないので、魔物が現れてから発動させようと魔力を待機状態にしていた。
「ゴーレムなどの魔法生物は気配がないからな。それとも守護者しかいないのか?」
「かもしれないわね。ほら次の扉よ。本当に一本道なのね」
今度の扉はレリアーノでも開くことが出来たので、ルクアをかばう様に用心しながら部屋に入る。
「なんだ? これって魔法陣?」
「ちょっと! これって転移魔法陣じゃない」
ルクアの台詞と共に魔法陣が光り輝き始める。
そして二人を包みむと光を失い、元の静寂した部屋に戻るのだった。




